第二章 よくある学校の噂

 翌日の四月八日、日曜日の朝。俺が聖稜学園の制服を来て海星高校に出かける所だった。

「それじゃ、父さん。海星に行って女の子の情報を掴んでくるよ」

「はい、解かりました。私の方も仕事にでなくてはならないのですが、夕食だけは一緒に摂りましょう、計斗。それでは頑張って聞き出してきてください」

 顔で返事して、表口、事務所側からじゃなく住居側の裏口玄関から外に出ようとした時に進行方向の扉のインター・フォンが押された様だった。

「どなたですかぁ~~~っ!」

「ボンジョォ~~~るッ、ウっす、計斗。遊びに来てやっ?なんだ、学校の服なんて着ちゃってさっ?今日は部活は無いんだぜぇ?学校行く気かぁ~」

「何がボンジュウールだ、来栖っ!何しに来たんだよっ?」

「はぁぁんっ?〝何しに来たんだよ〟決まってんだろう、遊びにきたって初め言ったじゃないか。それに先週の月曜日からおまえんとこに遊びに行くって言うのは決定事項だったはずだぜ」

「昨日メール打ってそれはキャンセルって送っただろう!」

「〝用事が出来た、遊べない〟ってこんな遅魔Twoぅなぁ、内容のメールで俺様が納得すると思ってるわけ、計斗?」

 来栖の野郎は携帯電話を持ち出して昨日、俺が送ってやったメールを見せ付けると、でかい態度でそう口にしていた。・・・、・・・、・・・。来栖勝彦とはまだ四年と浅い付き合いだけど、それでも俺なりにコイツの性格を理解している積りだった。あんなメールでコイツが納得する分けがない。

「確かに無いな」

「分ってるじゃねぇか。ッてな訳でよっ、こうして朝早くお前ん所の強襲してやったって訳だ」

「そうか、ごめんな。俺今から仕事に出かけなくちゃならないんだ。家まで来て呉れたのは嬉しいけど、かえれぇ~~~っ!」

「ウワッ、何ってひどい奴だぜ、計斗。一時間以上も掛けて遠くからはるばる来てやったこのベス・フレをそんな言葉で追い返すってのかよっ!」

「ああ、悪かった、悪かった。でも帰れ。仕事の邪魔だ」

「なぁ~にっ、仕事、って?また親父さんの手伝い。しょうがねぇなぁ~~~」

「解かってくれた?さすが来栖」

「ああぁ、しょうがねぇ、しょうがねぇ・・・。よっし、行こうぜっ!」

「うぅん?納得して帰るんじゃないのかよ、来栖っ!」

「すっとぼけた事いってんじゃねぇぜ、計斗よ。俺様がただで帰ってやるとでも思ってんのかぁ?面白そうだから、俺様も手伝ってやるよ」

「あのなぁ、あそびじゃないの、あそびじゃぁ~~~っ!」

「うんなこったぁ、わかってるってぇ」

「どうした、計斗。まだ出て・・・、ああ、貴方は計斗の友達の来栖勝彦君。これの遊びに来てくれたのですか?」

「おはようっす、夘都木のおじさん」

 来栖の奴はにやついた表情で父さんに挨拶をしていた。俺は父さんに来栖の事を説明すると、とんでもない答えを返してきやがる。

「勝彦君、それでは計斗の事を頼みましたよ。一人よりは二人の方が安心して任せられますので」

「さっすが夘都木のおじさん、解かってんじゃないか。そんなわけだ、よろしく頼むぜ、計斗。さあ、こんなトコ突っ立ってねぇで出ようぜ」

「あぁ、しょうがねぇなぁ~~~っ!父さんコイツの所為で迷宮入りなっても俺責任取んないよ」

 そんなコトを父さんに言ってから靴を履いて外に出ていた。表には来栖のヤマハのバイクが停まっている。コイツは俺がバイクに乗って通学するのが羨ましいって言って一発試験で免許を取りやがり、ほぼ同時期にそれを乗る事となった。

「うんでさァ、これから何処に行くわけ?」

「じゃァ、簡単に俺が父さんに任された仕事について説明するぜ。俺、昨日から本職で・・・」

「プぅッ、ククッ、お前が探偵?クハァ~~~ハッハッハッハッハハァ・・・。あぁ、笑ったりしてわりいな、わりい。しっかし、夘都木のおじさんもすっげぇこと考えるよなぁ。っで?・・・、・・・、・・・、フゥ~~~ん、それで内の学校の制服着てた、って訳ねぇ。確かに海星はうちん所と姉妹校で交換学生とかやってるからその姿を海星の連中が見ても変に思わないもんなぁ。よっしゃぁ~ッ、やること解かったし、カイセに出張るぜ」

