第51話 『夢の中のドリーム』
きゅいん、と音が鳴る。
その音が、角袰は苦手だった。
肉体を刻まれる。指先を何度も削り、臍に向けて細い針を突き刺して円を描く様に回される。
激痛が走り、涙を流す、痛みを許容出来ない彼女は泣き叫ぶしかなかった。
『いたい、いたぁ、ッやめ、あ、あッひ、やああッ!』
彼女は願う。ただ願う。
しかし、身内は彼女の願いを無碍にする。
『ぬはは、袰よ、我が妹よ。これは我々にとっては必要な事なのじゃ、我々は他の狩人とは違い、鬼の化物に孕まされた人間から生まれた、故に遺伝子上は、化物であり、人間でもあるのじゃ。痛みを以て覚醒を、先祖返りを起こさねばならん』
少女の肉体を持つ自らの姉がそう告げると。
手術台に磔にされた少女の頭部に狩猟奇具によって展開されたメスを突きつける。
『それでも、可愛い妹の為じゃ、麿と同じ様に脳をぐちゃぐちゃにしてやろう。麿は自分で行い、痛みを快楽に出来るが、同じ様に快楽を感じるかは分からんがな』
頭の天辺にメスが突き刺さられる。
切開し、頭蓋骨を破壊し、脳髄に針が突き刺さる。
それを、麻酔なしで無理矢理行われる。
『あ、あ、えぁ、い、あぁ、えっ、くあっ』
『ぬはは、良いのう良いのう……どれ、もっと搔き乱してやろうかのぅ』
角麿の行為は、彼女を救う為ではなかった。
全ては、自分の実験、経験を欲したが故の、悪魔の悪戯に過ぎなかった。
『(どう、して……どうして……)』
誰も助けてくれない。
誰も、彼女を救おうとはしない。
『(もういたいの、いやなのに、じぶんが、きえそう、なのに)』
脳を改造されて、自我が消え掛ける。
痛みが鈍くなる半面、感情が乏しくなると言うデメリットを受けた。
『(こわい、よぉ……だれか、たすけて……)』
彼女は懇願した。
『強くなる、その為に何を犠牲にするかだ』
そんな声が、薄れる意識の中に聞こえて来る。
手術台の隣で、彼女の方を見詰める、一人の少年が居た。
『あ……』
その少年は狩人として志願して、角家の改造手術を受けに来た少年だ。
噂なら知っているだろう、角家は成功すれば狩人として一流になれる反面、失敗が多く、その殆どが実験材料として使われる事に。
『俺は、今を苦しむ、今を痛む、未来の為に……生きる為にだ……お前も、この今に負けるな、絶対だ……これを乗り越えて、生きるんだ』
それは、存在しなかった筈の記憶。
彼女の隣には、少年など存在しない。
それでも、角袰はその言葉を聞いて、身内よりも、両親よりも、安堵を浮かべて、暖かな涙が流れる。
自分と同じ境遇から、そんな言葉を吐ける少年を見て強く鼓舞された。
『だから、頑張れ、俺も頑張る』
『……ぅん』
決して諦めずに、今に負けるなと。
その言葉が、彼女の手術を乗り越える力となった。
夢は、まだ続く。
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