チャンネルと初投稿と

夜月と色々を決めてから、3週間が経っていた。


「…よし、じゃあ、押すぞ…!」


夜月は祈るような面持ちで、コクコク、と頷いている。僕がアップロードボタンをクリックした瞬間が、僕たちのチャンネル「√」が始まった瞬間なのだった。




「チャンネル名、決めてきた?」


「うーん、いくつか考えてきたけど」


昨日は考えていたらいつの間にか時計が2時を回っていて、慌てて布団に入ったんだっけ。


名前の候補を書いたルーズリーフを夜月に渡す。


「夜月がこれいいなーってのがあったら教えて?僕はこの中だったらどれでもいいからさ」


「ほうほう、おけー」


と、いくつかの候補を見せて話し合った結果、チャンネル名は「√」に決まったのだった。「√」の由来は、ちょっと語るに恥ずかしいのだけど、夜月と僕、二人の歌と絵と、色々を掛け合わせて一つのチャンネル、動画だし、そういう風にしたいと思ったから。あと、√の綴りはrootだけれど異義に根、とか、根源、という意味もある。来てくれた人、聴いてくれた人が、根付いてくれたらいいな、と思ったのだ。


そう夜月に言うと、「何それめっちゃいいじゃーん!え、すごいそれカッコいいよ!」と言ってくれたので、「√」に決まったのだった。


そして、放課後や土日に録音収録に取り組み始めたんだけど…めちゃくちゃ苦労したのだ。カラオケとは訳が違うし、何回録り直しただろうか。MIXするとはいえ、やっぱりこだわりたいものだ。


それでも、苦労した分、良いものができた、と思いたい。夜月が何やら興奮気味だったので、大丈夫だと思いたいけど。


そして、夜月の描いたイラストは、本当にすごいものだった。WeTubeでおすすめに出てきたら、普通に気になって開くと思う。だからこそ、歌はがっかり、なんてことになりたくないので、それもあって頑張れたのかも。


今回歌った曲、僕たち「√」のはじめての歌ってみた、BUMP OF CHICKENの「アカシア」。暖かい、どこまでも暖かい曲だ。沢山の人に聴いてほしいし、届いてほしい。




アップロードのボタンをクリックした後、僕たちは静かにパソコンを閉じた。一仕事終えて、僕も夜月もちょっと気が抜けて、顔を見合わせて笑ってしまう。その後二人してソファーに背中を預けて、そのまま寝てしまったのだった。


だから、投稿した後、動画がどうなったか見るのが遅くなったのだけど…「まさかこんなことになるなんて」を自分が感じるなんて、まったくその時は思ってもなかったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る