第四章 十四年前の謎

 海星に表向き交換学生として現れて今日で五日目。俺としては調査は順調に進んでいると思う。

現在は一番情報収集が可能な時間の放課後だった。昨日、寝る前に決めていた手順で十四年前の二人の生徒の失踪について調べようと先生たちに聞いて回ったんだけど、返ってくる言葉はみんな同じ〝そんな話は聞いたことがありません〟だってよ。

 何でそこまで隠すんだろうか?そんな風に考えていたら情報処理科の先生がその事実を教えてくれた。定期的にある姉妹校内の人事異動で十二年前に殆どの教職員が他の姉妹校に移ってしまったためにそれ以前のこの学校のことを知っている人は少ないらしいんだ。隠すのではなくてマジで知らないみたいだ。

「僕もその時、福岡の清地総科校から移ってきたんですよ」

「それじゃ、関根先生、誰かその時移らないでこの学校に残った先生を知りませんか?」

「そうだなぁ・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、確か美術の園部先生と物理の椿田先生、後は誰か居ただろうか?ああ、いましたよ。スペイン語教師のエルネスティーナ先生」

「関根先生、教えてくれて有難う御座います。それでは失礼します」

 俺はちゃんと頭を下げてできるだけ丁寧な口調で言ったつもりだった。そんな俺を丸眼鏡を掛けたその先生はニッコリと笑った表情で見送ってくれる。俺はその三人の先生から十四年前に起きた何かを聞き出す事にしよう。

「ごめんなさいねぇーッ。私、十五年前からここでお勤めさせてもらっていますけどその様なお話し耳にした事はありません。事件の事なら警察に聞くのが一番でしょう」

「確かにティーナ先生の言葉は確かな事かもしれないです。グラシァス」

「アディオス、セニョォ~ルッ、トォージョォ」

 口ではそんな風に返していたがこの国の警察が俺みたいな少年に協力してくれるはずがない。だから、今日家に帰ったら父さんにでも聞いてみるかな?

「十四年前ですか?ワタクシ、そのころ丁度、産休で一年間お休みを頂いていたので・・・。協力できませんで、お許し下さいませね」って美術の園部先生は微笑ましくもおっとりした何か呑気そうな顔で口を動かしていた。

「えっ、物理の椿田先生は何処にいるか、って?椿田ならもう帰りましたよ。ほんの少し前に」

 一足遅れだったようだ。その物理の先生の家まで追いかけようか?でも、何も聞けなかったら無駄だし・・・、それだからと言って月曜日まで待つと二日も間が空いちゃうんだよな。今日と明日、何も得る事が出来なかったら日曜日にでも椿田先生の所に出かけるとしよう。

『ティー、ララッ、ティララララァ~ラッ♪』

「はい、東城です?ああ、来栖か?先輩の事何かつかめた?」

「そんことなんだけど、明智って先輩、昨日から自宅に戻ってきてないらしいんだ」

「先輩の家からは捜索願は出ているのか?」

「いや、まだ見たいだけど」

「なんかすっごく、やな予感がする。来栖、その口ぶりだと先輩の家に居るんだろう?若し、そうなら直ぐに警察に連絡するように頼めっ!」

「計斗はどうすんのよ?」

「いまから、そっちに行く。直ぐに行くから何処にも行かないで待っててくれよ」

 駐輪所に走りながら電話で会話していた俺はその場所につく頃に話しが終わっていた。バイクに跨りエンジン暖気が終わると直ぐに明智先輩の家がある猿江に向かって走らせた。学校からは北に向って三分と掛からない。

「おっ、来たか、計斗。流石にガッコから近いから言葉の通り直ぐだったな」

「明智先輩の捜索願は出してくれた?」

「あぁ~、もちよ。・・・、その顔だとガッコでは何も聞けなかったみたいだな」

「うん、十二年前に人事異動があって三人以外全員別の姉妹学校に移ってしまったみたいなんだ。一人は十四年前に産休で一年間休み。もう一人は外国語教師、外人さんで着任して一年経ったばかりで学校の生徒を全員覚えられる状況じゃなかったって。最後は話を聞く前に帰宅しちまったみたいだ。それで学校で何もすることがなくなったから紀伊さんと明智先輩の家に行って何か手がかりになるものでも見付かんないかなぁ~~~って思ったときにお前から連絡を貰ったんだ」

「明智先輩の所ではなんもなし。だから、紀伊の所に行こうぜ。ほらっ、計斗、向こう三軒隣が彼女の家さ」

 来栖は言葉と一緒にそっちを指差し、俺はそれと同時に歩き出して紀伊さんの家に向かう。そこに向かうと彼女の母親がいた。精神的に参っているのか?それが表情になって現れている。俺達は事情を説明して亡くなる前の娘の行動について玄関先で聞いていた。さとみさんは春休みには入ってから必死に何かを調べていたと言う。普段なら夜に出かけることのない彼女もその頃だけは両親や彼女の兄貴である修一達の言う事も聞かないでそうしていた、って聞かされた。矢張り紀伊さとみさんは何かを必死で調べてたんだろう。

