第21話 『改造するリモデル』

『伏正』。

狩人が最初に扱う狩猟奇具であり、多くの狩人が手放した初心者の武器。

有する能力は無く、あるとすれば通常の刀型狩猟奇具よりも頑丈である事だろうが、数値化にしてみれば、通常の狩猟奇具が耐久値が100であれば『伏正』の耐久値は120程度のもの。

量産可能な使い捨てでもある狩猟奇具を手放さず行使している狩人は数える程しかいない。

だからこそ、こと訓練においてこれ程使いやすい狩猟奇具は存在しないだろう。

何せ、狩人が狩猟奇具を操作する技術を学べる、そして量産型であるために多量生産されているが故に万が一破損しても代わりがある。

故に、『伏正』は模擬戦闘に最も適した狩猟奇具だと呼べるだろう。


「ふーッ……ふーっ!」


岸辺玖は『伏正』を構えた状態で荒く深呼吸をする。

訓練相手である角袰による猛攻から逃走、回避、狩猟奇具を使用しての軌道のずらしなど、肉体のダメージを最小限に抑えるべく立ち向かっている。


「(あぁクソ、体が動かねぇ……簡単な事だ、あの女に一回でも接触すればそれで俺の勝ち、簡単なノルマだ。だってのに……)」


屋根を蹴る。二人は旅館の屋根で戦闘を行っていた。

角袰が振り翳す四角形を縦に乱雑に置いた様な金棒。

その威力は単純に振り回すだけで岸辺玖の膂力を押し返して吹き飛ばす。

屋根から叩き落されて、岸辺玖は森林浴の為に植えた木々の上に落とされる。


「ぐ、ッ!くそッ」


木の枝が脇腹や腕に突き刺さるが、それを引き抜いて激痛を我慢する。


「(だと言うのに……こんなにも遠い、十六狩羅。その一角ってのは、これ程までに強いのかッ)」


岸辺玖と、角袰。

同じ狩人だが、階級が違う。

その階級の差で、これ程までに実力の差が出ているとは思わなかった。


「(舐めてたわけじゃない……今回の戦闘も、俺が『化漿』を使えば首無しともやり合えたんだ……所詮ただのドーピングに過ぎない、それでも)」


岸辺玖は、角袰の力を欲した。

それは狩人としての素の力を……いや、違う。


「(角家は狩人が誕生する時から常に化物の研究を続けた科学者だ、認められれば、俺の体を改造して貰って『化漿』の性能を引き出して、持続性も上げて貰う……俺がその手術に耐えられるかどうかの試験……一撃でも当てる事が出来りゃ、俺はそれで手術を受ける事が出来る)」


だから、岸辺玖は死に物狂いで戦う。

この戦いを終えた時、岸辺玖は『化漿』を使役しても最大限の力を引き出して戦う事が可能になる。

だから、その為に角袰を倒そうとしたのだが。







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