第6話 ネット広告

 知り合いとの待ち合わせにはまだ時間があったので、駅に併設されたショッピングビルの中のカフェで時間を潰すことにした。

 文庫本や暇つぶしができる物を持っていなかったので、なんとなくスマートフォンの電源をつける。

 これなら、途中で知り合いからメールが来ても、すぐ気付く事ができる。私は検索アプリを起動し、"あなたへのおすすめ記事”で表示された記事を適当に見始めた。

 政治のニュースや、たまに見ているブログと似たような内容のサイトが並ぶ。

 一つの記事に目が止まった。どうやら怪談のまとめサイトらしい。暇つぶしにいいかと思ってクリックする。

 いくつかの短い怪談が連続して並べられている。いわゆる掲示板サイトの文章をそのまま移植して来ているタイプのものだ。スクロールを続ける。

 こういうサイトは書き込みと書き込みの間に、ソーシャルゲームだったり漫画アプリだったりの広告が出ている。うっかり押してしまわないようにしながらスクロールをしていると、一つ気になる怪談に目が止まった。

 中々の長文らしく、書き込みをいくつも跨いで続いている。

 書き手の実家の隣の家は空き家なのだが、夜になると2階に明かりがつく日がある、ホームレスが実家の隣に住んでいるとしたら頂けないし、肝試しも兼ねて友人達と共に様子を伺いに行くという話だった。

 ある書き込みで間取りを詳しく描写し、誰がどこの部屋に向かったといった事が細かく書いてあるのだが、どうも細かすぎてうまく分からず、私は何度もその描写を読み返した。

 ふと、スマホの画面の中央を、何かがそれなりの速さで下に通り過ぎた。

 この手のサイトに驚かし演出?

 不思議に思いつつ読み進めようとすると、ある事に気づいた。

 この書き込みの上の広告欄。そこにはさっきまでアイドルゲームの広告が出ていた。アイドル衣装を着た金髪の女の子のイラストがこちらを向いてポーズを決め、可愛らしいフォントでアプリ名が書かれているものだ。

 今も同じものが表示されたままだが、ポーズを決めていた両手は下がり、頭は無かった。

 人形の頭を取った後のように、表面が肌色の首だけが、チョーカーの上に乗っている。

 これは演出なのだろうか?

 不快になり、広告が見えないようにスクロールしようとしたが、手が止まった。

 スクロールバーはこのページがあと少ししかないという事を示しており、画面の一番下からは金色の髪が覗いていた。

 悪質な驚かし要素だ。

 私は気まぐれに、腕を下ろしたままの顔無しアイドルが立ち尽くす広告欄をタップしてみた。

 アプリストアに飛ばされた。



 あの後、すぐに知り合いが来たので、その場では何も分からずに終わった。

 その日の夜、好奇心から表示されたものと同じアプリを入れたが、よくあるアイドルの育成ゲームだった。

 しかし、しばらくプレイした今も、あの金髪のアイドルはゲームのどこにも出てこない。

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