「おばさん、何かさとみさんが調べていたか、手がかりになるようなメモとか、走り書きとかありませんか?いつも持ち歩いていた持ち物とか?」

 母親の直美さんは俺の言葉に暫く何かを考え込んで、何かを思い出すと二階に上がって行ってしまった。

「十四年前、一体どんな事件があったんだろうな、計斗?」

「俺には判らないよ。十四年前って言ったら俺もお前も二歳の頃じゃないか。それに静岡に住んでいたんだから東京の小さな事件なんて知らされている訳ないって」

「東城さんでしたね?これはさとみがいつも持ち歩いていた鞄なんですけど」

「女の子の持ち物ですよ?男の俺達が中見ちゃっていいんですか?」

 おばさんは小さく頷いてくれたから俺達は小さなハンドバックのチャックを開いてその中を確かめた。筆記用具、ハンカチ、ティッシュ、眼鏡ケースとコンタクトレンズに使う何か、生徒手帳にメモ帳。メモ帳には何も書かれて居なかった。生徒手帳の電源を入れて中には記録されているデータを確かめた。

「なあ、来栖?このメモの場所シークレットかかってんだけどさ、お前の手品でパパッと外してくれないか?」

「あのなぁ、計斗?お前、解かってて言ってるんだろう?種のないマジック何チヤァないんだ。でも、まあ、こんなもんには大抵欠陥部分がある。それを利用すれば何てことないぜ。この生徒電子手帳だって同じ。ほらっ、計斗、お前のそれだせよ」

「あぁっ、うん・・・、・・・、・・・、はい。出したぜ」

「こっちのメモデータ転送すっから、そっちは受信モードにしてくれよ。・・・、・・・・・・、・・・・・・・・・、どうだぁ~、計斗?」

「アッ、中身が開いた。さっすがぁ来栖・・・、・・・、・・・???なんだぁ、これ見てみろよ」

「ハハハッ、そりゃしゃぁないだろう。文字化けしてっ所は無視して解かる所だけ読めばいいだろう。あとはお前の推理で何とかしろよ」

「おばさん、有難う御座いました。俺達これの事を調べますので失礼します」

「どうか、宜しくお願いいたします。それと貴方たちも危険な事には足を踏み入れないで下さい。もう、さとみと同じような子を出したくありませんから・・・」

 俺達はおばさんのその掛けてくれた言葉に頭を下げてその家を後にする。そして、何処にも寄り道せずに自分の家に帰っていった。

「おオッ、計斗。夘都木のおじさんのメモが置いてあるぜ。・・・、何だか、数日は家に帰れないって事みたいだ。ああ、それと〝なるべく携帯電話への連絡は避けるように〟だってよ」

「はぁ~~~ん、何でこんな時に?せっかく父さんに紀伊さんの生徒手帳のメモから解かった十四年前の昭元家殺害事件の事を聞こうと思ったのに」

「なんだ、うんだったら別におじさんに聞かなくたってアレで調べればいいじゃんかよ」

「そうだね」

 俺は制服のまま自室のコンピューター・ディスクに座ってインターネットに接続した。

「先ずは表のサイトから検索してみようか?・、・・、・・・、・・・・、・・・・・、・・・・・・、16件か。内容はっ、と・・・。うっ、全部リンク切れじゃないか。期待させやがって」

「表が駄目ならアンダーグラウンドに行こうぜ。東京の事件だからあのサイトがいいだろうよ」

「ああ、あれ?東京アンダーグラウンド犯罪事件書庫?それじゃ、行ってみようか?アドレスは確か・・・、W3・ugTokyocclib・netだったな。行った、行った。それじゃ検索を掛けてみよう。・・・、・・、・流石に早いな」

「なんって書いてあんだ?俺さまにも見せろよ。何、何、1997年7月28日、市宮幸乃、山仲あきら、両名殺害、及び目撃者の拉致。それら一連の事件に関与していたと思われる昭元洋平容疑者が自宅玄関先で殺害された。殺害されていたのは彼だけではなく、父親の定次も。通報者は昭元定次の次男、昭元雄太。潮見事件以来行方が知れなかった私立・海星高校、保健体育科一年、橘加奈、及び那智朱鳥がその場に居ると思われたが警察官が現場に駆けつけた時には既に二人の女子学生は定次と洋平を殺害したと思われる犯人によって連れ攫われたと判断。警察関係者は潮見事件との関係を重視してそれに関係する団体ならびに個人を調査の対象として捜査を進めているが2012年現在も事件の解決はされていない。時効は今年の7月27日。計斗、どう思うよ?これと俺達の調べていたうわさが関係あるっていうわけ?」

