第10話 肝試し
旧友の古内、海原と三人で集まって遊んでいるうちに、その場のノリで肝試しに行く事になった。
古内が決めた目的地は、住宅街の外れに建つ、廃墟の一軒家だった。意外なことに門も玄関も施錠されておらず、侵入はアッサリとできた。
スマホのライトで、古めかしい上がり框や靴箱を照らす。廃墟だし靴でいいだろ、と海原が土足のまま上がり込み、俺達も後に続いた。床が腐っているのか、嫌な柔らかさが靴越しに伝わってくる。
「ここはな、風呂で家族が心中したんだよ」
と古内が言った。父親と母親、それに子供が二人の一家が住んでいたが、ある時から一家の姿が見えなくなり、異臭が漂い始めた。不審に思った近隣住民が通報すると、家族四人、全員が浴槽に入ったまま亡くなっていたという。
「四人って事は風呂がでかいのかな」
俺の疑問に、古内が答える。
「いや、普通の大きさの湯船にみちみちに詰まってたんだと……お、ここかな」
スライド式のドアを先頭の古内が引くと、タイル貼りの壁が見えた。
「なんだ、浴槽ないじゃん」
残念そうな声が上がる。覗くと、確かに浴室だとはわかるものの、湯船はどこにもなかった。壁は青だったであろうタイルがいくつか剥がれ、鏡があったのか、一部に四角く跡が残っている。床に見える排水溝は蓋が無くなっていた。古いことはわかるが、おどろおどろしくも何ともない。
気の抜けた雰囲気になったまま、ダラダラとライトで見回す。数分流し見した後、もう見るものもないからと帰ることになった。
後部座席に乗り込み、結局何もなかったな。と隣に座る海原と笑う。俺拍子抜けしちゃったよ。と言いつつ、背負っていたリュックから海原がお茶を取り出して飲んだ。
瞬間、海原が車内に緑茶を吐き出した。その緑茶が、茶色く濁っている。
車内に腐敗臭が漂い、海原が激しく咳き込んだ。
「なんだよこれ!?腐ってる!」
「お前何してんだよ!いつのだよそれ!」
古内がバックミラー越しに怒鳴っている。海原も負けじと言い返す。
「ちげえよ!行きにコンビニで買ったやつだよ!」
海原が吹き出したお茶を見ると、虫やら固形の泥のようなものが見えた。気分が悪くなる。
ふと、自分も水を買っていて車内に置きっぱなしだった事を思い出して確認する。水は澄んだままだ。
あの風呂に持ち込まれた飲み物だけが、全て腐っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます