第92話 『子作りエッチ』

「……あ?」


岸辺玖が目を覚ました場所は、黒い建物の中だった。

がん、がん、と音を響かせながら、周囲には地響きが生まれている。

顔を動かして周囲を見渡して見ると、そこはなにやら、工場の様な場所であった。

マシンが動いては熱を帯びて赤く変わる鋼鉄の液が、ベルトコンベアに固定された化物に向けて流し込まれる。

化物は当然ながら悲鳴を挙げて体を動かすが、ベルトコンベアが進んでいくと、熱を覚ます為に冷却の液が吹き込まれる。


そしてベルトコンベアは化物を更に奥の部屋へと移動させていた。


「なんだ、ここ」


岸辺玖は、その光景を真上から眺めていた。

特殊硝子で出来た床下から、その光景を見ていて、顔を上げると、真っ黒な部屋が広がっている。

そこに、裸体の姿で歪な笑みを浮かべる榊色子……バビロンの姿があった。


「てめぇ、何してやがる」


岸辺玖は動こうとした。

しかし、体が動かない。


「て、あし……、おいしい、すき」


唇を舌先でなめ回しながら、バビロンはそう告げる。

岸辺玖はその言葉をきいて、首を左右に振っていく。


「て……てめぇ」


岸辺玖の体が動かない、というわけではない。

岸辺玖の体は、動けない状態であった。

というのも、彼の肩から先、太股から先の四肢が切断されていたのだから。


「くそ……なに、しやがる、おい!」


岸辺玖は四肢が欠損していると理解した最中、急激な痛みが発生して苦痛に顔を歪ませる。

額から脂汗が滲み出て、息が荒くなりつつあった。


このような状況、常人ならば決して耐えられない。

人は手足を失えば、二度と生える事はない。

目が覚めた瞬間にあらゆる自由を奪われたと思えば、発狂していてもおかしくはないだろう。

しかし、岸辺玖の内側から燃えるのは怒りであった。

痛みなど我慢すればどうにでもなるし、何よりも、彼の体は既に化物に近しい。

どれほど傷つけても、欠損していようとも、その体は化物の肉を食らう事で再生可能なのだから。


「きゅう、きゅう、つくる、こ、こども、ずっと、わたしと」


岸辺玖の上に股がる、榊色子、いや、バビロン。

どうやら、岸辺玖と子供を望んでいる様子であり、嬉しそうに、彼の体を貪っていく。


「ざけんな、頭がイカれたクソ化物がっ」


そう叫び、牙を剥いてバビロンに噛みつこうとする。

バビロンは面白おかしく、その場から離れると同時、仕方がないと言いたげに自らの腹部を撫でる。


「いま、は、このこ、で、いい、うんだら、また、こども、つくる、ね?」


そうバビロンは言った。

岸辺玖はその意味を理解出来ずにいた。


「あ?」


彼女は裸体であり、岸辺玖の肉体もまた裸体であった。

それはつまり、既に岸辺玖の種が彼女の中に吸収されている、と言う事。


既に、バビロン、いや、榊色子の肉体は、岸辺玖の子を孕んでいた。

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