第6話 『誇りなきプライド』
「(駄目だこの女、何を言っても話が通じねぇ)」
まるで発情する猫だ。
背中に手を回して、薄桃色の下着のホックを外そうとする獅子吼吏世に、岸辺玖は溜息を交えながら思考を続ける。
「(ノルマは説得……いや、離れる事だな、それを及第点にする)」
脳内で
幸いにもベッドの上に馬乗りになっているだけであり、手足は自由だった。
岸辺玖はベッドに両手を広げる様に置くと共に、掌をベッドに向けて置くと。
「おい、一応聞く。退く気はあるか?」
一応は対話を試みる、が、彼女は下着を外して、胸部を晒し出した。
「駄目、逃げる気?絶対に、逃さないわ……私と此処で添え遂げて、玖」
「無理な話だ」
その言葉と共に、岸辺玖は両手の力を行使して、ベッドに強力な圧力を加えた。
すると、ベッドを支える足の二つが折れて馬乗りになる獅子吼吏世がバランスを崩して前に向けて倒れる、更にその勢いに乗じて、岸辺玖は獅子吼吏世の臀部に手を回して持ち上げる様に押し上げると、彼女は前転する様に壁に背を叩き付けた。
「痛ッ」
その瞬間、岸辺玖は立ち上がると、最後に獅子吼吏世の方を見てポケットから腕時計を取り出して確認した。
「(三分もオーバーしてんな、こりゃ不調だ、討伐戦に出るのは難しいかもな)」
しかし、だからと言って、このまま施設内に滞在していれば、獅子吼吏世が何をしても子を成す為に付き纏う可能性がある。
「(職員に話して本拠点にある精神隔離施設に送る様に頼むか……その間に一週間ほど都市で過ごす……これが一番だな)」
「ねえ、待って……待ってよ、玖……」
再び、最愛の存在が自分の元から離れようとしている。
獅子吼吏世は胸が苦しくなって瞳から涙を流して傍に居て欲しいと懇願する。
「うるせぇよ、興味ねぇよ、お前なんて」
そう蔑む様に告げて岸辺玖は部屋から出ていく。
廊下を歩きながら、額に出来た傷を親指の爪で軽く掻く。
「(今のお前に、なんの価値があんだよ)」
精神が半壊しかけて、戯言を口遊む彼女の姿。
岸辺玖は、そんな壊れた彼女を見たくは無かった。
「(夢に捉われて現実を見ない、興奮して、性欲を振り回すお前に)」
あんな姿を見るくらいならば、あの化物がうろつく場所に放置すれば良かったと思っていた。
醜い姿を晒して欲しくはない、気高い姿だけを、見ていたかったのだ。
「(傲慢でも、俺を見下してても……戦ってる姿は美しかった)」
獅子吼吏世。
狩人としては上等な存在だ。
新米な連中からすれば憧れの存在でもある。
彼女の相棒として戦う事になった岸辺玖は、少なからず自分の実力が彼女に近しいと誇りにすら思えたのに。
「……チッ」
軽く壁を叩く。
拳から痛みが発し出す。
どうしようもない苛立ちは、ノルマが達成できなかった際の不調なのだと、そう思う様にした。
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