第2話【イヌクマ】

 皆さま、ご機嫌いかがでしょうか。司会の旭弐入造きょくにいるぞうです。

 今回もまた、このマーズ放送協会アウストラレ高原スタジオから、キャラクターさんに突撃インタビューをする愉快な映像を公開生放送で全国に向けてお届けして参りますよ。

 では現場へ向かっているアナウンサー、玄馬幾子げんばいくこを呼びましょう。


「現場の玄馬さーん!」

『あれっ、お箸は? わわ、あぎゃあーっ!』

「玄馬幾子さぁ――ん!」

『へっ、ああっ、はい!』

「玄馬さーん! 聞こえますかぁー!」

『ハイハーイ! 聞こえてますよ~』


 ああ、よかった、聞こえているようですね。

(またか! なにがお箸だよ。つーか、あいつ弁当ひっくり返しやがったな)


「えー、玄馬さん、今はどちらにいますか?」

『はい。わたしは今、ドアヌス渓谷の近くまできています』

「ええっ、またそこですか!?」

『はーい! 今日インタビューをさせて頂くことになっている総理大臣さんが、こちらでロケ中なんですよ~』

「まだそちらでのロケ、続いているのですか?」

『ハイハーイ、そうみたいですぅ~』

「そうですか。それでは早速インタビューのほう、お願いします」

『はぁーい! わっかりましたぁ~』


【画面内容が切り替わって、ドアヌス渓谷の近くにあるロケ地が映る】


「こんにちは、オオクマさん!」

「イヌクマだ!」

「え、え、あれ、台本まちがってますか?」

「そんなこと儂が知るものか!」

「あっ、はいスミマセンでした。では始めます、最初の質問。お名前は?」

「イヌクマ・チゲナベだ」

「オオクマ・シゲノブさんですね」

「だから違う! 儂の言葉をよく聞け!」

「はいスミマセン。では改めまして、お名前をフルネームでお願いします」

「儂の名前はイヌクマ・チゲナベだ」

「ああ、チゲナベさんですね、はいはい」

「ふん!」

「あの、怒ってらっしゃいます?」

「当たり前田屋の豚丼特盛つゆだく、生卵と豚汁つきセットだ!」

「はいスミマセン。大変失礼しました。えっと二つ目の質問、よろしいですか?」

「ああ、かまわん!」

「年齢は?」

「三十二歳だ」

「えっと、人だと、お幾つになりますか?」

「二百三十歳くらいだな」

「ええっ、意外とお歳を召されてますね~」

「まあ超老超犬だからな。だがしかし、いつも儂は元気だ」

「それはなによりです。はい、では三つ目の質問。種族は?」

「超犬だ」

「次の質問。出身地は?」

「ラベアティス連鎖クレーターだ」

「あ、共演されているジョンさんと同じですね。今日もジョンさん、ロケにこられてるのでしょうか?」

「いや、あいつはいない。ほとんど共演NG扱いなのだ」

「えっ、そうでしたか。でも、これ生放送ですよ、云っちゃっていいんですか?」

「かまわんだろう、たぶん」

「ジョンさんと、そんなに仲が悪いのでしょうか?」

「そんなことはない。あいつの爺さんの爺さんの爺さんのことは、すこぶる尊敬しているつもりなのだが、その子孫にあたるレモンとは共演NGと云うことになっているらしいのだ。それでスタッフが変な気を利かせておってな。余計なことをしくさってからに」

