第98話 『二人いるよドッペルゲンガー』
「玖ッ」
床に張り付けられた彼に向けて、伏見清十郎は『化漿』を突き刺す。
そして、肉体を変化させて四肢が回復すると、岸辺玖は足をもつれさせながら立ち上がらせる。
「クソ……助かった、清十郎」
岸辺玖の脳裏には怒りが湧いていた。
四肢を捥がれた事よりも、自分の意志に反してまるで玩具の様に扱われる事が何よりも怒りを過らせたのだ。
「で、あのロケットマンみたいなやつは誰だ?敵か?」
岸辺玖は狩衣を着込んだ狩人の方を指さして言う。
伏見清十郎は狩衣が誰なのか分からない様子だった。
それもそうだろう、その服装は全身を覆うフルアーマーであり、その体には凹凸と言うものがなく、男であるのか女であるのか判別に難しい姿だった。
「少なくとも、敵じゃない……と思うけど」
『……そうとは言えないよ』
足から炎を噴出させる狩人が、方向を岸辺玖に向けると共に接近し出した。
そして、岸辺玖に超高速で突撃して、壁に押し付ける。
「ッおぉぅ、敵か、テメェ!」
岸辺玖が背中から隻翼を引き出す。
壁を破壊してギロチンが噴き出すと、それを狩人の方へと上から下に落とす。
すると、床が破壊される。
そのまま落下していく岸辺玖と狩人。
いや、落ちて行くのは岸辺玖だけだった。
狩人は足から噴出させる事で空中での飛行を可能にしている。
だが、方向を下に向けて、岸辺玖の後を追う狩人。
『玖、一緒に、死んでくれっ』
悲しそうな声と共に、岸辺玖を押し付けて下層へと叩き付けられた。
そして、下層には夜行武光や、角狩、そして、紀之國冥の姿も残っている。
土煙が晴れると同時、岸辺玖の下半身は吹き飛んでいた。
しかし、近くに化物の遺体が転がっていた為に、それに向けて牙をたてると、無我夢中になって肉体を貪っていく。
「なんすかなんすかッ!?これはぁ……あ、え?」
地面へと落ちた岸辺玖を確認した紀之國冥。
そして、その顔を見た時、彼女は角狩と岸辺玖を交互に見合わせると。
「あれ。なんで、狩魔先輩が二人?」
そう告げた……岸辺玖には、まったくもって理解出来ない名前だったが。
角狩は、ヘルメット越しから頭部を掻いて、ヘルメットを外す。
「……お前が試作品か……」
ヘルメットが外れた姿を見て、岸辺玖は驚愕した。
角狩の顔面は、紛れもなく岸辺玖と同じ顔だったからだ。
「テメエ、なんだ……俺の顔を……」
「逆だ、お前が、俺の顔をしてるんだ」
そう角狩は告げて、近くに佇む狩人の方に顔を向けると。
「よう、久しぶりだな、月千夜」
狩衣姿の狩人を人目で見抜く。
それは、紛れもない岸辺玖であった。
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