第20話 『鬼なオーガ』

「……あ?なんだよ」


ベッドの上で一人まんじゅうを頬張りながら、岸辺玖はノートに何か書いていた。

驚愕した顔を浮かべる東王子月千夜と、獅子吼吏世。

何故ならば、彼の怪我は集中治療及び化石活性による肉体再生によって療養二日目には肉体は完治しかけていたのだ。

だが、今の岸辺玖は怪我だらけだった。

顔面を覆う包帯、折れた腕を固定するギプス。その他、傷をテープで防がれていた。


「玖、キミ、一体何があったんだい?」


東王子月千夜が心配した様子で彼の容態を聞く。

何故このような事態に陥っているのか、回答を求めた。


「……喧嘩の仕方を教えてくれって頼んだらこうなった」


「け、喧嘩の仕方って……無理矢理体に教え込まれたみたいに……」


獅子吼吏世の言葉はその通りだった。

まんじゅうを喉に詰め込むとペットボトルのお茶で流し込んでノートに記載していく。


「……あの女に認められればそれで良い……幸いここは療養施設だ、何度でも挑める……」


「あの女って誰?」


話を聞く姿勢だった獅子吼吏世は唐突に反応して岸辺玖に聞く。


「……あれだ」


岸辺玖は東王子月千夜と獅子吼吏世の後ろを指さした。

二人は後ろを振り向くと、其処には背の高い女性が居た。

恐らく岸辺玖と同じくらいの178cm程だろう。

高身長な彼女は黒髪で、三つ編みにして垂らしている。

目元が隠れる程に長い前髪だが、左側の額から伸びる細長い角によって、片目だけが掻き分けて、黒い瞳が此方を見ている。

口元には黒いマスクを装着していて、その服装はセーラー服だ。

それもただのセーラー服ではない。短くへそピアスが見える様に改造されたセーラー服にチャイナドレスの様にくるぶしまで伸ばしたスカートに切れ込みが入った改造セーラー服。

端的に言ってしまえば、その服装はスケ番風であった。


「……十六狩羅、角家三姉妹の一人、次女のかどのホロ


角家と交流のある東王子月千夜は彼女を簡単に説明する。

じゃらじゃらと腰元に付けた鎖を鳴らしながら接近すると共に。


「……訓練」


そう言うと共に、ポケットから何かを取り出して岸辺玖に渡した。

それは狩猟奇具だった、秒を待たず岸辺玖が狩猟奇具を握り締めると同時。


圧殺ぺしゃんこになれ――『荒桝あらます』」


チェーンに繋がれた狩猟奇具のトリガーを引くと共に噴出する四角形を縦にバラバラに並べた様な棍棒が出現すると共に、それを角袰は思い切り岸辺玖に向けて突き出した。


「ッ『伏正ふしま―――」


狩猟奇具を発動する寸前に間に合わず、壁を破壊する程の衝撃が発生し、岸辺玖は壁ごと吹き飛ばされる。


「なっ……」


東王子月千夜は唖然としていた。


「なに、してんのよ、あんたっ!」


獅子吼吏世は声を荒げて角袰の胸倉を掴む。


「……ごめんけど」


だが、角袰は獅子吼吏世の手首を掴んで軽く引き剥がす。

これでも獅子吼吏世は本気で力を出していたが、簡単に剥がされて動揺する。

そして角袰が獅子吼吏世と突き飛ばし、彼女は近くにあったベッドに倒れる。


「なにするッ!?」


最後までいう事無く、壁を破壊して荒れる土煙から出て来る包帯の男。


「『伏正ふしまさ』ァ!!」


狩猟奇具が直刀に変わると共に、角袰に相対する岸辺玖。

唐突に訓練と呼べるのか疑わしい戦闘が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る