第三章 二つの関連性

 翌日、四月九日、月曜。俺と来栖は海星高校に交換学生として来ていた。距離的にバイクでの通学は許されていなかったけど、父さんがそこは何とかしてくれていた様だね。だけど、クラスは人数の関係でどうしても別々となってしまう。

「来栖、いいか余り目立つような自己紹介はしないで呉れよ」

「大丈夫だって、心配スンナ計斗。昼休みに学食で落ち合おうぜ」

 奴はそう言って二年G組に入っていった。俺はその前隣のF組。そして、教室の中に入ると俺の登場を待っていた生徒達は一斉に騒ぎをやめてこっちを向いていた。

「それじゃ、簡単に自己紹介をお願いしますよ」

「はい、先生。制服見ても分ると思うけど、聖稜学園から来た東城計斗です?あっ、キミは若槻さん?」

 俺がそう口にしまうと教室中が変に色めき立つ。そして、来栖の入ったクラスの方からやたら騒がしい声が聞えてきた。あの野郎、目立つ事するな、とお願いしたのに自己紹介のときにアレを皆に見せたんだろうな。それで、俺の方のクラスは若槻さんの名前なんか呼んじゃうもんだから他の生徒が変に勘繰っちゃって騒がしかったし、彼女にも迷惑をかけてしまった。

「それじゃァ、若槻、東城の事を知っているなら東城の事は若槻に任せていいな?それじゃ、東城あそこの席に座ってくれたまえ・・・。・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、連絡は以上だ。後はお前たち自分で生徒手帳に転送されているそれを確認して置けよ」

 一時的な俺の担任になるその先生はそう言って教室から出て行ってしまった。しかし、若槻さんと同じクラスになるとはな。担任が去って直ぐに一時間目の授業の先生が入ってきた。それからは授業の合間にクラスの連中に上手く会話を持ち込んで学校の噂を聞きまわっていた。そして、来栖と会おう、って約束していたお昼休みに入ると学校食堂へと向う。

「おせえじゃねぇか、カズ・・・、オォ、若槻じゃない?何で、計斗一緒なんだぁ?」

「こんにちは来栖さんであってましたよね?東城君と私は同じクラスになったんです」

「おいっ、来栖っ!朝の自己紹介で一体お前はなにやらかしたんだ?お前のクラスすっごく騒がしかったぜ」

「気にすんなって、そんな事。それよりもさっさとめし喰っちまおうぜ、昼休みだってそう長くわねぇんだからよ。計斗、なに頼むんだ?今日の日替わり定食うまそうだぜ」

「ホントだね。うんじゃぁ、それにするかな・・・、アッ、おい、来栖なにするんだよッ!」

「計斗、ごっそさぁ~~~ん」

 食券販売機から出てきた俺が買ったそれを来栖の奴は奪っていた。

「奢るなんて一言もいってないぞっ、来栖っ!」

「俺様たち、べスフレだろ?これくらい、必要経費で落として呉れよ」

「ったく、お前は・・・。あぁぁもぉしょうがないなぁ・・・」

 来栖と俺の遣り取りの何処が面白かったんだろうか、若槻さんは可愛らしく小さく笑っていた。

 海星高校の学食は聖稜と違って割りかし空いている。席を確保するのにもそんなに難しい事じゃなかった。食堂の中を見回すと海星高校とは別の制服の連中がちらほらと確認できた。

「おいっ、計斗、なに突っ立ってんだよ?さっさと座って喰おうぜ」

「あっ、あぁ、そうだな・・・。来栖、何かクラスの連中から話し聞けた?」

 俺より先に座っていた来栖は俺もそうすると定食に箸をつけ始めた。若槻さんはお弁当のようだった。

「俺様?いまんところ、フレッシュな物は掴んでない。昨日集めたもんと大差ない、って所だね。計斗の方はどうよ?」

「似たような感じさ。しかし、学校にいる全員に聞きまわるのは骨だぜ。内よりも少ないだろうけど、それでも軽く五千人は超しているはずだから・・・」

「早めに必要な情報が手に入るかどうか、まあ、そこん所は俺様たちの運しだいって」

「あの、二人に聞いてもいいですか?」

「何、若槻さん?」

「どうして東城さんも来栖さんも内の学校の噂を調べているの?それに交換学生なのは解かりますけど、どうして、他の皆よりも一週間遅いのかなって・・・」

「ああ、それは俺達二人だけなんか知らないけど、手続きが遅れてたみたいなんだ。それと俺もこいつも向こうの学校では地域や学校のトラブルを調べる特捜部、って部活をやっているんだよ。ってことで海星の噂が気になっちゃってさ・・・」

