第3話 『胎児のベイビー』
『私は、自分の子供が欲しかったの』
腹部を擦る、獅子吼吏世。
子供らしいツインテールなど止めて、ストレートにした彼女はソファに座って暖炉の火を眺めていた。
『私はね、養子だから、血の繋がった関係は、何処にも無かった。獅子吼家は実力さえあれば、養子に迎えてくれるから……』
首を横に傾ける、彼女の首を支える、男性の肩が其処にある。
『愛している人と一緒に……子供を育てて、絆を作って……、本当の家族になれる、それがとても嬉しいの……私は』
顔を上げれば、額の生え際に傷を作る愛する男の姿が其処にある。
岸辺玖が、彼女の肩に手を回して優しく寄せる。
『そうか、家族。な』
岸辺玖は天井を見上げる。
何か考えている様子、その横顔を見詰める獅子吼吏世は恍惚とした表情を浮かべて彼を見詰めている。
同じ狩人と言う運命。その出自は貧富の差がありながらも、最終的には結ばれた。
自分の傲慢さにバディを解消した事は何度もあった、だが、岸辺玖は最後まで彼女の傍に居てくれた。
ぶっきらぼうで、性格が悪い、けど。物理的にも精神的にも屈強で強い彼に、獅子吼吏世は何時の間にか惹かれて、気の許せる存在となった。
仕事としてのパートナーが、今では生涯のパートナーとして傍に居る。
そんな幸せを彼女はお腹の中の子供と共に噛み締めていた。
『……名前、考えてたんだ』
ふと、岸辺玖がそう言った。
それは獅子吼吏世と岸辺玖の間に出来た子供に名付ける名前だ。
『正直、俺には名前を付けるセンスは無い、けど……子供の名前は、俺に決めて欲しいんだよな?』
彼女の瞳を見る岸辺玖。
うん、と獅子吼吏世は頷いた。
『子を産む苦しみは私が引き受けるから、あなたは、この子の生涯を決める大切な名前を、苦しんで決めて欲しいの』
『重大だな……だから、ずっと考えていた』
岸辺玖の手が、彼女の腹部に触れる。
お腹の中に居る子供の動きを感じながら、岸辺玖は名前を口にする。
『俺の玖は九でもある。次の子供には十を付けようと思う、次世代の子供に、未来を継がせると言う意味で、そして、お前の名前、世を取った』
空に向けて、岸辺玖は字を書く。
『十と世と書いて、
不安そうに聞く岸辺玖に、獅子吼吏世はくすりと笑って岸辺玖の頬に口付けをした。
『私とあなたの子供、十世……うん、とても、素敵よ、玖』
嬉しそうに、獅子吼吏世は高揚感を感じながら瞳を瞑る。
過去十年間、彼と共に過ごした記憶を思い出しながら。
『……あぁ、私、とても、幸せ―――』
まるで夢の様な現実に対してそう呟いた。
……いや、逆だ。
現実の様な夢を、彼女は見ていた。
そして、夢は必ず覚めるものだ。
意識が鮮明になって、彼女は、『夢』から覚めた。
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