「その真実に紀伊さんは辿り着いて・・・、殺されちまったんだろう?来栖、今日まで手伝ってくれて有難う。でも、これから先は駄目だ」

「危険だから降りろ、ってか?今更何言ってんだ。嫌だぜ、絶対いやだ。お前だけ危険に足を突っ込んだままで、俺様だけが安全な所にいるなんて納得いかねえぇよ」

「解かった。それじゃ、最後まで一蓮托生だからな。その代わり、一人で行動している時は必ず身辺の警戒を怠るなよ」

「おうよっ!そんで、これからどうすんのさ」

「今日はもうお休みして、明日と明後日はこの事件について調べる。来栖、遊べなくなるけどいいんだな?」

「そんなコト聞くな、もとより承知の上」

「来栖、お前も物好きだよ、まったく。でも、感謝してる」

「俺様が物数奇だって?フンッ、言ってくれやがって。計斗も似たようなもんだろうが」

「はい、はい、そうでしたぁ・・・。明日までまだだいぶ時間が有るな。なあ、来栖、今日は一度三戸に帰ったらどうだ?藍野さん、きっとお前の事心配してるぜ。海星で女の子に手をだしてないか、ってね」

「何で、そこで千奈津がでてくんだよ。かんけぇ~ねぇってあんな女。・・・、計斗?今日はホントにもう何もしないんだな?・・・、・・・、・・・、そうか。ウンじゃァ、ちょっくら俺様は東京観光でもしてくっぜ。必ず明日の朝までには返ってくる」

 来栖はそう言って俺の家を出て行った。奴は東京観光って言っていたけど三戸に帰るつもりなんだろう。まったく素直じゃないヤツ目、来栖は。

 さてと、俺はどうしよう?駿輔父さんの残していった伝言の内容を推測すると何か大きな事件の捜査中で山場を迎えてる、っぽいな。元デカの父さんの事だから心配する必要ないんだけど、怪我だけはしないで欲しい。

「あぁ、どうしよう?今特に整理や推理する事なんてないし。そうだなぁ、出来ることといえば明日から何処で情報を集めようって事を検討しておくくらいかな?」

 俺以外誰も居ない台所で冷蔵庫を開けながら独りでそんなコトを口にする。


 四月十四日、土曜日。来栖の奴は朝八時前に俺のところに帰ってきた。

「来栖、結構帰ってくるの早かったじゃないか。俺的予想は九時、十時って所だったんだけどな」

「アッと、計斗、これお前にって」

「誰から?」

「千奈津からに決まってんだろうが。グハッ、しまった」

「クククッ、やっぱ帰ってたんじゃないか。なんだかんだいっても藍野さんの事心配なんだろう」

「うるせえぇよっ!計斗まだお前、朝飯食ってないんだろう?俺様もお前の為に食べてねえぇんだ。一緒に喰うぞ」

 来栖の情けない顔を笑ってやってからヤツを家に招きいれる。ダイニングで食事を始めた。

「さすが藍野さん。よく出来てるね」

「とりあえず、千奈津の家は中華料理屋だからな。暇な日はいつも仕込みや調理手伝ってんだ。不味かったら誰あんな店はいんねえよ。・・・、でよっ、今日はどうするわけ、計斗?」

「今日は三好町って場所に行く。そこで、昭元家殺人事件についての事情聴衆だ。住人の皆さんに迷惑かけるような事するなよ、来栖」

「そりゃぁ、てめぇも同じだぜ。三好町ってのは?」

「場所は海星の近くだからそう遠くないんだ」

「そっか、ウンじゃァ、九時ちょい過ぎにつければいい時間帯って訳だな」

 それから、俺達は来栖が口にした時間当たりに三好町に向うと二手に分かれて、昭元と言う家のことを近所の人たちに尋ね始めた。

 聞きまわるのはいいんだけど、話を聞かせてくれる人の殆どが十四年前以降にここに移って来た人たちが多くてそんな事件があったって事を知らないようだった。それ以前からの住民もあまりその事を話してくれない。それに俺がそんなコトを聞きまわっている事を不審に思っているような表情だった。

「おばさん、お掃除の邪魔しちゃって悪いんですけど、少しだけ俺の話を聞いてくれませんか?」

「あらぁ~っ、可愛い坊やね?邪魔なんて事、全然ないわよ。アタシに話しってなんなのか知らないけど、幾らでもおばちゃんは付き合ってあげるんだから・・・」

「あのぉ、昭元って家の人が十四年くらい前にこの三好町で・・・、その殺されたって話しがあるみたいなんですけど、それって本当なですか?」

「また、その事件の事なのかい?」

 今、おばさんは〝また〟って言葉を口にしていた。一体どう言う事なんだろうか?俺以外にこの人に同じような事を聞いた人物が居たんだろうか?それが別方向に向って行った来栖じゃない、って事は確かなんだけど。

「また、って誰かおばさんに俺と同じことを尋ねた人がいるんですか?」

「そうよ、一週間くらい前かねぇ?一週間くらい前にとっても男前な若い弁護士さんがアタシのとこを訪ねて来てくれてね。その話を聞かせてくださいってお願いされちゃったもんだから、詳しく答えてあげたのよ。それとね、その弁護士さんには言うのを忘れちゃったんだけど、坊やと同じくらいの女の子が春休みの頃に訊ねて来たわよ。やっぱりその子もその事を・・・」

