第七章 推 理

「父さんから初めての依頼を受けた俺は来栖と一緒に紀伊さとみさんの事について追っていた。そして、俺達二人は彼女の事を調べる為に海星に仮転入してその彼女の情報を集めたんだ。そしたら、紀伊さんは学校の黒の七怪という学校にまつわる怪談話、噂をおっていた事が解かったんだ。

 その噂って言うのが海星高校の北校門、通称裏門で通っている話にかんする事だった。内容は夏の夜に十時ごろにその付近に居ると地面から少女の呻き声や、裏校門の直ぐ外の道路に海星の制服を着た少女が這いずり助けを求める、って奴だった・・・。

 それから、更に紀伊さんの近辺を調べているとその噂が十四年前の二つの事件に繋がった。その事件は1997年7月20日に起きた潮見事件と言うものだった。その事件には当時の海星高校の二人の女の子がその事件の目撃者になってしまった為にその犯人によって拉致監禁されてしまう。犯人の名前は昭元洋平、拉致されてしまった女の子二人は・・・、えぇぇえっと・・・、たちばな・・・、かな?そう、橘加奈と那智朱鳥。当時まだ高校に上がったばかりの一年生だった。

 潮見事件から約一週間後。7月28日、また、殺人事件が起きてしまう。潮見事件の容疑者となっていた洋平とその父親である定次と言う人物が何者かによって殺害されてしまった。そして、その時にまた、殺人現場の目撃者となってしまった。二人の少女はどんな理由なのか、まだ本当の事は分かっていないけど、その犯人にとって彼女たちは都合の悪い目撃者で、将来の身の保身の為に手を掛けるしか他なかった、と俺は思っている・・・、・・・、・・・。

 それから、当時の警察は潮見事件の関連性から捜査していたようだけど、今日までその犯人を挙げる事はで来ていない。でも、ずっと紀伊さんの視点で事件を追っていた俺と来栖はその容疑者に成りえそうな人物を特定したんだ。でも、まだ、その時は証拠不十分、推理のいくらかの矛盾からその人が犯人に成りえない、って気が付いたんだ。その人の名前は沼澤康介。

 だけど、彼のお陰で、その矛盾を少なく出来るような人物が一人だけ浮上した。しかし、その人物は海星高校がある地元ではとても名声があって聖人君子と謳われる様な人物で周りの連中からは必要な情報が聞きだせない、って事が直ぐに分かる。

 でも、俺達は運が良かった。若槻さんと沼澤さんの追走劇で俺も来栖もね、そんな凄い人と一緒に居るのが似つかわしい男と一緒に居る所を目撃した。その男って言うのがさっき殺されちゃった橋場雅巳と言う人物で、海星高校の卒業生だったんだよ。父さんも、御神さんも知っての通り、彼が殺されていた現場の第一発見者は俺と来栖。

 橋場が既に息を引き取っていた事を知った俺は警察に連絡を入れる前に現場の様子を少し眺めたんだ。そしてら、旧い写真を見つけた。その写真の中に彼と那智朱鳥が海星の制服を着て本当に仲良しそうに写っていた。それを見て俺は二人が恋人、若しくは幼馴染み、って頭の中に浮かぶと、同時に橋場が殺された理由、って言うのも思い浮かんだんだ。彼は犯人を知っていた。今になってその犯人を強請った為に殺されてしまったんじゃないか、って。

 そして、彼は悔しかったんだろうね。犯人を追っている俺にささやかなメッセージを残してくれていたんだ。エー・エヌ、AN、って血文字を見つけたんだ。若し、これがイニシャルなら、俺の知っている人物は三人しか居ない。Asuka・Nachi、Akiha・Nishina、Akira・Nishina。この内那智朱鳥は当時の被害者で生きている筈がないから、犯人にはなりえない。

 理事の仁科秋葉と、教師の仁科彰。二人とも海星高校の教職員。これまでの事を整理すると仁科秋葉が容疑者として考えていいんじゃないか、って俺は考え付いたんだ。・・・、・・・、・・・、でも、一つだけ、一つだけ、まだ、一つだけ、矛盾している部分があるんだ。それは途中から情報集めの手助けに参加してくれるようになった若槻さんと三河先輩の集めた物から紀伊さんと明智先輩が死亡した時間に確実なアリバイがあると言う事。証言した人物が誠実な連中だと判断できる事からその言葉に嘘はないらしいんだ。昭元の二人を殺害する動機が何処にもない。

 でも、仁科秋葉理事長が事件に絡んでいる事は間違いない。・・・、・・・、・・・、・・・、彼女は主犯人じゃなくて、従犯と俺は思いついたんだ。これが今、俺が父さんと御神さんに教えてあげられる事だよ。

 それと今週になってから裏校門で暗くなると時間に関係なく、噂の呻き声や少女の人影を見たって生徒まで出てきたらしい」

「本当にそれだけですか計斗?隠し事は駄目です。全部、私に教えなさい。まだ、お前は何か、別のことを考えているはずです」

「・、・・・、・・、・・・・、・・・・・・、・・・・・、来栖にも、誰にもまだ言ってないことなんだけど、仁科彰。あの先生の経歴を探っていた。もしかして、仁科理事と関係があるんじゃないか、ってでもやっぱりでてこなかった。学校の先生も仁科彰と仁科秋葉理事長は何の関係もない、って簡単に返されたよ。それを口にしている時の表情の変化、声質にも、変容はなかったから、嘘をついている感じじゃなかった。何より、仁科彰は数年前まで海外で暮らしていたみたいだ」

「まさか、お前に頼んだ依頼が、剣護君が追っていた事件に繋がるとは・・・。計斗、ご苦労様でした。ここから先は警察の方にまかせなさい。勝彦君の探索も既に要請済みですから今日はもうゆっくりと休みなさい」

「嫌だよっ!俺だけこんな所でじっとしていられるか。俺の所為で来栖が、俺の不注意で来栖がどこかに行っちまったんだ。俺が探さないとっ!」

「待ちなさい、計斗っ!」

 俺は父さんの言葉も聞かないで家を飛び出していた。バイクは蒲田に置きっぱなしだから、電車でその場所まで取りに行く。

 日付が既に変わっている四月二十一日、土曜日の午前三時。その時間にバイクを駐車した場所に到着すると来栖のヤツに電話を入れた。しかし、繋がらない。GPSシステムで追跡を掛けようとしたけど、返って来たメッセージは〝追跡できません。相手の機能がONになっていないか、電源が入っていません〟と云う無機質な文章だけが携帯の小型ディスプレイに映っていた。

 俺は本当に仁科理事が犯人ならと思って仁科理事が住んでいる筈の江東区東陽に走り出す。約三十分掛けてその場所に着くと、その家の周りを確認した。誰かの気配がしたから、そっちに行って見ると、ただ、野良猫が欲情していただけだった。

 そんなバカ猫を睨みつけても俺のほうなんかお構いなし、って感じだった。仁科理事の領地内に侵入すると車庫らしき場所にはあの理事が乗っている外車がなかった。橋場を殺してからずっと逃げ回っているんだろうか?でも、本当に彼を殺したのは理事?俺の第六感が他の犯人が居る、って告げているけど、それが誰なのか、未だに解からない。だって、あの仁科彰には紀伊さんと明智先輩を殺したときの時間のアリバイがある。だけど、それを証言したのは誰だろうか?

 こんな時間にその情報を集めてくれていた若槻さんや、三河先輩を起こすわけには行かない。それからは来栖のことを考えながら朝八時まで闇雲にバイクを走らせていた。

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