第99話 『複製するクローン』

気怠そうに自らの額に出来た傷を親指で擦る、岸辺玖。


「狩魔先輩、なんで二人いるんすか?」


紀之國冥がそう聞いて、駱駝色のコートを着込む岸辺玖は言う。


「狩魔なんて、その名前で呼ぶヤツは、お前だけだろうな、紀之國」


「なんだお前、化物か?」


岸辺玖が立ち上がって、もう一人の岸辺玖に言う。


「化物はどちらかと言えばお前の方だろ……それに、今の俺は岸辺でも狩魔でもない……かどのかろ、それが俺の名前だ」


あくまでも岸辺玖を否定する角狩。


「俺は死んだ、死んで試作品として実験された。その内容が、肉体の一部から肉体を形成しなおすクローン計画だ。死後、俺の遺体は解剖された後、心臓と化石を摘出された。心臓と化石を媒介に肉体を形成し、そうして作られたのが試作、お前だ。岸辺玖」


「……そうか」


角狩はそう説明を加えて、岸辺玖は納得した。


「だが、所詮は試作だ。お前の情報を確認するに、記憶を失っている、それがクローン技術の弊害なのだろう……尤も、俺は別の任務で蘇生されたがな」


自らの胸に手を添えて、心音を確認する岸辺玖。


「なんだよ、その任務って」


「飢餓島の化物回収、そして、飢餓島の崩壊だ。それが、角麿に与えられた任務だ……奴は、俺を十六狩羅候補の一人として推薦したが、それはこの飢餓島に向かわせる為の方便らしい」


注射器を握り締めた角彩が、アタッシュケースに収納すると、それを締めて角狩の方へと近づく。


「狩さん、化物の遺伝子採取は完了しました」


「そうか、じゃあ……」


角狩は、この飢餓島を崩壊させようと思った。

その時だった。東王子月千夜が、角狩の方へと飛んで突っ込んでいく。


『玖ッ!!』


角狩は自らの狩猟奇具を取り出して、東王子月千夜に向ける。


「なんだ、月千夜」


『もう駄目なんだ、私と、共に死んでくれ……』


手斧の様に変形した狩猟奇具が東王子月千夜の突進を止める。


「……何があった?」


『私には、もう未来が無いんだ』


「要件を言え、詳しい話を―――」


最後まで言い切る事なく、地響きが地面を揺らすと同時、頭上から落ちて来るのは、複数の化物であった。

其処には、タトゥやバビロンも居りてきており、更には、鋼鉄に身を包んだ化物も出て来る。


「あ、討伐対象すよ、あれ」


「ッ、榊、色子ッお前」


夫々が複数の反応を示す最中。

階段から降りて来るワン丸と伏見清十郎の姿があった。

上層で戦闘を繰り広げていた為か、彼は体に傷を付けて負傷をしていた。


「大詰めだな」


角狩がそう告げて、狩猟奇具を構えた。

文字通り、一つのフロアに複数の化物と狩人、まさに大詰めであった。

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