「俺くらいの年齢?若しかして、その女の子ってこの写真の子じゃないんですか?」

「ああ、この子よ。間違いないわ。坊やはこの娘さんのこれかい?」

「えっ?ちっ、違いますって・・・。学校が同じだけなんです。それよりもその女の子に話したことと同じことを俺にも教えてくれませんか」

「立ち話も疲れるから、あたしの家におあがりよ。そこでゆっくり聞かせてあげるわ・・・」

 おばさんはそう言って家宅の方へと歩いて行ってしまった。中に入るとお茶と羊羹を勧められる。

「アッ、どうもありがとう御座います」

「それじゃはなすよ。昭元って家はね、アタシの家の向かい三軒隣。家主は定次、奥さんは美津子さん。二人の男の子が居て長男に洋平と歳の離れた次男にゆうちゃん、ああ、えっと、雄太ちゃん、って子が居たわ。美津子さんはゆうちゃんが小学校に上がった頃に亡くなってしまったのよ。元々体の弱い方だったからね。そして、その事件が起こるまでは回りに住むみんな殆どが知らなかった事があったのよ。それは旦那の定次も長男の洋平も梶木組って暴力団の者だったって事を・・・。定次は相当の悪で三好町以外には定次に恨みを持った連中が多いのよ。警察の人達はみんなもう死ンじまった洋平がその頃に起こした対抗暴力団がらみの殺人事件の仕返しでやられちまったんだ、って言っていたわ。その時に洋平は二人の女の子を拉致していたようなんだけど、定次と洋平が殺されちまった後、それをやった犯人によって連れ攫われてしまったって話し。それと今もその殺した犯人は捕まってないのよ」

 今も犯人が捕まってない?二人の女の子?それと海星高校の噂。これ等が一体どう一つに繋がるんだろうか?今それに関して解かることはないけど、でも、解かる事が一つある。それは、その繋がりを知ってしまった紀伊さとみさんはその犯人によって殺害されてしまった事だ。

 最後にそのおばさんから一つだけ重要な手がかりになりそうなものを貰った。それは彼女にも伝えた事らしい。俺はおばさんにお礼を言ってから外に出て話を頭の中で纏めていた。そして、それが終わった頃時計で時間を確認すると来栖のヤツと待ち合わせした時刻になりかけていた。

「オッ、計斗、時間通り。何か良い話は聞けたか?俺様の方は昭元の事件に関係する事は殆ど聞けなかった。でも、俺様たちが追っている事件に関わる事は仕入れてきたぜ」

「えっ?なに俺達の方に関係することって。まあ、良いや。どこかで飯を食いながら話そう」

「ンじゃァ、今日はインナンに連れてけよ。メチャロン、お前の奢りでだぜ」

「はい、はい、好きなだけ、胃が破裂するくらい食ってもいいぜ」

 それから、俺達はハンバーガー・ショップへと昼を取りに向う。

「ダブル・ダブルバーガーのセット一つ、来栖は何頼む?」

「俺様はトリプル・チーズ・バーガーを二つ、それとポテチのMと飲み物は日替わりトレンド・シェイクのLをお願い。会計は隣のこいつ持ち」

「焼きあがりましたら、テーブルにお持ちいたしますので、どうぞ、お席でお待ちください」

 番号札を貰って座れる席を探すと他の客で二人座れる場所がなかった。仕方がなく、空くまで待っていると頼んだ物が運ばれてきた頃に窓際奥の客が帰って行った。そして、出来立てのそれを食べながらお互い集めた情報について話し始めた。

「じゃあ、俺様の方から話すわ。向こうに居る時も言ったけどな、昭元って連中が殺られちまった、って話は聞けなかったンよ。そんでもよ、俺達がはじめから追っている方、紀伊の方なんだけどさぁ、春休み中に明智センパと紀伊はその事件の事についてあそこ等辺、近所で聞きまわってたそうだぜ。写真見せて確認取ってから間違いねえよ。んでさぁ、昨日も三好で明智センパを見たってのも仕入れている。あとな、昔の事件に関係あるかしらねぇけど、十四年前のその事件があった時間帯にあそこ等辺では見られない車が数台、見掛けた、って事を聞いてきたぜ。でもな、その覚えは確かじゃないってよ。俺様の方はこんなもんよ」

「じゃァ、次は俺の番だね。紀伊さんの事を聞けたのは一軒だけ。明智先輩についてはゼロ。その代わり昔の事件について詳しい事が解かった。・・・、・・・・・・、・・・、・・・・・・・・・、・・・、ってこんな内容さ。学校の噂と十四年前起きた事件にどんな繋がりがあるのか、推理材料がたらなすぎて今は何も思い浮かばない。でも、鍵を握っているのは当時の海星高校の女の子二人。橘加奈さんと那智飛鳥さんだと思って見当はずれではないと思うよ。それと車の事なんだけど、その不審車は間違いなく犯人の物だと俺は確信している。だって、そうだろう?二人も連れて行くのに歩いてなんか居たら見られたとき不味いだろうし、来栖が見せてくれる瞬間移動のマジックじゃないんだよ。だから、何より現場から逃げるのには不都合すぎる。大きな車なら女の子二人くらいトランクに隠す事だって出来ると言う利点があるし。それが俺の確信理由だよ」