 実際、俺も来栖もそんな部になんか所属してもいないし、そんなクラブは存在していない。それに俺達二人は運動関係の部活だしね。

「そうそう俺様もこいつも特捜部の迷探偵、って言われてんだぜ」

「オイ、オイ、来栖、言葉違ってんぞ」

「本当にそれだけなんですか?私は二人がさとみが死んでしまった理由を探しているような気がするんですけど・・・。若し、若し、本当にそうなら、私も協力します。だから、お願いします。私にも手伝わせてください。私はこれでも学校の報道クラブの一員なんです。東城君たち二人が探せない情報だって見つけられるかもしれません。ですから・・」

「それは若槻さんの気のせいだよ。俺達はそこまで考えてない。ただ単に噂の真相を知りたいだけなんだ」

「計斗の言うとおりだぜ。俺様たち、顔も知らない友達でもない奴の事を調べるほど物好きじゃぁ~ないんだ、若槻」

「そうですか・・・」

「計斗、飯も食い終わった事だし行こうぜ」

 来栖も俺も若槻さんに挨拶して、食堂で彼女と別れた。そして、その場所から出ると来栖とも別れてお互いに別々に情報収集に向う。来栖の奴は校庭に出る、って言っていたから、俺は校舎の廊下に居る連中に話を聞いて回る。

「この学校の噂?私も貴方と同じ交換学生よ。来たばかりなのに知る訳ないでしょう。・・・、・・・、・・・でも、聖稜の男の子の制服ってセンスいいわよねぇ・・・」

「エッ、何この学校の噂?何で聖稜先輩がそんなコト聞きまわってるわけ?アタシ、ここの中等部から上がって来て高校の方の七不思議耳にした事あるけど、具体的には知らないから、その二つがどう関係してるかなんて知らないわ、ごめんしてね、先輩・・・」

「何で交換学生のお前がそんなコト聞いてくるのか俺には理解できねぇけど、教えてやれる事は何もないぜ、他の奴等を当たるこったな。おっと、もう昼休みも終わりだ。授業に遅れる前にさっさと教室もどれよ。そんじゃぁ・・・」

 昼休みの終わりを教えてくれたその先輩はそう言ってどこかに行ってしまう。時間切れか、俺も教室に戻ろう。午後の授業が始まると俺はそんなコトお構いなしに放課後からどうしようかずっと考えていた。

「おいっ、東城。ホーム・ルーム終わったんだぞ。ほら、キミの友達が呼んでるよ」

「樺山君だったよね、教えてくれて有難う。それじゃまたあした」

 放課後の廊下に出ると帰宅する生徒、部活に向う生徒で慌しくなっていた。そして、俺が来栖の所まで行くと、奴はトランプのデッキをシャッフル動作をやめてそれをポケットにしまっていた。

「よっ、遅かったじゃないか?ずっと考え事でもしてたんだろう?」

「どうしようかって、考えていたらいつの間にかに放課後だよ。授業で何やってたかなんて殆ど覚えてないぜ。でも、考え込むほどまだ情報を集めてないんだから意味は無かった」

「犯人を割り出すには、推理するには、情報が少なすぎる、ってかぁ?」

「他殺、って事は既に解かっている。ただ、紀伊さんが殺された理由と今、俺達が調べている二つの噂がどんな風に関連しているのか、まったく全然わからない」

「また、死人が出るか何チヤァしらねぇけどさっ、計斗、あせらずゆっくりとやろうぜ。今は何より情報収集。俺は表門から帰る連中の聞き込みをしてくるよ。裏門はお前に任せた。陽が暮れたら駐輪所だ。うんじゃ、行ってくる」

「あっ、ちょっとまてよ、くるすぅーーーっ!」

 しかし、奴はキザッタらしく二本指で挨拶すると俺の停める言葉も耳に入れないで行ってしまった。裏門か・・・、そっちから帰る連中居るのだろうか?そんなコトを思いながらそっちに向うと俺の期待とは別に裏門の方も結構生徒達がそこから学校の外に出て帰宅していた。

 校門を通り抜けようとする生徒、俺の目で雰囲気的に話し易そうな学生に近付いて二つの噂の関連性について聞き込み調査。

「いやぁ~~~んっ、そんなはなしやめてよぉ。こっちから帰るの嫌になっちゃうじゃない」

「アァ、ごめん、ごめん。僕、そんな噂興味ないから何も知らないよ」

「あのさぁ、先輩。俺達は先週入学や進級してきたんだぜ。そんなコト聞かれても答えられる訳ないじゃんかよっ。まあ、俺が知っている事って言えば。そうだなぁ~~~、また、この学校で行方不明者が出た、って噂くらいなもんだぜ」

