第50話 『再戦のリベンジ』

バルバロイの一部が雫の様な形状へと変わって地面を跳ねて移動する。


「クソッ!あっちかッ!」


岸辺玖が下半身から離れると、角彩が角袰に走って狩猟奇具を展開する。


「結べ―――『綾糸あやし』」


狩猟奇具から糸の様なものが噴出すると、傷だらけの角袰の傷口に入る。


「く、んんッ!」


痛みに悶える角袰。

彼女の狩猟奇具は傷口に糸を通して、内部から断裂した肉体を繋ぎ合わせたり、糸を分解して細胞に同化する事が出来る。

応急処置程度ならば、傷口から糸を通して数十秒程で七割の傷を繋ぎとめる事が出来る。


「クソ、だりぃ!」


岸辺玖はギロチンの刃でバルバロイを攻撃するが、地面に当たるばかりで攻撃が通らない。


「(バビロンを狙った方が早いな)」


そう決断すると同時にバルバロイに背を向けて隻翼で払うと、バビロンの方に標準を変える。

今ならば化物も遠ざかっている。

バビロンの周囲には皮膚が爛れた機動性が失った蛇しかいない。

ならば蛇諸共、彼の隻翼・縊刈で両断出来る。

そう思って岸辺玖がバビロンの方に顔を向けた時。


「ッあ!ぎッ」


首を強く握り締められて、岸辺玖が悶える。

バビロンが、一瞬の間に岸辺玖へと接近して、その首を掴んでいた。


「ぐッ離ッ!!せ、ぇ!!」


背中から生えるギロチンの刃。隻翼でバビロンを切断しようとするが。

ぶつぶつと背後から聞こえる声と共に、彼の隻翼が動かなくなる。

彼の背後には、左腕に出来た巨大な顎で彼の隻翼に噛み付くバルバロイの姿があった。

隻翼が無ければ、岸辺玖の力は半減する。

そしてバルバロイは岸辺玖の隻翼に力を籠める。


「ぎ、あ、があああッ!!」


筋肉の繊維が千切れて、背中から黒い血が噴出する。

骨が軋む音。羽を毟る様に、無残に岸辺玖の隻翼を引き剥がされると、背中の筋肉繊維がびちびちと、鮮度の良い魚の様に跳ねて、そして動きが完全に停止した。


「は……あぁあッ!」


岸辺玖の首を掴むバビロンの腕に向けて、角袰が狩猟奇具による一太刀で手首を切断する。

瀕死から重傷へと回復した角袰ではあるが、断面は綺麗に切断されていた。

自由になった岸辺玖は恨みを込める様にバビロンの手を首から離すとそれを口の中に放り込んで噛み砕く。


「くそ、血が、力が、足りねぇッ」


無理もない。主力となる隻翼が無理矢理引き千切られたのだ。

岸辺玖は地面を蹴ると、倒れている化物の遺体に牙を向けて喰らう。


バルバロイは、岸辺玖の隻翼を、何故かバビロンに渡した。

そして、バビロンはその隻翼を掴むと、頭部に近づけて、臭いを嗅ぐ。

何を思い出しているというのだろうか。

バビロンは岸辺玖の隻翼を啜り、そして食べ始める。


「隻翼を食べている……?」


紫乃結花里がおぞましいものを見ているかの様な目をバビロンに向ける。

あっと言う間に隻翼を食べ終えるバビロンは腹部を撫ぜた。

肥大化した腹部には、もごもごと小動物を袋に詰めたかの様に動き出していた。


「……何か、生まれる」


角袰の脳裏に嫌な予感が過る。

そして、バビロンに攻撃を仕掛けようとして、バルバロイが角袰の前に立ち塞がった。


「(駄目、攻撃が……届かない、遅いっ)」


仮にどうにかしてバルバロイを抜けても、バビロンの行動は既に終わっている。

バビロンの行動、それは出産だった。バビロンの腹部を破り、黒い血を流しながら出て来る、灰色の毛をした二足歩行の化物。


それは、岸辺玖の肉体を強化する為に、ある化物の肉体を使役した遺伝子から誕生した。

ヒタヒタと、地面を歩く。腕の長い呑気そうな顔を浮かべる、……灰色の猿。


角袰と紫乃結花里、そして遠方で援護をする角彩が、その生物に釘付けとなっていた。


「(新しい化物っ)」


「くッ!関係ありませんわっ!この距離ならばッ!」


紫乃結花里は中距離型の狩人であり、一定の距離を保って戦闘をしている。

少し、離れすぎていると紫乃結花里事態も思うが、十分、『茈鱗蝶』の能力範囲だ。

完全にフリーとなっている紫乃結花里は、バビロン共々に向けて鱗粉を放つ。

そして、その猿は自らが攻撃されていると感じると。


「き、ぃ……奇ギぎぃぃぃいいぃぃぃぃいいいいいい!!!」


甲高い絶叫と共に、周囲の狩人たちは、夢の中へと誘われた。

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