「それじゃァ、明日はその車の持ち主を探そうっての?」

「そんなコト出来るわけないよ。もう十四年も昔の事なんだ。同じ車を乗っているなんって今の人たちにはあんまりないからね。何か理由をつけて売ッパラってるか、してると思うぜ。だから、俺達は紀伊さんの行動を追う。彼女の追った道を辿ればそこに真実があるはずだから。それと、明智先輩よりも早くそれに辿り着かなきゃ駄目なんだ。先輩が復讐を考えてないとは限らない。若しくはそうじゃなくても犯人に会うとなれば先輩だって・・・」

「犠牲者は増やしたくないってことね。俺様達は犯人がワカリャ、後は夘都木のおじさんに頼んで警察に動いてもらうだけだから身の危険はないもんな」

「ちゃんと解かってくれてるんだな、助かるよ。そう、俺達のやるのはあくまでも警察の事件解決の捜査補助をする事。捜査じゃなくて、調査」

「俺様にはその言葉の違いなんざぁ、わからねぇけどよっ。計斗が俺様に何を伝えたいのか、って事は理解できるぜ。なんたってぇ俺様とお前はべスフレだからな。そんじゃァ、飯も食い終わったし、紀伊とセンパを追おうぜ」

「それじゃ、再開しよう。時間は暗くなる前のゴーゴまで。それ以上は駄目だからな」

「俺様が約束やぶらねぇのは知ってんだろう?それ以上の言葉は無用だぜ。俺様がセンパの情報を集める。それで良いだろう?」

 品川駅から海星高校付近に戻ってくると俺達はまた二手に分かれてそれぞれのターゲットの足取りを追う。でも、この日は午前中以上の手がかりは見付からなかった。

 それから、翌日の四月十五日、日曜日。それは起こってしまった。

 紀伊さんの手がかりが不透明になったまま。この日の午後を迎えてしまう。現在も来栖とは別れて彼女の事を追っている。バイクに跨りながら周囲を確認するともうすぐで完全に陽が暮れてしまう時間まで迫っていた。

 走行中にバイクのメータの方に目をやると自分で取り付けていた携帯電話の着信を知らせるランプが光っていた。そして、バイクを停められそうな場所まで来ると直ぐにそれに出る。

「計斗、コール・スリーで出ろ。待たせすぎだぜ、こっちは急用なんだっ!」

「怒るなって、来栖。バイク運転中だったんだ」

「住所言ったって解かるはずねぇから、GPSサービスで俺さまの居る場所まで来い。直ぐだ、直ぐにだからな。俺様のジー・ナンはちゃんと登録してくれてんだろう?」

「解かった、直ぐに向うから。だから、絶対危険からは離れてくれよ」

 俺はバイクのナヴィゲー・ションシステムと携帯のそれを連動させて大きな画面で確認しながら来栖のところに向う。そして、その時にひとつの事を思い出した。それは紀伊さんが遺体で見つかった時に彼女の携帯のバッテリーが抜かれていたのは、彼女が見つかった時に身元が直ぐバレない様にする為じゃなく、誰かにこのサービスを使われて彼女の居場所が直ぐに発見されない様に、って犯人が思ったんじゃないか、って事。このシステムはお互いの携帯電話の電源が入っていなかったり、その機能をオンにしていないと使えないんだ。まあ、あくまでも予想だけどね。

 目的地に到着するとそこは公園の中だった。そして、周囲にはパトカーが何台も停まっている。凄く嫌な予感がして、周囲を見回して来栖のやつを探した。

「おぉっ、カズト!俺様はここだぜぇーーーっ」

 大きな声で俺を呼ぶ声が聞えた。紛れもなく来栖のヤツの声だった。来栖が無事だった事にホッとしたけど、安心なんってしていられたのはその時だけだった。

「計斗、アソコをこれで良く見てみろ」

「・・・、・・・、・・・、もしかして。クソッ!遅かったカッ・・・。見つけたのは来栖、お前なのか?」

「いや違うぜ、センパを追っていてこっちの方にきてたんだけど・・・パトがずらっと走ってたから何かなぁって追ってきたらこれだぜ」

 周囲にはすでにキープ・アウトと印字された黄色のセロハンが現場付近を囲んでいた。俺は来栖に渡されてスコープで既に始まっている鑑識たちによる検死の方を見るとその場所には大樹に寄りかかっている明智先輩の姿があった。

「おい、計斗。俺様たちも中に入って調べられないのか?」

「無理だよ、父さんたちが居るわけじゃないし。俺が持っている探偵の資格もまだ仮の物だから一部の人達しか知らないんだって」

 そんな風に来栖には答えながらギリギリの所まで移動して中を覗き込んでいた。

「あら、計斗君じゃない?それに貴方は来栖勝彦君でよかったわよね?」

「こんな所で何をやっているのですか計斗?それと勝彦君、これの手伝いいつもご苦労様」

「御神さんと父さんこそ、どうして?」

「捜査で私は御神君とこの辺にずっといたのですよ。無論現在もそれを遂行中なのですが事件だと言う事で彼女の方に連絡がありましてね」

「なら、父さんっ!あの人のところまで連れてってよ」

 言って何で俺がそんなコトを口にするのかその理由を聞かせてやると、直ぐに来栖と一緒に明智先輩の方に連れて行ってくれた。そして、俺達のことを鑑識の人に説明してくれた。