「誰かが居なくなったって?もう少し詳しく聞かせてくれないか?」

「別に俺は暇だから構わないけど・・・、アット、ナオ、お前はなんか用事があるんだったな?おれの事なんか気にしないで先に帰れよ」

「やだッ、一人で帰るの怖いもん。別に急ぎじゃないからアツ君のお話し終わるまで待ってる」

「二人とも悪いね・・・。それじゃ聞かせてくれないか?」

「先輩と同じ二年生の先輩が行方不明みたいなんだ。先輩は知らないの?」

 行方不明か・・・、若しかすると紀伊さんの事がそういう風に出回っているのかもしれない。

「ほら、俺ってこの通り聖稜からの交換学生だからね。しかもちょっと手違いで今日から来たばかり出し・・・」

「なんか、それって可笑しくない?この学校の噂を調べてるのにそれじゃァ・・・。まあ、いいや。それでさっ、その行方不明なんだけど。どのくらい前の事だか詳しく知らないんだけどね、俺も先輩もまだ小さい頃にこの学校で二人の女の子が消えちゃったって話し。これ以上は知らないからもう答えられないぜ」

「有難う。ためになったよ。二人とも気をつけて帰れよ。それと危ない事すんじゃないぜ」

「へっ、そんなコト先輩に言われなくても分かってるぜ・・・。ナオ、かえろッか・・・。うんじゃぁなぁ、せんぱぁ~~~い」

 俺の制服を見て変だと思わなかった二人の後輩は多分、海星中学からの進級してきた子達なんだろう。別の中学から入学してきた生徒たちは俺や他の学園から来ている交換学生を目にすると珍しがるからな・・・。

 話を聞かせてくれた二人の後輩を見送った後、周りを眺めると既に下校する人影が居なくなってしまった。・・・、・・・、・・・、どうしてなのか一人で裏校門に居ると寒気を感じる。校舎に戻ろう。それから、まだ生徒達が居るはずの文化部が集まる中央棟に足を運んだ。初めに出向いたのは報道クラブ。しかし、活動中なのか部室には誰も居なかった。隣の写真部を除いても同じで、昨日会った三河先輩もそこに姿はない。だから、仕方がなく、昨日回れなかった他の部室を回って情報を集める事にした。

 軽音クラブに入って俺が声を掛けると演奏中だった手を停めて話を聞かせてくれたけど、噂の事について新しい情報は手に入れられなかった。

「俺等に聞くよりも、好きじゃねぇけど、魔道研究部の連中に聞いたらどうだ?連中の方がそう云った事には詳しいはずだぜ」

「見ての通り俺は聖稜から今日、来たばかりなんだけど、この学校の生徒が行方不明になったって事を耳にしたけどさ、それって本当なんですか?」

「ああ、確かにお前等二年の女の子がそうだってクラスの連中が騒いでいたようだな。でも、まだ春休み明けたばかりだぜ。単にまだ休み気分で学校出てきてないだけなんじゃないのか?出てきてないといえば俺のクラスの明智の野郎も来てないな」

「誰なんですか、その先輩?」

「ああ、報道クラブ、ってのがここの三階にあってさ、そこの部長をやっている奴なんだけど、頭いいくせに凄く不真面目な奴でさ、よく何かの事件を追いかけては学校をサボるフテエ野郎だよ。だから、彼奴の場合は学校に少しくらい顔出さなくても不思議がる奴はいねえ」

「あっ、これ以上ここにいたら部活の邪魔っすよね。そんじゃ、俺失礼します。話を聞いてくれて有難う御座いました」

 魔道研究部か・・・、部として成り立っているって事はそれなりの人数が居るんだろうな。うちの学校、聖稜学園だと部やクラブとして存在するには部員が最低でも九人、それと部活を見てくれる顧問の先生が必要だ。若し同じシステムならその部も少なくてもそれだけの数は居る事になる。

 中央棟一階の一番端っこにその部室はあった。カーテンが掛けられていて中の様子を覗く事は出来ない。恐る恐る扉をノックして入っていい許可を貰ってからその中に踏み入ると・・・。獲物を狙う鋭い目つきの狩人達が一斉に俺の方向を向いた。・・・、非常に怖い。

