第1話 7


まぁ、どんな相手でもやることは変わらない。

首を軽く回した後にトントンとつま先で地面を軽く突っつく。



「巻き込まれないように下がっていろ小娘共。」




そう言った瞬間にスー達に右掌を向ける。



“ブリッツ”


放たれた雷は、スー達の後ろの方で炸裂すると1匹の猛獣を炭にした。

どうやら、他にももう1匹いたようだ。




「小娘共を狙うなんて余裕だな。

狙いたきゃ狙えよ。」




右手にバリバリと雷を走らせながらプロトは歪んだ笑みを浮かべて挑発的に猛獣達にそう言った。

言葉を知らなくても、挑発している様子とプロトの存在のヤバさが伝わっただろう、あちこち移動した視線は全てプロトに向かっている。



全ての視線を感じるとプロトは、そのまま走り出した。


先ずは雑魚から。

プロトは素早くボスの猛獣の横を通り抜けて、他の猛獣の1匹に飛びかかると手をバリバリと光らせる。



“ブリッツ”




猛獣の頭部にゼロ距離で雷を放った後に、攻撃の反動を利用して素早く離れる。



“ブリッツ”




空中で雷を放ち、猛獣に雷を当てながらその勢いで空中で移動してそのまま取り巻き最後の猛獣の頭に踵落としをぶつける。



“ブリッツ”



小さい悲鳴のようなものが聞こえたが、プロトは容赦なくゼロ距離で放った雷でトドメを刺した。



これで残ったのは、ボスの猛獣だけだ。


もっと疲れると思ったが…一回の電撃で倒せるなら案外早く終わりそうだ。




「…よう、最後はてめぇーだけだ。

少しは楽しませてくれよ?


俺は、美味そうなものは後で食べる主義なんだ。」



“ブリッツ”



プロトは、そういうと間髪入れずに雷を放つ。

しかし今度は他の猛獣と違い丸焦げにはならず少し表面が黒くなる程度で終わった。



雷を食らったあとに大きく体を震わせて大きく咆哮をプロトに向ける。




「プロト君やーい。

それ、【鵺(ぬえ)】ってゆー脅威度がそこそこ高い怪異なんだよー。


怪異は長く生きていれば生きてるほどやっかいだから気をつけてねー。」



スーは、なんてことないように両手を口に当ててヤッホーと山彦を試すようなノリでそうプロトに言う。


いや、説明おっせぇよ。



プロトは鵺の咆哮を気にもせずに呆れた様子でスーを見る。



まぁ、どんなんだろうとやる事は変わらないか。

そう考えを切り替えたプロトは鵺に向かって走りだす。


鵺は、巨体を利用して両手をプロトに向かって思い切り振り下ろした。



プロトはそれを大きな跳躍で飛び越えて鵺の攻撃を避けるとそのまま肩に乗る。




「乗りやすい体勢になってもらってわりぃーな。

テメェのアクセサリーを一本もらうぜ。」



プロトはそういうと、鵺の背中に刺さっていた刀を一本抜き取った。


鵺も直ぐにプロトを振り落とそうと動き始めたが、もう遅い。




「あばよ。」



流れるような動作でプロトは、鵺の首を斬り落とした。

時間にすると一瞬の出来事。


刀は、最後の一太刀で限界を迎えたようで切り落として直ぐに折れて使い物にならなくなった。


まるで前の持ち主の無念が晴れたように。


辺りに気配はない。



「終わったぞ小娘。」


「うむ、ご苦労。」



使い物にならなくなった刀の柄をポイ捨てすると、振り向きながらスーに向かってそう言った。


プロトにそう呼ばれたスーは、今の光景に混乱しているのか焦点が合わないままの団子屋の娘を引っ張ってプロトの所に向かう。



何を偉そうに。

そんな事を一瞬よぎったが、そういえば雇い主だから普通に立場は上だった事を思い出す。




「この猿共は、どーする?

このまま俺が炭にしたほうがいいのか、あの屋敷でなんかかしらの供養をしたほうがいいのか。


鬼気なんて物騒なもので変異してるなら…そのままにしておいたらヤバいだろう。」


「んや、ここで供養するよ。

屋敷の道中で変異されても困るし…何より目の前で供養されたほうがおねーさんも安心するでしょ。


プロト君、少し離れてて。」



スーはそう言うと、団子屋の娘の手を優しく離すと息絶えた鵺達をポンポンポンと叩いていく。

プロトが団子屋の娘の盾になるような位置で離れている事を満足気に確認すると力強く両手の掌を合わせた。


パンと力強い音が響きわたると、鵺の周囲に沢山の小さい菱形がくっついたような模様のドームが展開して直ぐに内部が爆発する。

ガラスが割れるような音が響くと同時にドームも砕けて内部が晴れると中には何もなかった。



そして、周囲に塩を大きく撒くとポンポンと今度はお参りするような力加減で両掌を合わせる。




「はい、これで供養はお終い。

塩も撒いたし…鵺の気配もないから、もう大丈夫。」



両手を腰の方で組みながらくるりと振り返ると口元を三日月のように歪ませてニッコリと笑う。

目元が隠されて分からないはずなのに、目をぱっちりと開いた元気を貰うような笑みに見えた。




「オイラたちは、帰るけどまた何か変なのが出たら遠慮なく教えて。

定期的に買い出しで家臣たちがこの村に訪れるから。


オイラ以外は、だいぶ異質だから一目見ればわかる筈だよ。

んじゃ…プロト君、帰ろ。」




“オイラ以外”。

その言葉に思う所は、多々あったが…ここは上の人間の顔を立てよう。


プロトは、静かに目を瞑って先を歩くスーの後ろをついていった。

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