「ねぇ?鑑識さんっ!もう、死因は解かったんですか?」

「いや、それがまだなんですよ。見つかった物といえば、ほら、この右手指先の出血の跡と左手の甲に書かれた〝ナナカイのノロイ〟と言う血文字くらいな物で・・・、この程度の出血で人が死に至る事はありません」

「呪いだぁ?そんな胡散臭いもんで人が簡単に死ぬようだったらモラルの低すぎるこの国は死体の山だぜ。なあ、計斗、ぜってぇこれは・・・」

「そうだね、来栖の思っている通りだよ。明智先輩も俺達よりも早く真実に辿り着いちまったみたいだな・・・。あのぉ~、首周りのどこかに真っ黒の焦げ痕が二点、その幅はだいたい五センチくらいなんですけど、そんな物は見付かりましたか?」

「それだったら、ここ、ここを、喉もとの所を見てください。多分、君が言っているのはこれのことだと思うのですけど」

 紀伊さんと同じように黒い斑点が二つ。スタンガンで先輩も・・・。

「父さん、間違いないよ」

「そうですか・・・、計斗。犯人のめぼしはまだついていないって顔ですね?なら、直ぐに追いかけなさい。計斗の考えのままに。ここは私が事情を説明しておきます。勝彦君、まだ暫く、この子の事を頼みました。それと、二人とも私が許すのは危険の及ぶ一歩手前までですよ。判断をけして間違わぬように」

「おうよっ、とうぜん。そんじゃ、計斗、行こうぜ。話しておきたいこともあるし」

「父さん、アトは宜しく。御神さんも仕事頑張ってください」

 来栖と一緒に俺はその現場から随分と離れた場所でヤツの話を聞き始めた。

「俺様、さっきまで物理の椿田センセの所に行ってたんだぜ。そしたら、メチャグレ、面白い事を聞かせてもらっちまったよ。何でもセンセ噂を流した連中を知っているって言うんだぜ」

「連中?連中って事は複数の人物が同じ頃に裏門の怪談を作った事になるんだな?」

「きけっ、計斗。メチャスゴなのはここからだぜ。その噂を流した一人に雪村誠ってのが居るのよ。その名前に聞き覚えねぇか?」

「ユキムラマコト。ちょっと待って、・・・、・・・、・・・、雪村誠、って雪村先生?俺等の去年の担任じゃないかっ!」

「そうさっ、雪村センセ。センセ実は海星高校出身だったんだってよ。カイセって高校までだからそのアトは京都の山陵大学に行って戻ってきた時はカイセじゃなくて内らん所のセイリョのセンセになったわけさ。今から雪村センセの所に強襲しに行くけど、計斗も行くだろう?」

「ああ。でも、雪村先生は一体何を知っているんだろうか・・・」

「行って聞けリャァ、わかる事だろう?そんな悩む事ねぇって」

 そんな訳で先生が住む埼玉県春日部市粕壁に移動した。先生の家から聖稜学園までは車で三十分程度、電車なら二十分くらいで通勤できる範囲内にあるんだ。

「なんだ、お前たち?連絡も遣さず急に俺のところなんかに来たりして?」

「よっ、ユッキーああぁ、若しかして、奥さんとエッチにいちゃついたりしちゃったりなんかしてた?ククッ」

「来栖っ!馬鹿なことを言ってるんじゃない。それに誰がユッキーだって?もっと先生を敬いなさいっ!」

「俺様が認めるようなちゃんとした先生だったら、そうしてやるさ・・・、冗談だって、雪村センセ。そんな顔スンナよ。内のガッコに莫迦なことする様な駄目な先生なんて一人も居ないの知ってからよ」

「・・・、来栖。それくらいにしろ、って。雪村先生に失礼だぜ。俺達、先生にお話しが有ってこんな時間に来ちゃったんですけど・・・」

「まあ、いい、二人とも家に上がりなさい」

「あらっ、まぁ~君ところの学生さん?こんばんは」

「お前たち、夕食は済ませたのか?・・・、・・・、・・・、まだの様だな。美紗、こいつ等の分も用意してやってくれないか。お前等の話は食事をしながら聞いてやる」

「雪村先生、って海星高校の出身だったんですね」

「なっ、なんでそれを・・・。はぁっ~、お前等、今向こうに交換学生として行っているんだったな。俺がアソコの卒業生だったと知る機会は十分にあるか・・・・」

「センセっ、この二人のどっちか、もしくは両方と会ってないっすか?」

「・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、うぅん?こっちの女の子どこかで・・・」

「まぁ~君?若しかして私に隠れて他の女の人に逢ってるなんてありませんよ、ねぇ~っ」

「綾野先生、そんな疑わなくても大丈夫だって。雪村先生はそんなコトをする人じゃないって俺達以上に先生の方が知ってんでしょ?この写真の彼女は紀伊さとみさん、って言って海星の二年生だったんだ。それと先週、死体で発見されチャッたんだよ。しかも自殺じゃなくて殺されて」