「あら、うわさの聖稜の男子君ね?私達に一体どの様な御用でしょうか?」

「アッァアァ、あのぉ、俺・・・、来る部屋間違えちゃったみたいです」

「間違えちゃったって何が?占いではキミがここへ来る事は見えているのよ。おねえさん達が何でも答えてあげるから、遠慮しないでこっちに来なさいよ」

 男に飢えた女たちのギラ付いた目が俺を離さない。軽音クラブの人たちが言っていた理由が理解できた。十二人の女子生徒が居る。どの女の子も可愛い子や美人な先輩も居るんだけど、どうしてか非常に近寄りがたい。このまま部室に完全に足を踏み込んでいいのか、躊躇ってしまった。

「アぁッ、もうこんな時間。友達が待っているんだった。明日また、友達を連れて一緒に来ます。それじゃぁーーーっ!」

 結局、俺は一人じゃ怖くて嘘を云って出てきてしまった。その部室から出ると俺を捕まえようとする先輩が居たけど俺の持つ俊足で逃げ去る。廊下を走っている時、外を眺めてもまだ太陽は完全に沈んでいなかった。そのまま走る足でA棟を目指す。

「ハァッ、フゥ~~~。何とか逃げ切った。集団の女の子ってどうしてあんなに怖いんだろうか・・・。クククッ、そうだ明日は来栖、独りであの場所に行かせてやるかな・・・。さてと、ここまで来た事だし、先生に何年前かに本当に行方不明者が出ていたのか聞いてみよう」

 思った事を実行する為に俺は教員室に入って行く。生徒の教室の数倍はあるその部屋。見渡すと数えるほどしか先生は居なかった。そして、その中に物思いに耽るようにじぃ~、っと窓の外を見詰めている仁科先生がいた。

「仁科先生っ!・・・、仁科先生ってばっ・・・、に、し、なっ、せんせぇ~~~えっ」

「キミは・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、確か昨日の」

 俺を思い出してくれるのにとても長い間があった。

「仁科先生に聞きたい事があるんですけど、いいですか?」

「私の答えられる事でしたら・・・」

「この学校でずっと前に行方不明になった女の子が居るって聞いたんですけど先生、それって本当の話なんですか?」

「・・・、・・・、・・・、あっ、ああぁ、その事ですか?確かにその様な話しがありますが。私がこの学校の教師になってから一度もそんなコトはありませんでした。単なる噂でしょう・・・。もうこんな時間なんですね・・・、私は帰りますので・・・」

 仁科先生はそう云うと俺を避けるように教員室を出て行ってしまった。そのあとまだ残っている先生に同じ事を尋ねていた。先生たちは口々にそんな行方不明の事実はないと答えを返してくる。でも、仁科先生の時と違って何か違和感を感じた。隠し事、嘘を吐いている様なそんな感覚。

 廊下に出て通路の窓から外を見ると完全に陽が落ちていた。急いで来栖との待ち合わせの場所に向かう。

「なんだ、計斗。俺様より先に戻ってるとは一体どういう訳?まあ、良いや。そんで、どうだった、そっちは?」

「噂の二つの関連性は今のところ見えてない。解かった事は紀伊さんが行方不明として扱われている事、どのくらい前の事だか知らないけど、この海星で行方不明になったままの生徒が居る事。先生たちはその行方不明の事を知っていそうだけど隠しているって所だ。来栖の方は新しい事なにか聞けたのか?」

「二つの噂についてはなら進展ナッシング。俺様の方も紀伊のことが行方不明って事になっている情報は掴んでいる。それだけじゃないぜ。三年の報道クラブの部長って奴もガッコに来てないってのを仕入れた」

「その部長って明智って先輩らしいよ。サボり癖があるらしく。学校に出てこない事が当たり前のようだ」

「ふぅ~~~んっ、で気にするなって事なんだろう?だけど、計斗はそうは思っていないって感じの顔だな」

「まあね。報道クラブの部長って事は紀伊さんとは確実に面識がある人。関係がないって否定は出来ないからこれからはその明智先輩のことも含めて調べた方が良いんじゃないかと思う」

「計斗、なんか俺様のクラスやたら宿題出すセンセが居てさ。今日それをたぁ~~~んっまりと貰っちまったんだわ。手伝え」

「命令スンナっ!そんなでかい態度するなら、幾ら親友でも聞いてやれないぜ」

「まあ、まアァ、そんな硬いコト言うなって・・・。はい、計斗様、なにとぞ宜しくお願いいタスで御座るますよ」

「どういう言い回しだよ、今の言葉。まあ、其れは家に戻ってから考えてやる。アッ、と忘れてた。紀伊さんの画像データを写真部の先輩の貰ってたんだ。来栖にもそれ渡しておくからさ、必要な時は使ってくれ」

