第91話 『微塵切りミンチ』

その時だった。

爆ぜる音と共に、姫路音々に対する必滅の一撃を繰り出したタトゥの腕を弾く鉛弾。

それと同時に、滝の上から急速に落下すると共に、手に握り締める狩猟奇具を展開する老いた男性。


「神を斬り獣を卸し魔を断つ人の刃ッ!!『妖切ようせつ』ッ!!」


地面に着地すると共に、三メートル程の長身の刃が展開される。

切っ先に向かっていく毎に刃は細くなっており、最終的に切っ先は彫刻刀の様に細い刃となっている。


「紋身が居るとは驚きな、此処で出会って百年目、それ以上の年月を越せぬ様に此処で斬り殺してくれるっ!!」


唾を飛ばす勢いの怒声。

戦国時代からタイムスリップしたかの様な風貌である浅深一刀斎が三人の戦闘に割って入っていた。

タトゥは相変わらず面白そうに顔に笑みを浮かべているが両手を上げてまるでハリウッド映画の俳優が行うオーバーなリアクションをして見せた。


バビロンはその老人、浅深一刀斎を認識すると即座に岸辺玖を抱き寄せながらその場から逃走を図った。

恐らくは浅深一刀斎の実力を見抜いたのだろう。


「生かすと思うたかッ!人の皮を被る化物めがぁ!!」


狩猟奇具『妖切』をバビロンに向けて振るう。

三メートルの長身を持つ刀は、バビロンに向けて振るうと共に切っ先が伸びてバビロンの方へと向かっていく。


「むッ」


しかし、すぐ傍に居たタトゥが浅深一刀斎に向かってきたために、森林地帯に突っ込んだ刀身を縮める事無く力尽くで刀身の軌道を曲げて、タトゥの方に刃渡り二十メートルの刃を振り下ろす。


タトゥは浅深一刀斎が刀を縮めて攻撃すると思っていた。

その一瞬を突いて攻撃をしようと思っていたのだが、まさか刀身を伸ばして攻撃してくるとは想定外であった。


タトゥは身を屈めて回避するが、刀身が振り切る直前に浅深一刀斎は刀を回して冗談の構えになる。


「儂の通り名を知ってるか?」


十六狩羅が一人『刻狩り』

名の由来は、あらゆる化物を切り刻んだ事から付けられた。

十六狩羅が設立する前、若き浅深一刀斎が付けられた字は『微塵切り』。

悉くを切り刻む、狂暴な剣士として与えられた異名である。


太刀を下ろす。

タトゥは何とか回避行動に移るが、縦一直線に下ろした刃が、タトゥの片側の腕を三つ切断してしまう。


「――――」


それでも笑みを止める事の無いタトゥ。

地面を蹴って後退すると、そのまま彼は浅深一刀斎から離れて、森林地帯へと逃げ出した。


「逃げるかぁ!貴様ぁ!!」


決して逃さぬと、『妖切』を振り切ろうとした時。


「師匠、もういいっすよ。それよりも治療しないと」


パーカーを着込んだ弟子が、池に飛び込んで伏見清十郎を回収していた。


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