「へえ~、あ、でもジョンさんのお爺さんのお爺さんのお爺さんと云うのは、どんな方なのでしょうか?」

「ジョン・マンジュウと云う男だ」


【スタジオにいる旭弐の声が入ってくる】


『玄馬さーん』

「あ、はい?」

『玄馬さん、時間がないので、質問を続けて下さい』

「あ、はい判りました~」

「今のは誰だ?」

「上司です、いつもきつくて。これからは視聴率5パー増しで行く! なんて云ってくるんですぅ」


【幾子がイヌクマに、旭弐が小学生だった頃の写真を見せる】


「旭弐くんか」

「知ってますか?」

「教え子だ」


【ここで画面が切り替わり、スポンサーによるスマホを宣伝する映像が流れる】


「では、質問を続けます。学歴は?」

「都の西北・パスタ大学犬文学部哲学科比較犬類学専攻博士課程修了だ」

「あ、はい。超高学歴と云うことです。では、家族構成は?」

「独身だ」

「ご両親は?」

「死んだ。二人とも犬死いぬじにした」

「はい。では次、性格の特徴は?」

「厳格だ」

「あー、よく判ります。それでは、好きなものは?」

「カリーだ」

「えっと、辛口ですか?」

「そうだ。あとハヤシもあるでよ」

「特技は?」

「イヌクマ・ボウロだ」

「どんな技ですか?」

「儂はHPとMPがともに53万ある。MPを10使うだけで惑星を花火にできる」

「えっと、それは必殺技ですか?」

「猿の惑星の猿どもが束になってかかってきても必ず殲滅できる」

「宇宙最強なのですか?」

「そうだ」

「嫌いなものは?」

「猿だ」

「苦手なものは?」

「ない」

「好きな食べものと嫌いな食べものは?」

「好きな食べものはカリーとハヤシで、嫌いな食べものはネギ系全般だ」

「好きな色と嫌いな色は?」

「好きなのはカリー色とハヤシ色だ。嫌いなのは限りなく無色透明に近いネギ色だ」

「犬的に好きなのはどんな犬?」

「渋沢栄一みたいな犬だ」

「苦手なのはどんな犬?」

「山縣有朋みたいな犬だ」

「恋人にするならどんな人?」

「少なくともお前のようなバカ者でないまともな女だ」

「一番の友達は誰でしょうか? またどんな人でしょうか?」

「小説家の大宰台だいざいだいかな。すこぶる変なやつだ」

「私の住むマンションでお隣の部屋に住まわれてますよ」

「なんだと、今度サインをもらってきてくれ!」

「友達なのですよね?」

「わおん、しまった! 前言撤回する。次の質問に進んでくれ」

「なんでも願いが叶うとすれば、どうしますか?」

「儂は主役も脇役もそつなくこなせるので、再来年の放送予定になっておるらしいMHK大河ドラマ『渋沢栄一』で、栄一の父役を受けてやってもかまわん」

「渋沢栄一の父役はもう決まってますけど?」

「なんだと、そうだったのか!」

「はい、とっくに」

「誰がやるのだ?」

「大物俳優のチョコ棒さんです」

「おおそうか。かなり昔のことになるが、儂はチョコ棒と共演したことがある。大ヒットのアニメーション映画『もものき姫』の声優としてな」

「へえ~、そうなんですか。オオクマさんは、どんな役を担当されたのですか?」

「儂の名字はイヌクマだ!」

「スミマセン。イヌクマさんは、どの役の声を?」

「頭部をカタカタと鳴らして揺らすキャラクターのカタカタと云う声だ」

「ああ、はいはい。いましたね~、エキストラ的なのが」

「ふん!」

「あ、もう時間がなくなりそうです。なので、最後に一言お願いします。登場作品の宣伝をしてもいいですよ」

「儂が出ておるWEB小説、『朝昼夕のカリーなる教へ』に付随する話(ハヤシ)を読んでみれば後学のためになるぞ。きっと目から鱗がボロボロこぼれるはずだ。と云うか、そのシーンがあるのでな」

「どーもアリガトウございました。今回の突撃レポートはオオクマさんでした」

「こら、違うと云っておるだろう! バカ者めが!」

「あスミマセン。ええっと、それじゃスタジオにお返ししまーす!」


【マーズ放送協会アウストラレ高原スタジオ内が映る】

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