 同じ携帯電話を使っている来栖にそのデータを転送する。

「へぇ、こんな女の子だったんだな、紀伊って。何だか千奈津っぽい・・・」

「一日でも藍野さんと顔合わせないのが寂しいのか、来栖。ククゥッ」

「ちげぇよ、クソ計斗。ウマシカ言ってねぇでかえるぞ・・・」

 そんな暴言を俺に吐いてくれた親友は先にバイクを起動させて走り出してしまった。

「ったく。素直じゃないんだから・・・」

 神楽坂の自宅に戻ると既に父さんが帰っていた。駿輔父さんたちと外で夕食を摂ると父さんはそのまま、また仕事に出かけてしまう。俺と来栖は家に戻り、奴の出された宿題とやらを手伝ってやった。口では手伝えって言っていたくせに俺が手伝ってやったのは三分の一にも満たない。そして、二人で風呂に入りながら、今日の整理を始めた。

「来栖、まだ今日で二日目だけどざっと情報の整理するよ。間違った事あったら言ってくれ」

「おうよ」

「俺は四月七日、土曜日に父さんの依頼で木場公園の河川に出向いた。そこで一人の女のこの死体が発見される。俺はその時にその女の子がうち等の姉妹校、海星高校の生徒だって直ぐに解かった。そして、検死の結果、彼女が紀伊さとみと言う生徒であり、他殺だと言う事実を知った。そして翌日、来栖が朝早くここに襲来して捜査の協力をさせろと俺を強請る。俺はしょうがなくお前を連れて海星高校に向った。そして、二人で手に出来た情報は紀伊さとみが学校の噂を調べていたと言う事が彼女の親友の若槻瑞穂さんによって発覚した。今度は俺達はその噂を重点に昨日、今日と調べてまわる。だけど、取たて新しい事は見付からなかった。しかし、俺の方では時期不明の行方不明者があったという噂を裏校門から下校する後輩から手に入れた。それと、特種の為なら学校を休む事もいとわない明智と言う先輩が居ることも判明した。その明智先輩は報道クラブの部長だという事も分かっている。・・・、・・・、・・・、こんな感じだな」

「計斗、いつ俺様がお前をゆすったって?力で訴えた覚えはないぞ」

「なに言ってんだか、雰囲気で威圧していたくせに。それで、明日からの事なんだけど。引き続き、二つの噂の関連性を調べる事が第一目標。次は時期不祥の行方不明になった生徒について。それと紀伊さんも学校の噂を探っていたのならば俺らと同じようにいろんな生徒や先生に話を聞きまわっていたって事になるんだよな?なら、最後に彼女が学校で話した人物は誰なのか?明智先輩については気に留めておく程度で今はいいと思う」

「そうなると、本格的に調べられんのは放課後になってからだな」

「ああぁ~、そうだ!来栖に特別任務をお願いするのを忘れてた。中央棟の非常口側の一番端っこにマジック研究部って言うのがあって、軽音クラブの先輩達がそこの人たちなら何か知っているんじゃないかって教えてくれたんだけど俺が話を聞いても全然相手にしてくれなかったんだ。来栖マジで頼むから気が向いたらそこに行って情報を貰ってきて欲しいんだ」

「オウ、お前がそう頼むんだったら行って来てやるよ・・・、・・・、・・・、これ以上風呂に入っていたら熱で頭が逝っちまいそうだ。もう、あがりにすっぞ」

 俺は親友に嘘を吐いてしまった。しかし、背に腹は換えられない。嘘まで吐いて死地にお前を送ってしまうこんな俺を許してくれなんて思わないけど頼んだぞ。

 翌日も、そのまた翌日も全然、二つの噂の関連性を見つける事が出来なかった。手に入れた情報といえば部活には殆ど出席している明智先輩がクラブにもまだ顔を出していないと言う事くらい。


~ 四月十二日、木曜日の放課後 ~

 俺は海星高校の学寮に足を運んでいた。聖稜の男女別寮とは違っていた。よく周りが許していると思うよ。まだ夕食には時間が早い。食堂にいることはないだろう。若し内と同じ寮のつくりなら大広間があるはず。そこに置かれている雑誌やテレビでも見ているかもしれない。そう思ってその場所に移動するとやっぱり私服に着替えている生徒達が寛いでいた。

