再生回数と両親と
再生回数5万7820回。低評価が3で、高評価6851、コメント多数。チャンネル登録者は既に4800人を少し超えている。
「ねえ…これ…すごくね…?」
夜月は無言でコクコク。語彙力ないなった。
『すごく綺麗なイラスト、声、全部完璧!』
『この声はサイダー』
『まずイラストに惹かれて開いたら声にやられた』
『全力で古参ヅラします』
コメントを見ると、びっくりするくらいに褒められていて、びっくりしすぎてびっくりしてしまう。先生、語彙力が戻ってきません。
「お兄ちゃんの声やばいってみんな言ってるよ」
「夜月のイラストもめっちゃ褒められてるやん」
「「でへへへへ」」
と、思わず二人でにやけてしまう。
初めての動画投稿で、一日と経たない内にこの数字はすごいことだ、というのは知っている。この三週間で勉強のためにWetubeに投稿された沢山の歌ってみたを視聴したのだけど、超人気の歌い手さん達が華々しい数字を残す中で、再生回数が1万とか、5000に満たない歌ってみたは無数にあった。多分これほど見てもらえたのは、夜月のイラスト、サムネイルが目を引くものだったから。
「やばい、次へのやる気がすごく出てきた」
「ほんとだよね、さっきからめっちゃ絵描きたくなってるもん」
などと会話していると、リビングのドアが開いて、親父と母さんが入ってきた。
二人して僕たちとその目の前のパソコンに目をやり、「ああ、そういえば動画のこと言われたな」、という顔をする。
そうそう、二人に夜月と一緒に動画を作りたい、という話をしたところ、すごい応援されたのだった。
「あら、いいじゃない」「おう、まあ頑張れや」って感じで。
二人とも普通にWeTubeを見たりしているので、場合によってはお金が発生するかもしれないことは知っていた。「仮にそうなったらどうするの?」と母さんに聞かれたのだけど、それには夜月とこう答えた。
「著作権とかの関係で、収益を発生させると違法になる可能性があるから、万が一これから収益化できるまでになったとしても、申請しないよ」と。
オフボーカル、と言われるものが同時に投稿されている、ボカロのような楽曲だけを歌っているなら収益化も大丈夫なのだけど、そうじゃない曲も歌いたいよね、作りたいよね、と夜月と話していたのだ。
そもそもお金を目的に始めるわけじゃないよ、ということだ。そう親父と母さんに伝えると、少しホッとした顔で頷いてくれた。
親父と母さんは「ああ、出来上がった動画かな」という顔をした後、こう尋ねてきた。
「どうだった?500回くらい?最初ってそんなにいかないのかな」と。
僕と夜月は目を見合わせて、
「「いや、5万回」」
と答えたのだけど、二人は冗談だと思ったのだろう、笑っている。
「またまたぁ。でも、それくらい行けるといいわね」とは母さん。
「これで辞めるわけじゃないんだろ?頑張ってやってればそこまで辿り着けるかもな」とは親父。
どうにもカッチーン、なので、僕と夜月はパソコンをくるり、と一回転。
「「ほら、5万回」」
「「え"」」
……いや、でも、分かる。僕も最初にこの数字を見た時、その声出そうになったもん。なんか炎上でもしたんか、と逆に心配してしまったくらいだった。
「うぇおお…??すごいな、お前ら…」
謎の声を発しながら親父が僕らに言う。
「コメントでもいっぱい応援されてるのね…頑張りなさいね。…あら、このチャンネル名と概要欄、いいじゃない!」
と、母さん。そうそう、僕らのチャンネル名「√」の由来を、概要欄に書いておいたのだ。『歌を担当する、tamaとイラスト等の担当、yoruのユニットです。チャンネル名「√」には…』って。ちらほらその概要欄にも「いいね!」と言ってくれたコメントもあって、嬉しくなったものだ。
「うん、頑張るよ」と夜月が親父と母さんに言う。
うん、頑張らなきゃ。今すぐにでも次の動画について夜月と話したい。
沢山の人に自分の作品を見てもらえて、しかもそれが誉められたり、認められたり、次の作品を楽しみにしてもらえたりすることって、きっとすごく幸せなことだ。だから、次も全力を尽くせるのだと思う。
『次も楽しみにしてます!みんなチャンネル登録忘れんなよ!』というコメントがあったのだけど、そのコメントをしてくれた人一人だけのためにでも、僕と夜月は歌えるし、絵を描けるのだ。二人を掛けて、一つのチャンネル、一つの動画。
これが、僕たち「√」が本格的に始まった思いなのだった。
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作者より
ここまでが、一応のプロローグになるつもりです。
私にラノベの執筆経験がないうえ、本作は見切り発車で書き始めたところがありまして…今後作中に矛盾、齟齬が出てくるかもしれません。その時はご指摘頂けると幸いです。
では、また宜しくお願いします。
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