ナマモノ

夏目柚

第1話 たまたまです

「お疲れ様でした」

 17時定時。私は就業のチャイムが鳴り終わったのち、周りの方に挨拶まじりに更衣室に向かった。制服を脱ぎ、私服へと着替える。

 ワイシャツ洗濯しよ。適当に畳み、ロッカーに置いてあるショッパー袋に詰める。

「ナコちゃんお疲れ様」 

 更衣室で帰り支度をしている私に話しかけたのは、同じ部署のおばさん。

「お疲れ様です。今日スーパーで卵安い日みたいですよ」 

「急いで帰らないと、なくなっちゃうわ。いい事聞いた。ナコちゃんはしっかりしてるわね」

 最寄りのスーパーの話題。私は今年で28歳になる。ここに勤めて7年。大手タイヤ工場の事務員をしている。

「私も狙っているので、急いで帰ります。お先失礼します」

 スーパーの話題はおばさんを切り抜ける、絶好の話題。一分一秒でもはやく会社から出たいが為の知識だ。勿論、買い物にも行きますけど。

 駐車場に誰よりも早く行き車に乗る。エンジンをかけ、走り出す。スーパーに寄って卵を買わないと。

 ブッブッ…。携帯が鳴る。

「ふふふん♪」

 車内に流れる音楽を口遊み《くちずさ》。私は最寄りのスーパーに向かった。

 

 卵も手に入り、自宅へ帰宅した。洗面所に向かいながら自分が着ている服を脱ぐ。部屋着に着替え、手洗うがいを済ませ、ソファーにダイブした。

鞄、玄関に置きっぱなしだ。重い体を起こし、玄関に置きっぱなしのスーパーの袋と鞄、ショッパー袋は洗面所に置き、またソファーに深く腰かける。

携帯を見ると、私が利用してる出会い系アプリの通知が出ている。

『今日とか会えますか?』

たまたま目に付いたメッセージに返信をする。連絡なんて60件くらいきている。返信なんてしてないのにログインとなればそれぐはいはくるのだ。

「い、い、で、す、よ」

今日は金曜日。明日は休み。呑みに行く予定もないから遊ぶかな。

『え!?本当ですか。僕20歳です。いくつですか?』

直ぐに返信が来た。

「27歳です、と」

20歳とか若いな。私もおばさんになったな。スーパーの袋から買った銀缶を出し、プシュッと開けた。泡が出てきた飲み口に素早く口をつけゴクンゴクンと勢いよく呑む。はー、コレよ。

返信が何回か続き、今日の夜22時に会うことになった。

彼のプロフィールは、ハンドルネームがK。年齢20歳。私の住んでる市の隣の市に住んでおり、車持ち。私がお酒を飲んでしまっているので、近くまで来てくれるとのことだった。顔写真も交換をした。友達何人かと写っている写真。一番清楚っぽい印象だ。髪は黒で、身長もまあまあ高い。太ってもいない。どちらかと言うとガリガリな印象だ。

「会う前に風呂入るか・・・」

開けた銀缶をゴクンゴクンと勢いよく呑み、缶を軽めに潰し、流しに持って行く。

私はよく出会い系アプリで男性と会う。暇つぶし。彼氏もいた時期も会ったけど、すぐ別れてしまう。私が悪いんだけど。

私の顔は普通。体型は太ってもないし細くもない。自分では標準と思っている。

浴室に入り、シャワーを浴びる。胸がいつもより早く感じる。知らない人と会うドキドキが堪らないのだ。


トントンッ。近所コンビニに駐車をしている乗用車の助手席側の窓をノックした。体をぐいっと覗く運転席の男性。慣れない会釈をしたので、私は車に乗った。

「土禁ですか?」

「普通に乗って大丈夫ですよ!」

彼は慌ただしく私の質問に答えた。

「こんばんは、初めまして。です」

「わあ、お姉さんだ」

20代ぽいだぼだぼな服装をして、髪型は刈り上げマッシュみたいな男性。写真よりも可愛い印象だ。

「これよかったら」

ホットココアと書いてあるペットボトルを頂いた。私はちなみに甘いのは苦手である。

「ありがと。これからどうする?」

「えっと、ドライブとかしますか」

ヤるなら早くヤリたいのだが。仕方があるまい。男性は若いのだから順序がある。

ブラブラと男性が運転をする。私が住んでるところは所謂、田舎なので夜の22時にもなれば車なんて通らない。

話をした。仕事のこと。趣味。よく行くお店。アプリのこと。

20分くらい走ったところで男性は「休みませんか?」と言ってきたので、そっと男性の太ももに右手を置き「いいよ」と返事をした。

飲み物や食べ物を調達しにコンビニ少しより10分程度で目的地に着いた。駐車をしてすぐ横の扉に入れば、あの定番の、ラブホに来たなと実感する曲がテレビから流れていた。

「お姉さん飲みますか?」

男性は買い物袋の中をガサゴソしながら、ソファーに腰掛けた。

私も隣にピッタリと座り、私が選んだチューハイを貰う。

「お姉さんって、好きなんですよね」

「なんで?」

「なんかエロいじゃないですか」

男性は私の体を下から上にゆっくり見てきた。今日はすぐ脱ぐと思い、ボディラインが見えるピッタリめなワンピースを着てきた。ヤル気満々です。

「そんなエロくないよ。経験が君より多いだけ」

「触っていいですか?」

男性は抱きついてきた。私の右肩に顔を埋め、手で私の耳を優しく愛撫する。

 耳元で催促をされたので、私も答えることにした。

事を済ませた私たちは、裸でベットに並んで話をしていた。

「ナナコさんはよくアプリするんですよね」

「するよ」

「どうして、俺を選んでくれたんですか?」

 私は男性と向かい合いの姿勢で少し離れていた。

 数センチ近づけば触れ合える距離。

 私は細身な男性の体に自分の体を埋め、意外としっかりしている胸板に顔をピッタリ貼り付けてた。

「どしてって?」

 少しひんやりしている。頬から伝わる男性の体熱が心地よい。

「理由ですよー。俺は、アイコンタイプだったんで絡んだんすけど」

 布団の中で足をゆっくり絡めながら私は言った。

「たまたまだよ。たまたま目に止まったから会ったんだよ」

 男性は少し残念がりながら私を優しく抱きしめてもう一回とおねだりをしてきたので、ダメと断りながら私は目を閉じ、男性の陰部を触った。

 出会い系アプリで女性が会う理由なんてだいたい、たまたまなんだと私は思う。

 

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