「東城、そんなじかに殺された、なんて口にするものじゃないぞ。まあぁ、確かにこの生徒は聖稜の俺のところまで来たけど・・・」

「だって事実だからしょうがないんだって・・・、何で先生動揺してるわけ?まっ、まさかっ!な訳ないか。雪村先生がそんなコト出来るほどの度胸のある先生じゃないし。前置き話すのが面倒だから、直に聞きますよ。先生、十四年前の海星に居たころ噂を流したって聞きました。一体なんでそんなコトをしたんですか?」

「東城、前置きなしで話せる物か。物には順序がある。紀伊はちゃんと私のとろろに来た理由を告げてくれたぞ。だから、それに答えてやった。道理をわきまえなさい」

「ウゥ、面倒だけど簡単に説明します。俺達が海星に突然交換学生としていったのは実は紀伊さんが殺害された理由を探る為だったんです。先生も内の父さんが探偵って事は知っているでしょう?それで・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・と言う訳です」

「彼女の足取りを辿ってきたら俺のところに辿り着いたって訳だな?それじゃ、俺も答えを返してやろう。その噂、俺は広める積りなんてなかった。勝手に噂として広まって俺が卒業した頃は学校の怪談の一つに成ったって言うのを後輩から聞いて知っている。十四年前の最後の夏休みに入った頃、正確な日付は7月28日、月曜日。時間は午後七時半。俺を含む同級生九人と遊びで夜の学校に侵入して、部室で怪談話をしてたんだ。その話はだいたい十時半くらいまで続けていた。最後の締めくくりとして三人一組になって学校の怪談にまつわる場所を見回りしているはずの二人の用務員に見付からないように巡ろうって事になったんだ。俺がいた組は二番目。総てを見回って最後に帰りは裏門を通って近くの寺で待ち合わせになっていた。その頃の裏門側は治安が悪くて開く事はなかったんだ。しかし、その門の周りの壁に穴が幾つも開いていてね。その中の一つに学生が簡単に通れるような穴が一つだけあって、そこを登下校に使うのは当たり前の事だった。だが、その日は別だったんだよ。学校へ侵入する時もそこから中に入ったのだけど、帰る頃は殆ど埋まってしまっていた。残っていた穴も通り抜けられないくらいまで修復された状態でね。どうしようかと思ったのだけど、その時だけ常に閉じられていた裏門が開いていたんだ。そちらの方を向いた時に人影が地面に倒れているのを見たような気がして近付こうとしたんだが背後の方から何か不気味な呻き声が聞えたので恐怖心を押さえて三人で振り向いてその声が聞えた方に向ってみると・・・、俺だけ大きな穴に落ちてしまったんだ。それっきり声がしなくなって穴から二人に出してもらった後にもう一度、裏門の外を見ると誰も居なく、すぐに人影があった場所まで駆け寄ると・・・、もう言わなくても解かるだろう?俺達は怖くなってもう何も考えず走って前の仲間が待っている寺の前まで向った。それから、待っていた仲間にその事を伝えると呻き声は聞かなかったが、人影は見たって言うんだよ。そして、午後十一時半を十分過ぎた頃に最後に戻ってきた同級生はうめき声だけははっきりと耳にした、って答えたんだ。夏休みが終わった頃はその話で持ちきりだったよ。それと、一年の顔も名前も知らない後輩二人が何かの事件に巻き込まれて行方不明だって事を知った時に俺達が見たのはその二人の内のどちらか何じゃないのかって俺はそう思ったんだ。だが、今までずっとその事を忘れていたんだけど、紀伊さとみが私の所に現れて、その事について訊ねられた時は内心良い思いはしなかったね」

「雪村先生、その時の事をもっと詳しく思い出してください。その時先生たち以外誰か居なかったんですか?学校の中に先生の知らない車が停まっていたとか?」

「学校の中に車が停まっていたか?勿論駐車されていたよ。海星は一部の駐車場を地域の住民に貸していたからね。そこに止まっている車なんて私の知らない人のものばかりだ」

「そうですか・・・。これじゃ、犯人を特定するには至らない・・・。ただ、噂の原本が解明されただけだよ、はぁ~っ・・・。アッ、先生ご馳走様でした。なだ?来栖、不満そうだな」

「一言も口挟めねぇなんて、息が詰まりそうだったぜ。あぁ、美紗センセごっそうさんっす。噂の事は解かったけど、計斗これからマジホンどうすんのよ?」

「もうこうなったら、やる事は一つしかないよ。凄く面倒だけど、紀伊さんと明智先輩が最後に会った人物を探すしか方法はない。そして、其奴が犯人だ。それが雪村先生じゃないことを祈るだけだね」