「エッ、何学校の黒の噂ですって?ああ、貴方がそれを聞きまわっている聖稜のマジシャン君ね」「良いぜっ、聞かせてやっても。モチ、俺達にマジックを見せて呉れたらな」

「ああ、でも、ぼく達でも種が分かるようなものじゃ取引は成立しないよ、そこんとこよろしく」

 俺が話を持ちかけると先輩だか後輩だか同学だかわからない女子も男子も数人が俺を取り囲むように集まってきた。でかい学校でも生徒の間に噂が広まる速さは尋常じゃないと痛感する。

〈来栖の馬鹿ッ!余計な事するから俺が其奴だと思われちまってんじゃねぇか〉

「なぁ~~~んだっ、出来ねぇのかよ?つまんねぇ奴だな。やっぱ噂はウワサか。だったらおしえてやれねぇなぁ。ちろうぜぇ~~~」

 何故かその言葉を言っているヤツに来栖のことが馬鹿にされてるように感じてしまった俺は俺の前から離れようとする皆を停める言葉を口にしていた。

「見せれば、何か聞かせてくれるんだな?だったら見せてやっても良いぜ。誰かさぁ、トランプ持ってない」

「待ってて、今私が持ってきてあげる。・、・・、・・・、・・・・、・・・・・、・・・・・。はいっ、おまたせぇ~~~。おニュゥ~~~なこれ持ってきてあげたわよ。仕掛けがなくても出来るのぉ」

 女子生徒は可愛らしくも憎たらしく種の詰まってないトランプじゃ何も出来ないだろうって顔している。

「彼女が言った通り、これは新しいデッキ。種も仕掛けもありません。これから、三つだけ即席カードマジックをご披露するぜ」

 俺はそう言いながらカードの箱を開けてデッキが包んであるプラスティックの包装紙を剥した。

「それじゃ、よくある数当てマジックからはじめましょうか。それじゃ、さっき俺を挑発してくれたキミにカードを引かせてあげるよ」

 そうして、俺のエセ・マジックが始まった。それからおおよそ三十分後。

「えぇぇっええっ、どうして、どうして解かっちゃうの?もう一回、もう一回やってよぉ」

「今度は僕にやらせてよ。絶対トリックを見破ってやるっ!」

「おい、先輩も後輩も俺と同学のお前等も話が違うぜ。何回見せてやったと思うんだ。もうお開きっ!今度は俺の番だ。話を聞かせてくれよっ!」

「じゃぁさぁ、東城君。お話聞かせてくれたらもう一度見せてくれる?」

「それが俺の欲しい情報だったらね」

 即席とは言ったけど仮にも年齢制限なし世界グランプリ二位の来栖のマジックだ。素人どころかプロだってそう簡単にわかる様な代もんじゃねえって。ああ、そうそう、関係ないけど、ヤツのその世界で偉大な天空の十字架、グランド・スカイ・クルスって名前で呼ばれているんだぜ。

「それじゃァ、私から教えてあげるね。本当はねみんな余り口にしたくないようだけど。その二つの噂って本とは一つの物なのよ。暑い夏の学校の北門、通称裏校門。そこで深夜十時ごろ裏門の外から助けを呼ぶ声が聞える。その声が聞える方を眺めると血だらけの女の子が道路に伏せてそこを這っているんだって。それと殆ど同じくらいに壁に沿って並ぶ木々の一番校門よりの地面からはうめく声が聞えてそちらを振り向くと誰も居ない。そして、もう一度、助けを呼ばれた道路の方を見てもその女の子も消えているって言うのが本当の黒の七怪の一つなのよ。誰かが六つしかなかったのをこの二つを別けて七個にした、って言うのがもっぱらの定説ね。あとね・・・、それを喋っちゃつと呪われちゃうって云うのが別説であるから、誰も話したがらないんだぁよねぇ~」

「ルミがその事話たんなら、俺は明智肇のこと教えてやるよ。今日奴は学校に顔出したぜ。奴が報道部の部長、って事は知ってんだろう?今行方不明の紀伊さとみ、って後輩の幼馴染みだ。あいつもその噂の真相、ってのを追ってるらしいぜ。春休みには入ってから二人で調べ回っている所を見たぜ、俺は」

「そうだなぁ、僕から提供できる情報といえば、十四年前にこの学校の女子二人が失踪したって言う噂。それがキミが時期が分からないって言う行方不明の生徒のことだと思うよ。十四年前以前からここに勤めている先生たちはその事を勿論知ってる。でも、隠しているようだけどね。ホラッ、聞かせてあげたんだからさっきに続きしようよ」

