第11話 『突進するラッシュ』

岸辺玖は肉体を活発化させて疾走する。

狩人の核が熱を帯びて身体能力を上昇させる。


「錆びろ『寂斂じゃくれん』」


狩猟奇具のトリガーを引くと同時に能力を開放する。

細長いピンクと赤黒い触手が絡まって粘液を分泌し、黒色の鋼の如き片手斧へと変貌する。


串刺せ、『戟弧げきこ』」


もう片方の手にも狩猟奇具を所持しており、トリガーを引いて骨髄を噴出、筋肉繊維が纏わりつき皮膚が伸びると骨髄の角張った部位から骨が出現しほこの様な鋭利な穂先が付いた狩猟奇具に変わる。

岸辺玖の基本戦法は片手所持が可能な狩猟奇具を二つ持って戦う。

相手に応じて所持する狩猟奇具を変えて戦う為、万能型とも称されている。


軽やかに地面を蹴って宙を舞う東王子月千夜も、狩猟奇具を使用してトリガーを引き抜く。

体毛の様な黒い繊維が放出すると繊維が凝縮して硬い柄と化す。柄の先端に黒い繊維が葉脈の様に広がって、白い爪の様なものが生え出した。

軽く振るうと、彼女の身長と同じ長さの大鎌へと変貌する。


「満ちろ『凶月きょうげつ』」


地に落下すると共に、東王子月千夜は大鎌を円を描く様に振るう。

近場に居た有象無象の化物は切断の軌跡を受けて四肢や頭部、胴体が簡単に真っ二つとなる。

それでも根性のある化物は一線を終えて残心を残す東王子月千夜を捕食しようと試みる。


欠片かけろ、『匚月ほうげつ』」


東王子月千夜の狩猟奇具は、繊維が分離しても活動を続ける性質を持つ。

『凶月』は、鋭利な大鎌であり、対象に斬撃を与えると、傷口に繊維を残す。

そして能力を開放すると、体内に残された繊維が化物の肉体を喰らい、成長するのだ。

大鎌と同じ、鋭利で細長い刃へと、化物の体内を突き破って切り刻む。


「雑衆は私に任せたまえよ、キミは早々に、その悪夢を見せる鐘に終止符を打つと良い」


周囲に群がる低級の化物の相手をすると告げる東王子月千夜。

岸辺玖は東王子月千夜を一瞥するが、口端を引いてヘッドフォンに指を向けた。

声は聞こえないが、それでも言っている事はなんとなくわかっている。

停車する車を蹴って猿の化物に接近する。


「きぃぃぃぃぃぃぃいいいいいぃぃぃぃぃぃッ!」


大声を発する猿だが、ヘッドフォンを装着する岸辺玖には効かない。

だが、その声に反応したのは背後から迫る化物だった。

狼の様に四足歩行で走る狼の化物が飛び込んで岸辺玖を咬み付こうとする。

岸辺玖は体を翻して斧で狼の首元に叩き付ける。もう片方で握る逆手持ちの戈を更に迫る狼の化物に向けて振る。


戈には魚の骨の様に滑らかで鋭利な棘が生えていて、岸辺玖が振るうと、骨が抜けて投擲速度に合わせて射出されると、狼の化物に突き刺さる。


背後の敵を即座に処理すると共に猿に目を向ける、猿は逃げる準備をしていた。

追い掛けようとして斧を引き抜こうとするが狼の化物の肉に食い込んで離れない。


時間のロスと感じた岸辺玖は手斧を捨てて走る。


「きぃいぃいいいぃいいい!!」


猿は大声を荒げるが、岸辺玖には効かない。


「(こっちは対策してんだよ!)」


そう思い別の狩猟奇具を取り出す。

岸辺玖の考えでは、猿は自らを守る為に化物を壁にするだろうと思った。

だが、化物たちは岸辺玖を無視し、猿すらも見向きもせず疾走し出す。

何処を目指すか、岸辺玖は背後に居る人物を思い出す。


猿は狡猾だった。

岸辺玖を覚えている。そして、一度目に出会った時、岸辺玖が獅子吼吏世の為に闘争を止めて戦線を離脱した事も承知済み。


そう。化物たちは全員、東王子月千夜へと向かっていった。

全ては、彼女を手負いにさせて、情によって追い掛けるのを止めるだろうと想定して。


「馬鹿かお前は」


だが、岸辺玖は振り向きすらしない。

必ず殺すと断じた以上、猿は必ず殺す。

例え友を見殺しにしたとしても、それが岸辺玖の絶対だった。







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