第1話 5
樹海を抜けた先はのどかな平地が広がっていた。
おどろおどろしい場所にいたからか、空気がおいしく感じる。
緑が豊富な樹海にいたのに可笑しい話だ。
そんな事を考えているプロトを他所にランタンを消してスーはグングンと先に行っている。
「おい小娘、あんまし先にいくんじゃねーよ。
俺がいる意味がねぇーじゃねぇか。」
プロトは、呆れたようにスーの後をついていく。
グングンと進んだ先には団子屋があった。
みたらし団子を作っているようで甘く香ばしい香りが辺りに広がっている。
その団子屋の横でピタッとスーは止まった。
目隠しして視線は分からないが…チラリと此方に顔を向けている。
「はぁ…テメェは主人だ、下の意見なんか気にせず食いてぇなら食えばいい。」
「…コルノに食べすぎると太ったり虫歯になったりするからってダメだって…。
オイラに駄々甘のバルもダメって。」
あのゴリラも知性が多少は備わっていたようだ。
馬鹿にしたような褒めたような思いを心の中でしたプロトは、チラリとスーを見る。
シュン…とあからさまに悲しそうな表情で下を向くスー。
ボリボリと頭を掻いた後にプロトはスーに近づく。
「俺は戦生まれじゃねーから、この団子を食べたことがない。
この仕事をうまく終えたら少しでいいから食べさせてもらえないか?」
ヤレヤレと言った様子でプロトは、スーに建前を用意した。
慣れない異国の触れ合い。
それが一回位ならコルノやバルに口を酸っぱく言われないだろう。
プロトの意図をスーは理解したようで表情を明るくしてスーはプロトの手を握ると力一杯引っ張る。
「しょぉおおがないなぁ。
どれどれ、仕事の合間にこの辺りくらいだったら案内してしんぜよう!」
そう言いながら、スーは目的の村に向かってプロトを引っ張る。
思ったより力あるなぁ…。
そんな事をボンヤリと考えながらされるがままにプロトは引っ張られた。
目的の村は家が20軒あるかないかの小さな村だった。
お役目と言っているが何をするのだろう?
スーの持ち物は、ランタンと腰にあるポーチだけ。
そんな事を考えていると、スーは村に入って直ぐの家の扉をドンドンと無造作に叩いた。
「おんちゃーーーん、御勤めだよおぉ!」
「バカタレ!
テメェは、仮にも屋敷を構えてる人間だ。
少しくれぇーは品のある挨拶をしやがれ。」
思わずプロトは、スーの側まで近づいて扉を叩くスーの手首を掴んで動きを止める。
すると目の前の扉がゆっくりと開いた。
中からは、白髪のヨボヨボの爺さんが見てくる。
「ぉお、スーちゃんご苦労様。」
「おんちゃんのは、まだ交換しなくてもいいからオイラが力を入れ直して終わりだね。」
スーは、そういうと玄関を入って直ぐにしゃがむと地面に置いてある盛り塩に力を…おそらく鬼気を込めているのだろう。
「生命の原点である海は対魔の力が備わっているんだ。
海の力が込められている塩にお役目の人間が力を込めると病気や悪霊とか命を忌み嫌う者を寄せ付けない結界になるんだよね。」
スーはその言うとゆっくりと立ち上がりパンパンと膝を叩く。
そして、老人と軽く会話をした後に報酬を受け取って腰にあるポーチに入れる。
「さぁ、次次。
じゃーね、おんちゃん。」
スーはプロトの手を再び引くと老人に手を振って次の家に向かう。
その後は特に特出する行動はなかった。
交換が不要であれば鬼気を込め直し、交換が必要なら新しい塩と交換して鬼気を込めるだけ。
団子の件もあるが…やはり、慣れているだけあって日がくれるより早く終わった。
「まぁ、こんなものでしょう。」
ふぅ…。
満足そうに額の汗を拭う動作をしたスー。
プロトが見るかぎり、スーは汗が出るほどの作業をしていない。
一々、リアクションがオーバーな奴だ。
「さぁーーて、ここからが本番!!
お楽しみのお団子の時間だよおぉ!!
いぇーい、ぱふぱふー!!」
両手を上げて元気よく飛び跳ねるスー。
本番は終わったんだよなぁ…。
楽しみなのはおまえだけなんだよなぁ…。
一応、雇い主だ。
そんな言葉を飲み込んではいたが、呆れたような表情を隠す様子も無く大きくため息を吐く。
村から団子屋から距離はあまり離れていない為に直ぐにたどり着く。
「おねぇーさん、団子を6本ちょーだい。」
団子屋が見えたスーは、駆け足でカウンターに向かい大きく開いた右手と人差し指だけだした左手を店員に突き出した。
6を示すように突き出す手を見た女性店員は満面の笑みで返事をして値段をスーに伝えた後に店の奥からゴソゴソの準備を始める。
「さぁ、プロト君はそこの椅子で座って待ってるといいさぁ!!」
「ぁあ、はしゃぎすぎて落とすんじゃねーぞ。」
椅子に向かってビシッと指を刺すスー。
雇い主のはずだが…今の自分の気持ちはまるで保護者だ。
やれやれといった様子で椅子に座るプロト。
「やあやあ、待たせたねー。」
ニッコニコで、団子の乗った皿と2つのお茶が乗ったお盆を持ったスーがプロトの隣に座った。
団子はみたらし団子のみ。
秘伝のタレが自慢だとか、団子の食感が…などと店員の様に得意げに話すスーの話を聞き流してプロトは団子を口に含む。
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