「ふぅ~~~んっ、そうか・・・。情報提供ご苦労様です。それでは・・・」

「ぇぇええっ、帰っちゃうのぉっ」

「だって、俺はうわさの聖稜のマジシャンじゃないからね。本物に会いたかったら偉大なる天空十字、って呼ばれている生徒を探しな。それじゃぁなぁ~~~っ!」

 俺は走ってその場から逃げる。俺の逃げ足は陸上部のエースも真っ青になるくらいの俊足だ。来栖は個人的に魔術師の仕事をしている訳じゃないから一般人がその呼び名を知っているはずがない。外に出ると街灯が点灯する暗さになっていた。来栖の奴が駐輪所で待っているかもしれないと思って走る足を止めないでそのまま向う。

「ど、っどうしたんだ、来栖?そんなぐったりしちまって?」

 バイクに跨っているヤツを見ると精気が搾り取られたような状態になっていた。

「カッ、計斗の裏切り者。・・・、ナッ、何がマジック研究会だ。アソコは魔の巣窟だったぜぇ。美人な先輩や可愛い後輩、麗しい顧問のセンセ・・・。だが、それは見た目だけ。やったぁーーーっなんて思ったのは一瞬だった。・・・、飢えた女は怖い、おっ、おぞましい」

「来栖、ずっと前に言ってたよな、俺に。〝俺様のマジックは女のハートを掴む道具だ〟って。だから、絶好の場を親友に譲ってやったんじゃないか」

「お前、それが嘘だって知ってるくせぇにあんな場所に俺様を送り込むなんってべスフレの風上にもおけねぇ。それにナッ、俺様がハートを掴みたいのは純粋で可憐な女の心だ。幾ら見た目が良くたってあんな連中は論外だぜ、まったく。計斗、お前が俺様にした仕打ちは縁切り行為だ・・・。なぁ~~~んッて言って見ても切れねぇほど俺様達は深い愛で結ばれてんだよな・・・」

「他人が聞いたら誤解を招くような事を口にするな。でっ、そんなに成るまで彼女等に遊んでもらったんだろ?ただで還ってくる訳ないよな、来栖?」

「舐めんな、計斗。これでも俺様は仕事には従順なんだぜ。ああ、バッチリ特ダネ中の得々ダネを仕入れてやった。お前の方はどうなんよ?」

「ああ、お前が変に有名になっちまったから聞き出すのに苦労したけど何とか進展できそうな情報を得たよ。・・・、あのさぁ、来栖?ここに来るまで誰にも会わなかったわけ?」

「なんでぇ、うんなこと聞くのよ?誰にも会わなかったぜ」

「そっ・・・。今の姿、藍野さん見たらどう思うんだろうね?」

「何でそこで、千奈津の名前が出てくるわけ?」

「証拠としてディジタル・データに残しておいても良いぜ。カガミ持ってんだろう?顔とか、襟まわり見てみろよ」

「ゲッ、・・・、・・・、・・・。計斗、メルシュラーゼ。生徒ならまだしもセンセ等に見られたら停学だろ?親等に知られたら永久追放牢獄逝きって感じだな、今の俺様。でもやっぱ千奈津の野郎には関係ネェよ。よっと、こんなもんか?・・・、もうここから出ようぜ」

「そんなゲル状態で、大丈夫か?来栖」

「計斗に心配されるほど、まだ俺様は駄目ッちゃぁ、いねえよ」

 言ってコイツは既にエンジンが掛かっているバイクを走らせて行ってしまう。俺もエンジンはかけていたから直ぐに来栖を追いかける事が出来た。俺らは家に戻る前に帰りに道にあったコンビニで夕食を買っていた。今日は駿輔父さんの帰りが遅くなるから夕食は父さんの帰りを待たないで済ませなさい、と学校に出る前に言われていたのがコンビニによった理由。

 家に到着すると先に風呂には入って、飯を食いながら、今日収得した情報の交換をする。

「計斗の方から話せよ」

「学校内での収穫はないと見た俺は今日、学寮まで行って来た。来栖、お前がマジック披露とその交換に情報を得ていたせいでそれがうわさとなって広まり、俺はお前と勘違いされた」

