第4話 掴まれる

 友人と久しぶりに遊んだ帰り道、駅までの道で、友人が怪談を教えてやると言って話し始めた。

「ここの路地抜けるとさあ、自販機あるだろ?」

 コインランドリー店と住宅の間の路地を指差して友人は言った。私はその道を行ったことが無かったため、知らない。と返すと、友人は少し気を害したように続ける。

「あるんだよ、自販機。そこでな、昼間とかに買う分にはいいんだが、朝日が昇るまでの午前中に飲み物を買うと、腕を掴まれるんだと」

 どこかで聞いたような話だ。と私が言うと、友人は一層不機嫌になり、そんな事を言うなら今自分で買ってみて来いと言われた。

 まだ12時にもなっていないのだから今買っても何も無いだろうと私は言ったが、そんな事はもうどうでもいいらしい。結局二人で件の自販機を見るために路地に足を踏み入れた。

 しかし、驚いたことにその路地に自動販売機の姿は無かった。オーナーが撤去してしまったのだろうか、友人の言った位置には台座のブロックすら無く、二人して残念に思った。

 その後、駅に着き、時刻表を確認したところ、私は終電を勘違いしていた事に気付いた。幸いにも友人は駅から家が近いので、頼み込んでそのまま泊まらせてもらう事となった。

 深夜、布団の中で唐突に目が冴えた。喉が乾いている。来る途中このアパートの近くに別な自販機を見たのを思い出して、すっかり熟睡している友人を起こさないよう忍び足で部屋を抜け出した。

 お目当てのお茶を購入すると、さっき友人の言った怪談話を思い出した。日付も変わっただろうし、あの話だとちょうど今の時間帯の筈だ。しかし、もう主役の自動販売機は無いのだ。そう考えながら、気まぐれにその路地へ向かった。

 裏道に入り、自販機跡へ目を向けると、男性らしき人が蹲っているのが見えた。

 酔っ払いか何かかと考えていたが、様子がどうもおかしい。頭のみを振り回しており、香箱座りする猫のように腕を体の下に仕舞い込んでいる。その男の顔面が見えた瞬間、私は逃げ出した。

 男は、顔面の目の辺りから手が生えていた。おそらく、あれが例の手を引っ張るものなのだろう。

 自販機がたまたまあそこに立って、たまたま午前中に現れるあいつの目隠しになっていたのか、あいつが自販機にくっついて来たまま置き去りにされたのか、いずれにせよ、本当の所は何も分からない。

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