第12話 『風船の様なバルーン』
「キィ!きぃぃぃ!!」
連発する絶叫。
それは断末魔の前触れだった。
加速する岸辺玖の前に現れる化物を刀身が生えた狩猟奇具で致命傷を与えると共に猿の化物に接近し刃を振り下ろす。
猿の策は岸辺玖に嵌る事無く、粗目の刃が猿の首に走る。
首に刃の感触を受けた時、猿の化物は瞬時に自らの死を連想しただろう。
しかし、首筋には強い衝撃が加わるだけで、首が胴体と乖離する事は無かった。
それは獣特有の体毛が鎧の代わりになっていた。毛が生える向きを理解しなければ、毛の奥にある皮膚を破る事は出来ない。
「きっ」
命が繋がっている。嬉々とした感情が猿の中に芽生え始めた直後。
岸辺玖も、笑った。猿よりも邪悪に満ちた笑みを浮かべて言葉を舌に乗せて放つ。
「
獣の対処など百も承知。
毛が切断を邪魔するのならば、その毛ごと切断してしまえば良いだけの話だ。
刃毀れにも似た刃の形状をする刀身が高速回転する。荒い音を響かせて猿の毛を削ぎ肉を断つ。
「ぎびゅ、ぎょぼがッ」
「はっははッ!!くたばれクソ猿ぅ!!」
声を荒げて笑い、猿の首が切断される。
勢いよく首が飛び上がり、ボトリと、数メートル先へと首が落ちた。
「……す、ぅ………あ、ぁぁ……」
深呼吸をして、重苦しい息を吐く。
岸辺玖は『鮫肌』に付着した体液を払うと後ろを振り向く。
背後では、東王子月千夜が踊る様に戦っていた。
そして彼女に向けて手を振って合図を送る。
「おいッ!ぶっ殺したぞッ!月千夜ォ!!」
嬉しそうに、子供の様な笑みを浮かべながら、しかし、その笑みを浮かべる顔面には血液が付着していた。
東王子月千夜は複数の化物を相手にしているが、岸辺玖に気が付いたみたいで軽く笑みを浮かべて、ヘッドフォンを外す。
「倒したのかい!」
「あぁ、苦しむ様に殺してやったッ!」
嬉々として残酷な報告を行うと、軽く頷いて東王子月千夜は残りの化物の対処を行う。
「あぁ……すっきりしたぜ……フラストレーション溜まりっぱだったからなぁ……あぁ、一応、朽木に連絡するか」
携帯電話を取り出して、岸辺玖は連絡を入れながら歩き出す。
軽く討伐完了を告げて東王子月千夜の化物狩りを手伝おうと思った時だった。
「ん……あぁ、電波障害か、クソ、仕方ねぇな」
携帯電話をしまおうとした時。
タン、と乾いた竹を割った様な音が響くと同時、岸辺玖の頬先を掠る、『針通』の弾丸。一瞬遅れて、岸辺玖は振り向いた。
「(朽木の弾丸か!?何しやがんだッ!)」
祝砲にしては殺意を感じられた。
背後を振り向いて、地面に突き刺さる弾丸の種類から朽木紅葉のものであると認識して、同時に岸辺玖は、それは祝砲ではない事を悟る。
殺しにかかった凶弾、でもない。
岸辺玖は背後を振り向いて、固まった。
数メートル先には、猿の首が落ちていた。
その首の切断面に、鎖を突っ込む、二メートル程の身長を持つ、貴族の様な衣服を着込む大柄の男が居た。
いや……それは人ではなかった。人の姿をした化物であり、人型の化物には首から先が無かった。
ふわり、と。
鎖を付けた猿の首が風船の様に浮かんだ。
その化物の片手には二十程の生首が風船の様に浮かんでいて、さながら、テーマパークでマスコットが風船を配っている様なシュールさがある。
それを笑う様に、生首は笑みを浮かべていた。表情筋は死んでいるが、針と糸で縫い付けられて、無理矢理笑みを浮かばせられている。それは、猿の首も同様だった。
「てめぇ」
化物を認識して、狩猟奇具を使役しようとすると同時。
岸辺玖の前に瞬時に立つ首無しの化物。
鎖を引っ張ると、岸辺玖の前に、ふわふわと浮かぶ猿の首を差し出した。
猿は死んでいる。だと言うのに、口元に結われた糸が千切れて口が大きく開くと。
「奇異ィィ威畏ヰヰヰッ!!!」
口元から発せられる奇声が岸辺玖とその背後に居る東王子月千夜を包み込む。
一瞬の出来事。
ヘッドフォンを付け直す事すら出来ず岸辺玖は猿の声に意識を奪われた。
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