「オウ、計斗よ。物事ってのはギヴ・アンド・テイク。それが俺様の性格だって知ってんだろう?だから、コイツを見せるのと代わりに俺様が聞きたいことを聞き出してたんだ」

「分った、解かったからトランプを仕舞え。お前がそんな風に回ってるからマジック見せないと情報を聞かせてくれないって言うんだぜ。そんな訳でずっとお前と付き合って間近でお前のそれを見ていて唯一俺がその種を見破ったカードマジックをやったんだ」

「しかし、アレを見破るとはふてえ野郎だぜ、計斗お前は。マジックで飯を食ってる両親等すら解けなかった渾身のサクだったのによ」

「たまたま来栖の運が悪かっただけだろう?後にも先にもこれ以外のトリックを暴けそうに無いし。まあ、これのお陰で情報を三つほど引き出した。あの二つのうわさは実は一つだった事。行方不明者が出ていたのは事実だった事。しかも十四年前に少女が二人も。残りは報道クラブの部長の明智先輩。名前はハジメって教えてもらった。明智先輩は亡くなった紀伊さんの幼馴染みのようだぜ。そして、先輩も噂を追っているようだ・・・、・・・、・・・???なんだよ、来栖?その勝ち誇ったようなにやけ笑いは?」

「虎穴にいらずんばなんとやらって奴さ。俺のほうが上を行く情報って事。戦場から持ち帰った勲章はでかいぜ」

「そんなに大変だったんだ・・・。ゴメンな来栖。それとご苦労様。で?どんな事を聞けたんだ」

「俺様の方も二つの噂が一つってことも、行方不明になった女子が十四年前に二人居るって事も、教えてもらった。ここまでは計斗と変わらないんだけど、ここからが本番。その消えちまったって女の子等が当時一年生だったって事と、俺達の調べてる噂が広がり始めたのはその女の子等が消えた頃なんだってよ。それとその女の子二人の名前は・・・、・・・、・・・、教えてくんなかった。連中他にも何か知っているみたいなんだけど、もっと知りたかったら〝あの子を連れて来てね、チュッ♡〟だってよ」

「それで来栖は俺を売ったのか?」

「うっせぇ、先にお前が俺様を売ったんだ。少しは俺様が受けた屈辱をお前も味わえ」

「・・・、・・・、・・・、他を当たろう。それだけ聞き出せれば十分だ、捜査に支障はない」

「俺様が口にした情報だけあればお前にとっては十二分ってか?計斗なら出来かねねぇな」

「明日から、俺はその十四年前の事について調べる。来栖は明智先輩を追ってくれ。さぁ~~~って宿題でもやぁあぁろぉおっと」

「おい、計斗っ!お前の推理は聞かせてくんねえぇのかよっ」

「推理する事なんて何一つない」

「なにを清ました顔して言ってんだ。俺様、何年お前述べスフレやってっと思ってんだ?お前が嘘を吐く時はわかるんだ。さぁ、はけぇ、きかせろぉ~~~っ、聞かせてくんれねぇと駄ぁ々ァ~捏ねちゃうでちゅうぅ~~~っ!」

「訳の分らん口調で喋るな、ゲロイ。本当に来栖の精神年齢は大人なのか幼稚園児なのか理解できねぇぜ。聞かせてやるから黙れよ。じゃあ簡潔に推理する。今日、俺達は二つの噂が実は一つの物だって知る事が出来た。それと行方不明者が十四年前に二人もいたって事実を。そして、来栖はその二つが深い関係にあるって重大な情報を持って来てくれた。俺にとってはそれだけあればある程度の推測は出来る。その推測も来栖の功をねぎらって教えておくぜ。前後関係は簡単に組み立てられる。普通は噂が立つ前にその元となる何かが起こる。それが十四年前の二人の海星女子の失踪。その後に裏校門の噂が誰かによって流された。その内容からして何かの事件に巻き込まれたと考えて良いんじゃないか、って俺は思っている。紀伊さとみさんはその噂が事実で何か真実を知った為に、それを知られちゃ不味い誰かによって亡き者にされた。明智先輩も紀伊さんも一緒に調べ始めたらしいけど、先に真相に辿り着いてしまったのが紀伊さんだった。このまま、明智先輩もそれを追い続ければ紀伊さんと同じ目に逢わないとは限らない。ッて事で来栖には先輩の事を任せるってさっき言ったんだよ」

「すっげぇ。今日収穫した、たったそれだけ情報でそこまで考えられるとはたいしたもんだぜ、まったく。まじですげぇよ」

 来栖の奴は本当に口で言った事を心の中で思っているのか分らないけど、表現は大げさだった。俺はそんなヤツを呆れ顔で返して、食べた夕食をゴミ箱に放ってから宿題を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る