第2話 無理かな

 秋の虫が鳴いている、9月末。夏のカラッとした空気から、冷たく鼻の奥にツーンとくる季節がやってきた。

「はぁー」

 高橋ナコは大きなため息を自室いっぱいについていた。時刻は18時。窓からは夕暮れのオレンジ色ではなく、薄暗い色が窓から自室を覗き込む。

「暇だ・・・」

 人の暇とは何故こんなにも、体を重くするのだろうか。ナコは趣味のアプリをせず、天井の一点を見つめ悩んでいる。

 ナコはここ数日、同じ人と連続で会っている。もちろん、出会い系アプリで出会った人だ。

 男性から連絡は来ているが返事をせずに、ソファーを占領しているナコ。

 ナコにとっては連続して会う人は人生の中でレアはない。たまたま長く連絡をが長く続いているのだ。気づけばナコから返信を返さなくなり自然消滅になることがこの場合のパターンである。

 だが、高橋ナコは悩んでいる。なぜならとてもタイプなのだ。続ければいい? 簡単ではない。適当な関係を今までしていたナコは簡単に普通の関係には出来ないのである。

 ここで出てくる普通の関係とは、男女が社会というジャングル等で出会い、お互いに絆を深め付き合うことをさす。だが、男性とは出会い系アプリという世間体には冷たい目を向かれる出会いをし、デートという絆を深める好意は、ラブホという動物園で深めている。ちなみ10回以上は体を重ねているのだ。

 ナコは男性に好意を抱いているが、これは体の相性がいいからなのではないかと、彼女なりにふしだらな生活をしているがために、普通に考えられないのである。

 ナコがここまで悩んでいる決定打がある。男性からの「付き合おう」という告白だ。

「ん~~~~~~っ」

 クッションを強く抱き、狭いソファーで体を左右にぐらぐらと揺らしている。

 男性からの告白を素直に受ければいい話なのだが、ナコの今までの性格上、性格上難しいのであった。

 『体だよな』『性格? んー』『昼間あったことないし』『てか本名まだ教えてないな』『家にも招いたことない』

 など考えれば考えるほど原因がでてくるのだ。

「おなかすいた・・・」

 ナコは机に投げ出していた携帯をとり、出前アプリを開いた。そうだ、肉が食べたい。本日は日曜日であり、昼ぐらいに起きた。この時間まで何も食べてはいない。悩んでいたというより、体が重かったからだ。

 1800円。特選焼肉弁当を迷わず頼んだ。1時間待ちと書いてあったが本能で選んだ。ナコは携帯を用済みのようにソファーの後ろにあるベッドに投げ込んだ。

 頭の上にあるリモコンをとりテレビをつけた。別に見るわけではない。

 ナコの頭の中は今や空っぽ。昨晩、ナコの小学生からの友人である女子2名が家に突撃し、ナコは撃沈しているのだ。酒を浴びるようにのみ、女子トークを無限に撃ち、今やナコは戦いが終わった戦士なのである。

 部屋中にクイズ番組に出演している芸人の笑い声が響き渡る。ナコは耳障りの悪さを感じ、ころころと番組を変える。音がうるさいと感じ、テレビを消した。

 静かな部屋の中にいると、また考えてしまう。男性のこと。ルックスよし、職業よし、車よし。ナコの理想の男性。

 付き合おう。何度も彼女は「付き合おう」の返信をしようとするが、なぜか行動にできない。そう、体が重せいだ。

 重い上半身、下半身を起こし、ベッドに移動する。ベッドの真ん中に携帯が沈んでいる。ナコはベッドに腰掛けながらそっと手に取った。

 連絡を返そう。ナコが小さく唾を飲む。緊張の一瞬だ。

 指でタップしたのは、出会い系アプリ。『何してるの?』『今日会いませんか?』『・・・しょぼん』『こんにちは!社会人4年目の・・・』『呑み行こ!』『愛人関係に・・・』何十件も通知がたまっている。

 黒髪、今時の韓国系のようなセンターわけの髪型。細目でくしゃっと笑顔なアイコン。『始めまして!』と連絡が来ている。

 ナコはタップした。

『始めまして』

 ナコは軽やかに返信をする。ちなみにナコはフリック入力だ。

『返信もらえないとおもってました!』相手側の変死も早い。

『アイコンタイプです』とナコがうつとと『俺もNさんのアイコン好きです』ときた。

 次第に二人はたわいもない話をし、リアル連絡先を交換した。

「ふぅ・・・」

 ナコはまたしても深いため息をついた。

 ピンポーン。ナコの部屋のチャイムが鳴った。出前がきたのである。クレジット決算の玄関置きに設定したので、直接出前と遭遇はしない。便利な世の中だ。

 ナコは布団から軽快に起き上がり一言つぶやいた。

「無理かな・・・」

 玄関に向かうナコ。特選焼肉弁当を食べたら告白してきた男性に返事を出そう。

「焼肉焼肉♪」

 高橋ナコ今日も軽やかである。

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