第86話 『四角建物のピラミッド』

獅子吼吏世は目覚める。

狩衣であるガスマスクが外れていて、太陽の光が瞼を開かせたのだ。

顔を上げて、獅子吼吏世は周囲を見渡す。


「……此処、は?」


周囲には木々が生えている事から、此処が森林地帯である事は変わらないのだろう。

しかし、その周囲には化物の気配はなく、四方の角に銛の様なモノが突き刺さっていて、その合間から薄青色の膜の様なものが張ってある。

ピラミッドの裏側に居るかの様な気分ではあるが、それが化物避けである事を理解すると、彼女は体を起こす。


「……ネコ?」


彼女の同行者である根古屋新愛が何処に居るか見渡す。

根古屋新愛は薄青色の膜の壁付近で項垂れていた。


「ねえ、大丈夫、ネコ……ッ!」


根古屋新愛の狩衣には、鋭い目つきをした視覚センサーが搭載されている。

その視覚センサーは狩人が装着している状態だと感情に合わせて様々な色合いの光を放つのだが、その光が放ってはいない。

それはつまり……装着する狩人の生体が活動していない、という事になる。


「そんな……嘘、ネコ……ネコッ!!」


根古屋新愛は獅子吼家で過ごしていた友人である。

最早親友とも呼べる存在であり、その彼女が死んでいる、と獅子吼吏世は思い、思わず泣き出して抱き締める。


もう此処に、彼女の友人は居ない。

旅立ってしまった、死んでしまった、とは言い難いが。


「何してんだよお前」


薄い壁の膜を破って薪用の木々を抱えて現れる背の低い女性が立ったいた。


「……ネコ?貴方、生きていたの?」


「スーツはおじゃんになっちまったけどな、後で修復しねぇと」


そう言ってピラミッドの中心に薪を置いて地面に座る根古屋新愛。


「……そう」


涙を拭って、獅子吼吏世は深く息を吐き出すと。


「泣いて損したわ」


すんと残念そうな表情を浮かべた。


「死ぬワケねーだろ、ネコちゃんがよ」


そう言いながら持参したメタルマッチで火を点けようとする。


「……そう言えばネコ。これは貴方の狩猟奇具なのかしら?」


この様な狩猟奇具を持ち合わせていたのかどうか疑問符を浮かべている。


「お嬢さまよぉ、昨日の事忘れたのか?」


そう言われて、獅子吼吏世は昨日の事を思い浮かべる。

確か、獅子吼吏世たちは化物たちと遭遇して、戦闘をしていたのだ。

そして圧倒的不利な状況となって、今にでも殺されてしまいそうな時。

ふと、彼女たちの前に現れた、狩人の姿。


「……角一族」


彼女たちの前に現れたのは、角彩と、角彩が同行する候補者である。

角麿が推薦した、自軍の兵。

駱駝色のコートにヘルメットを被った男性の様な体型をした狩人。

名前は確か。


かどのかろ


聞くところによれば、角麿が作り上げた人造人間であるらしい。













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