第101話 『告白のコンフェッション』

「玖ッ!!」


声を荒げて、東王子月千夜が角狩の方へと接近する。

彼女の化漿は、全身から黒い髪の毛の様な筋肉繊維を噴出しており、辛うじて鼻から下の所だけ、呼吸器官だけが継続する様に皮膚のままだ。


「退け、月千夜、邪魔だ」


そう告げると、角狩は処刑斧を振るい、東王子月千夜に向けて振るう。


「私はもう無理だ、駄目なんだ、私はもう、耐え切れない、苦しいんだ……」


「何を言っている、お前は」


「私と一緒に死んでくれ」


黒い筋肉繊維が一束に纏まると、拳の様な腕に変貌して角狩を殴り付ける。

真横から迫る手に、角狩は処刑斧の振り翳しを中断して防御をする。


「ッ!意味、分からないんだよ。なんで、俺とお前が、死ぬんだ」


「お前が好きだからだ」


「っ」


東王子月千夜は、戦線の最中に告白をした。


「お前」


「私は、お前の為に……いや、違う。私は、私の為に、東王子家を潰してしまった」


東王子家は現在、東王子月千夜が当主となっている。

それは、彼女以外の東王子家が相続不可能状態になっている為だ。

東王子月千夜は、自らの欲の為に、東王子家の悉くを殺害してしまったのだ。


「全てを壊せば、きっと、私は解放されると思っていた……けど違う、壊した先にあるのは枷だった。重く圧し掛かる、殺した人間の憎悪、悔恨、復讐、それが、私の体に纏わりついてしまった」


黒い繊維が伸びていく。

それは鋭利な鎌の様に変貌して、十二の鎌へとなると切っ先が角狩へと延びていく。


「私は愚かだ、最低な人間だ、だから……」


「一緒に死んでくれ?……ざけんな、お前」


角狩は怒りを込めて、処刑の斧を構える。

そして、一振りすると、処刑の斧は十二の鎌を一斉に切り崩した。


「……ッ」


その光景を見ていた岸辺玖。

その狩猟奇具の使い方を認識しつつある。


「お前、俺がお前の事を、分からないとでも思ってんのか?」


額に出来た傷を掻く。

黒い繊維を再び形成しなおして、槍の様な杭を作り出す。


「一緒に死んで欲しいんじゃないんだろ、お前は、そう言っているだけで、本心は別だ……お前は、俺に殺されたいんだろ?」


「ッ」


角狩の言葉に、東王子月千夜は狼狽した。

見抜かれている、自らの心の内を、知られている。

喜ばしい事だが、東王子月千夜は素直に喜べない。


「俺の事が好きなんだろ、だから好きな奴に殺されたいんだろ?浅はかな考えだ、そして何よりも、俺がお前の願いを叶えるワケがない」


処刑の斧を背中に背負って、狼狽する東王子月千夜を過ぎ去る。


「私は……私のせいで、人を……」


「欲望にカタチはねぇ。どんな結果だろうが、叶える為に尽力した。他の人間は批判するだろうが、俺はそうしねぇ……俺にとっての唯一無二は、お前だからだ」


その言葉を捨て吐いて、角狩は岸辺玖の元へと立つ。


「さあ、ノルマを果たせ、岸辺玖。どちらが上か、格を付けるぞ」

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幻術を操る化物によって主人公と幸せになる夢を見せられたヒロインは現実に戻ってから主人公に想いを寄せる現代ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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