第45話 『改造失敗カスタムエラー』
岸辺玖は喉を鳴らして頬張った化物の肉を飲み干す。
「食い足りねぇよ、もっと寄越せよ……腹空いてんだ、たらふく食わせろ」
ヒトデ型の化物が岸辺玖を離すと同時、岸辺玖の指が猛禽類の様に開かれると、爪を突き立てて肉を抉る。
黒くドロドロとした血肉を口に放り込んで、ぐちゅぐちゅと腐った果実を貪る様な音を響かせる。
その音は静寂の中響いた。
声を殺す彼女は無論、岸辺玖の行動に対して唖然とする化物たちの姿。
「……不味いんだよ、もっと美味いモンを食わせろ、なあ?」
岸辺玖がそう口に出すと同時、彼の眼から赤い雫が流れ始める。
肉体に『化漿』を注入すると、化石が活性化する。そして不純物となる体液は涙腺から流れ落ちる。
既に岸辺玖は自発的に『化身』となっていた。
片方の腕で腹部を抑えていたが、岸辺玖はその手を離す。
既に腹部の傷跡は修復されていた。
「ばけもの……」
彼の姿を見た、衣服を剥がされて白い肌を晒す角彩はそう呟いた。
それは、彼の姿を恐怖したが故の言葉ではない。
そのおぞましい人型の怪物に、まるで憧憬する様な、崇拝する様な、熱を帯びた視線でそう告げたのだ。
「腹ごしらえだ……全員まとめて来い。美味しいトコだけ食って捨ててやる」
地面を蹴る。狩人の身体能力は常人よりも高い。
勢いは弾丸の様に、角彩の周囲に佇む化物の一匹に向けて腕を通す。
簡単に肉体に腕が通り、思い切り引き抜くと筋肉と血が纏わりつく、化物の化石を取り出した。
化石は活動時は人体内部の臓物の様な動きを見せて、ゴムの様な感触がある。
成分が枯渇すると、自らを守る様に硬質化する為、硬くなった化物の核を以て化石と名付けられる。
その化石を握り締める岸辺玖はそれを喰らう。
がじがじと牙で噛み砕いて飲み干すと、思わず顔を綻ばせた。
「まあまあだ、けど、これが一番美味い所なんだろ?」
そう告げて、同胞が一人やられるのを見て、其処で呆然としていた化物たちは敵意を剥き出した。
まるで、仲間だと思っていたのに、急に気が狂い出して、自分たちを殺そうとする同族の様な反応。それは強ち間違ってはいない。
彼ら化物には、狩人の体内にある化石を理解している。
その化石を特殊な器官で反応する為に、一瞬だけ同胞かと勘違いする事がある。
しかし、人間特有の臭いや狩猟奇具から香る死臭から、同じ化物ではないと理解が出来るのだが、岸辺玖からにはその様な人間らしい臭いが極めて抑え目で香って来るのだ。
「ノルマは……たくさん、食べる……そして、殺してやる」
夢心地な岸辺玖は、改造手術をした。
その影響によって、肉体が化物寄りになってしまったのだ。
化物を喰らう事で化石を活性化して『化漿』を生み出す。
それにより、狩猟奇具を使用しなくても、能力を行使する事が可能。
「……ッなにが」
バビロンの背後へとやって来るのは、鬼の角を生やし、背中から数十本の手を生やす角袰と、背中から紫色の鱗粉を翅の様に噴出させる紫乃結花里の二人。
『化身』と化した彼女たちは、複数居た威度Aクラスの化物を退治してバビロンの元へとやって来たのだが、其処で目にするのは、化物の様な匂いを放つ人間、岸辺玖の姿。
更に、化物との戦いで二体の屍を失い、片腕を欠損させた屍を動かしてやって来る、角麿の傀儡。岸辺玖の姿を見て嬉々とした声を荒げる。
『ぬはは、良いぞ良いぞ!失敗した割りには良い反応じゃのぅ!!』
笑い声が響き、その声に角袰が顔を向ける。
「……姉さん、手術は成功したんじゃないの?」
そう告げた。
岸辺玖に施した手術は、化石が許容出来る『化漿』の容量拡張である。
其処を弄れば、肉体は化身となっても十数分は持続が可能であり、更に連続に注射器を使用しても発動が出来る様になる。
だが、今の彼は変貌している。
『あぁ、拡張手術の方は失敗したのじゃ』
さらりと、角麿は屍越しからそう告げた。
『無理矢理狩人になった様な男じゃからなぁ……元々、適正が低い素体でのぅ、手術の途中で死んでしまったから、別の術式に切り替えてやったのじゃ、ぬははッ!!』
岸辺玖は既に一度死んでいる。
その事をさして悪びれもせず告げる角麿。
「……手術は、成功確率が高いって」
『んー?あぁ、普通の狩人ならばの話じゃ、あれは元々狩人には向いとらん体じゃから、成功確率は低かったのじゃ。これでも感謝して欲しいのぅ。駄目元で改造したら、生き返ったのじゃから』
「……」
姉に対する嫌悪感を抱く角袰。
それでも、彼女の腕は本物であり、岸辺玖が生き返った事は事実。
他の人間にやらせれば、拡張手術が失敗した時点で手を止めて死亡通知を出す。
『まあ見取るが良い……面白いものが見れるのじゃ……何せ、あれは狩猟奇具を使わずに狩猟奇具の能力を扱える試験作じゃからのぉ!!』
興奮気味に叫ぶ角麿。
『さあ、やるが良い、岸辺玖、試作一号!その力を開帳せよッ!!』
その言葉が叫ぶと同時、岸辺玖は歯を剥き出して笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます