第7話 『音楽のミュージック』

トラックの荷台に乗る三名の狩人。

一人は灰髪濃緑のコートを着込む岸辺玖。

一人は男性用の学生服にベストを着こんだ、銀髪を首筋まで伸ばした男装の麗人、東王子月千夜。

そして、狩人の家系ではあるが大した名も売れていない、謂わば中流家系の狩人である、朽木紅葉。

以上三名による討伐戦が行われようとしていた。


「今回は任務ではないから、自費での移動となる」


岸辺玖は、懐に閉まった複数の狩猟奇具の状態を確認しながら言う。


「今回は俺の我が儘だからな、二人の費用と報酬金は俺から払う」


基本的に狩人が仕事として活動する場合は、本拠地に滞在する討伐会からの任務発注を受注し、討伐が確認される事で報酬金が発生する。

最初の猿の化物との討伐任務は、討伐会からの依頼であり、近隣の猿の群れを排除して欲しいとの依頼内容であり、猿の群れが淘汰されれば、残りの猿が生き残っていても、それは討伐完了扱いにされていた。


一応は猿の存在を報告はしたが、正式に猿の討伐任務が発注されるまでは一週間はかかるだろう。

だから、フリーの時間帯で、金が掛かる討伐戦を行っている。


「私は無賃でも構わないよ、親しい友の願いだからね」


芝居がかった口調で東王子王子月千夜が言う。

彼女は十家の人間であるために余程の事がない限り、金に困る事がなかった。


「まあ一応取っておけよ、ほら、朽木」


茶封筒に入れた旧一万円札二十枚ぶんを、朽木紅葉に渡す。

羊の様な髪の毛を覆い隠す様にパーカーを着込んでいて、前髪が邪魔で視線が合わない。

彼の口元には耳の付け根まで罅の様な傷痕があって、笑ってるようにも見えた。


「どうも」


金を貰って簡素ではあるが、感謝の言葉を述べる。

次に、学校に放置されていた道具を回収したものを、二人に渡した。


「俺が狙うのは猿だ、戦闘能力は低いが精神異常の能力を行使する。一応の対策ではあるが、奴は声を媒体に幻術を使う。討伐会の技術部には説明したが、本格的な対策装備は見込めないだろう」


だからその代品として持ってきたものを、東王子月千夜は受け取って耳に嵌める。


「だから、ヘッドフォンを着けて戦えって事かい?」


締め付けの強いヘッドフォンだ。Bluetoothに対応してあるために、ワイヤレスで嵩張りにくい。


「そうだ。しかし、これで対策は万全とも言い難い」


ヘッドフォンを装着してスマホを使い大音量で流す。

大きな音は一種の拷問の様にも思えたが、これくらいが丁度良いと思い、ヘッドフォンを外す。

そして、実際に幻術に掛かった岸辺玖は二人に対抗策を口に出した。


「だから、もし幻術に嵌まった場合は、まずは疑え、今、この状況も疑っておくんだ、違和感を感じたら、即座にその違和感を追及しろ、そうしたら幻術…夢から覚めやすくなる」


何故、今も疑わなければならないのか疑問に思っただろうが、彼がそういうのならばそうなのだろう、と納得して東王子月千夜は頷いた。


「分かったよ、玖」


「よし、じゃあ、街に到着するまで休止だ。頼むぞ」


そう言って、岸辺玖はヘッドフォンを装着して音楽を流して聴く。

が、やはり好みの音楽ではなかったらしく、すぐに外してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る