「なんか、すっごぉ~~~くっ当たり前の事だよな、それって?あぁっメンクセ。もう、この際、ユッキーを犯人にして終わりにしようぜ」

「あのなぁ、来栖。お前が本心でそう思っていない事は知っている積りだから叱りはしないが・・・、・・・。まあ、それよりも二人ともそれが解決したら聖稜に直ぐ戻ってくるのか?」

「そうですよ、だってそれだけのために海星に行っているようなもんですから。コイツのほうは解からないですけど、俺は終わったら聖稜に戻ってきます」

「そうか、今年のお前等の担任はまた俺だ。宜しく」

「あれ?だって俺達の担任は御剣だったはずだぜ」

「御剣はお前等が向こうに行っている間に林靖に持ってかれてしまったよ」

「ふぅ~~~ん。それじゃ、戻ってきたら今年もまた宜しく雪村先生」

「御剣先生はマジで良いセンセなんだけ、俺様としてはユッキーの方が気楽に話せるから、まあ、帰ってきたら、問題児二人だけどまた相手してくれよ、雪村センセ」

「何を言っている、来栖?問題児なのはお前の方だけだろう。東城はいたって優等生だぞ、表面上はな」

「雪村先生、最後の言葉ホンチョ、間違っています。それじゃ来栖帰ろうか?」

「だな。これ以上俺様たちが居たら綾野センセとしたい事出来ないだろうし、帰ってやっか」

「先生っ!何か思い出した事があったら直ぐに連絡ください」

 玄関先で靴を履きながら雪村先生にそうお願いした。

「来栖、こっちまで来たんだ。立教台まで戻って藍野さんに逢って来たらどうだ?邪魔しないぜ」

「おいっ、計斗、変な詮索をするなつぅ~~~のっ!千奈津はただの幼馴染み。別になんともおもちゃァいねえよ」

「統計では大抵の幼馴染みはみんなそういうらしいよ。俺の今まで四年間のお前等二人のデータから推理して推測すると間違いないんだけどなぁ・・・・・・、いってぇーーーっ!なにすんだよ、くるすっ!」

「くだらねぇ、こと言うからだ。また同じこと言うんだったら計斗、てめぇを種無しで胴体切断マジックの実験体にしてやる」

「それだけはごかんべぇ~~~ん」

 そう言って返してからヘルメットをかぶり東京に向かって先に走り出した。

 雪村先生の話で十四年前の事件の全容を頭の中で描く事が出来た。解からないのはその事件の犯人だけ。どんな奴かまだ解からないけど、おおよその見当は付いている。多分、当時の海星の学校関係者に間違いはないんじゃないか、って思っている。

 十四年前、うぅ~ん、あと数ヶ月で十五年になるんだから四捨五入して十五年って思った方が良いんだろうか?まあ、そんな事はどうでもいいんだけど。当時、昭元の家に居たはずの二人の海星高校一年生女子はその家の二人を殺した犯人によって連れ攫われたんじゃなくて、殺害の目撃者になってしまった彼女等を止む得なく殺したんじゃないのか、それが俺の考え。なぜなら、彼女等にとってその犯人は学校の誰かで顔見知りだったから口封じする=殺す。若し脅迫していてもそんなのは長続きしない。逆に脅されるとも限らないと犯人は考えたから、それしか選択肢がなかったんだろうと思うよ。

 学校の様子を熟知していた人。開いていないはずの裏門がその日にだけ、雪村先生が帰る時間帯だけ開いていた。開いていた壁が塞がっていた。その時に呻き声と道路の方に人影。殺したと思っていた二人、若しくは片方が生きていて、犯人が使っていた車から脱出。でも、その後は何処に消えたのだろうか?矢張り犯人に片付けられた?どの場所に?うぅ~~~ん?まさかねぇ・・・、それは有りえないよ。しかし、どうして学校なんかに連れ込んだのか?

 鍵が掛かっていた校門を開けられる人物は学校内では限られているはず。しかし、若し、犯人が全然学校の人間じゃなくて、ただ、単に二人の女子高生の制服が海星の物だって知っていて、それを利用して学校に捨て様としたんじゃないだろうか?鍵はピッキングで開ける事だってその知識があれば容易。そんな考えも浮かんでしまう。今はそのどちらが正しいのか、って判断する材料が少な過ぎる。紀伊さんや明智先輩は一体どっちの方を取ったのだろうか?俺が考えた以外に何か別の推理もあるのだろうか?

 新しい情報が手に入っても、また新たな疑問が湧いて来る。永遠の繰り返しの様に思えるけど、そんな事はありえない。目に見える事実は多くても、必ず辿り着ける答えは一つしかない。どんな殺人事件でも事件の真実は常に一つなんだ。俺はその言葉を証明してみせるっ!

 なぁ~~~ん、って強気な事を思っては見るんだけど、今の俺はその真実にどれだけ近づけたんだろうか?後どのくらい進めばその真実に辿り着けるのだろうか?

 さぁ~~~ってと明日はどの路線から攻めようかなぁ・・・。

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