第85話 『追跡のチェイサー』

向かい来る化物たちを殲滅する岸辺玖ら。

口元に化物の体液で汚しながら、服の袖で拭いて周囲を見渡す。

辺り一面は化物たちの死骸で埋もれていた。


「チッ、コイツら凄い不味かったな」


そうつぶやきながら岸辺玖は近くに居た化物の死骸に蹴りをいれた。


「ふぁ~……もう疲れたんですけど、今日はこれくらいにして休まない?」


姫路音々が杖を収納した狩猟奇具を持ちながらそう呟いた。

疲労感が残っているらしく、そこの所は改造手術を受けた岸辺玖と伏見清十郎とは違った様子だ。

彼ら二人の耐久力や疲労度の幅が広く、三日三晩の活動でも戦闘能力や思考能力に影響を及ぼす事は無い。

尤も、連戦を繰り返していけば、それ相応に消耗してしまうだろうが。


「いや、早々に移動した方が良いかも知れないね」


伏見清十郎が森林地帯の方に顔を向けて言う。

今は軽傷五体満足ではあるが、再び化物が出てくればその先どうなるかは分かったものではない。

だから、これ以上の戦いを避けるべきだと伏見清十郎は主張している。


「いやそれはあたしも分かってるし、休むって言っても、此処で休むなんて流石にバカじゃん?」


そう首を傾げながら聞いた。


「そうだな……他の場所に移動するか」


岸辺玖は頷いて周囲を見渡す。

此処から何処へ行けば良いのか模索しつつあった。


「ワンッ!」


と。

白犬のワン丸が吠えた。

その吠えに対して三人が注視すると、ワン丸が森林地帯の方へ歩き出した。


「あ~、駄目駄目、危ないからソッチ」


姫路音々がワン丸を捕えようとしたが、伏見清十郎はそれを止めた。


「いや、このままあの犬の後ろを付いて行こう」


と。伏見清十郎がそう提案する。


「危ないだろ、森林地帯の方に行くなんざ」


若干否定的な岸辺玖に、彼は説得する様に言う。


「あの犬はサポート系だ。見てみると良い、臭いを嗅ぎながら移動している。化物の臭いを嗅いでいるんだろう、そしてその臭いを頼りに化物が少ない場所に移動しているのかも知れない」


「あぁ~、そういう感じぃ?」


姫路音々は納得した。


「化物を探しているかも知れねぇぞ」


「いや、少なくとも紋白家の犬だ。それ相応の知性もあるだろう。現にあの犬は俺たちの会話を聞いた上で行動をしている様子が見えた。臭いを嗅いで何処かへ移動するのならば、俺たちの会話を無視してそうしていただろう?」


これもまた説得力のある言葉だった。

岸辺玖は多少渋る様子を見せたが、すぐに折れた。


「化物が出たら、殺せば良い話か」


「そういう事」


それで岸辺玖と伏見清十郎は白犬を追い掛ける。


「簡単に言っちゃうじゃんか」


姫路音々は化物退治を簡単に言う二人に苦い笑みを浮かべながら付いて行く。






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