第89話 『水浴びベイズ』

「よし、じゃあ行くか」


水浴びを終わった姫路音々とワン丸、ついでに岸辺玖と伏見清十郎が疲れを癒す為に池で体を清めた。

其処で活動を再開しようとしていた。

下着姿のままである姫路音々は髪の毛をタオルで拭きながら不服そうな表情を浮かべる。


「ちょっと待っちっち~、髪の毛まだ乾いてないから」


「移動しながら乾かせば良いだろ」


「そういうワケにはいかないの~、女の子の髪はすぐに傷みやすいんだからさぁ」


知った事かと岸辺玖は言いたかった。

これ以上時間を取られる事は良いとは思えなかったが、岸辺玖は溜息を吐きながら地面に座る。


「早くしろよ」


そう言って自分の方から譲歩した。

それを聞いて姫路音々は猫撫で声で頷くと髪の毛を揉む様にタオルで水気を拭っていく。


「はぁ……」


「彼女が終わったら、すぐにでも出発しよう」


一応のフォローを入れる様に、岸辺玖に向けてそう言う伏見清十郎。


「そうだなぁ……」


そう言って岸辺玖はすっかり気が抜けていた様子だった。

空を眺める。

安定の黒い霧の様な雲が蠢いている。

空は黒いが、それでも長閑な風が流れていた。


「……あ?」


だが、岸辺玖の狩人の勘は働いていた。

体を立ち上がらせると、森の方に顔を向ける。


「どうかした―――」


伏見清十郎が話し掛けると同時。

茂みの方から、灰色の体毛を持つ猿が現れた。

瞬間、岸辺玖は地面を蹴った。

猿と目が合うと同時、背中から生やした隻翼で頭部から股先に抜ける様にギロチンの刃を落とす。

真っ二つになる猿を見て、姫路音々と伏見清十郎が警戒した。


「化物が来てるぞ、にしては雑魚いが……他にいるかも知れない」


そう岸辺玖は思った。

更に、茂みの方から草を掻き分ける様な音がして、岸辺玖はギロチンの刃を構えた。

其処から出て来るのは、黒い髪を生やした、乳房を丸出しにする女性が一人。


「ッ!(なんだ、コイツ、候補者か!?)」


十六狩羅の候補者、あるいは同行者であるのか。

そう岸辺玖は思ったのだが、彼女は笑みを浮かべたまま手を差し伸べる。


「き、ぅ、きう、きゅ、う……」


岸辺玖の名前を告げて歩き出す彼女。

その様子の可笑しい様に、岸辺玖はギロチンの刃を彼女に向ける。


「来るな、殺すぞ」


そう告げると同時。

彼の肩に腕が回った。

青い刺青をびっしりと入れた、六本腕の一つ。


「玖ッ!!」


誰かがそう叫んだ。

岸辺玖が視線を真横に向けると。

其処には、笑みを浮かべる化物が居る。

紋身タトゥ』。

それが岸辺玖の隣に立つと同時。

腹部を貫く様な猛烈な強打が叩き付けられた。

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