 来栖は口を動かしながらバイクに跨り、走り出す準備をしていた。俺もヘルメットをかぶりガレージからそれを出すとエンジンをかけて少し暖気して出発できる状態になると、指を立ててヤツに合図を送った。俺の家から海星高校までの道のりは神楽坂から早稲田通りに向って走り、その突き当りの九条坂を東に走って墨田区の京葉道路に出る。それから、またひたすら東に向って錦糸町駅が見える四ツ目通りを南に向って突っ切って江東区に入り、都道10号にぶつかる一個手前の大きな道路沿いに海星高校がある。その道路に面して反対側にはその学校の中等部、海星中学校があるんだぜ。時間にして十五分。聖稜学園に通うよりも、断然海星高校の方が近いんだけど、父さんはここに通うことを許しては呉れなかった。そして、その理由も知らない。

「カイセに着いたぜ。これからどうすんのよ、計斗?」

「昨日、仙台堀に来ていた先生に会って紀伊さとみさんの事を聞いて、次の行動はそれから決めようって感じかな」

「うん、あそこに居んの学校の先生じゃないのか?」

 俺達が来客用の駐車場にバイクを停めて跨っていると視界の範囲に大人の姿が入り込んできた。バイクのキーを抜くと二人でその海星の教師だと思うその先生に近付いて話しかけた。

「お早う御座います」

「はい、お早う御座います。・・・???制服じゃないキミも聖稜の生徒ですか?わたしどもの所は聖稜の学則と違いまして、構内の私服での立ち入りは禁止なのですよ。以後注意をしてください」

「おうよ、計斗。態々職員室まで行かなくても、こいつにきけばいんじゃない?」

 来栖の奴はそう俺の耳元で囁く。

「先生、紀伊さとみさん、って生徒の事を聞きたいんですけど、何科の学生なんですか?」

「キイ・サトミ・・・彼女は昨日亡くなられました」

 そんなのは先生より先に知っている。でも、可笑しいニュースでは学校名と生徒名は曖昧にされていたはず。そして、現在、午前九時ちょっと過ぎ。その緊急会議が終わって出歩いてる、って様子もない。

「ハァ、そうなんですか・・・。デモなんで」

「十時からそれについて会議がある様なので今日は日曜日なのに私もこうして登校してきたんです。内容はまだ知らされていません。それと、紀伊さんは養護育成科の二年生です」

「あっ、どうも。十時から会議なんですね?職員室って何処なんですか?」

「一般職員質は総合教員棟A棟二階、非常勤務講師はC棟の一階。それと各専門科の教員室はそれぞれの棟の各階の中央にあります。聖稜学園と違ってわたしどもの所は中、高等部、別々の区画に有りますのでさほど迷わないでしょう」

「よっし、場所も解かったことだし。行こうぜ、計斗」

「でも、キミたち交換学生の生徒でしょう?この様な事を今更、聴かなくても、もう知っているはずでは、ってそう言えばキミたちの顔を拝見するのは初めてのような気がしますけど・・・」

「俺達はそんなんじゃなくて、ただ、こっちに知り合いの先生が居るから、ちょっと顔を見せに来ただけなんです。それじゃ、ありがとうございましたぁ~~~」

 嘘を言って、俺達はその先生から撤退する。A棟二階の総合教員室まで来ると会議の為だろうか既に多くの先生達が集まっていた。昨日、河川に来た先生が居ないか覗き込むと、校庭が向こう側に見える方の窓に背を着けて静かに目を閉じていた。

「お早う御座います、先生。昨日はどうも・・・」

「キミはあの場所にいた聖稜の生徒・・・、なにをしにきたんですか?今から会議なのでキミ達のお話には付き合うことは余り出来ませんよ」

「先ず、先生の名前から・・・」

「私は仁科彰、国際語学科のフランス語とドイツ語を、それと普通科では音楽も教えています」

「ニシナ先生ですか、じゃあ、昨日、あのとき電話に出てくれたのは先生だったんですね?」

「それではあの通報はキミが?」

「言っておきますけど、俺第一発見者じゃないですからね。たまたま、面白半分で現場に行ってしまったら彼女がここの制服を来ていたから・・・。彼女、紀伊さとみさん、って言うのを聞いたんですけど、先生は彼女のことどのくらい知ってるんですか?」

「紀伊さんとは彼女が一年の頃に音楽のクラスを持ったくらいでそれ以外は・・・」

「それじゃっ、顔を覚えているくらいで、その他はなにもないと・・・。それと、昨日一緒だった女の子がいたけど、彼女は?」

「・・・、若槻瑞穂さんですか?彼女は紀伊さんと同じクラブの子と言うくらいしか・・・、報道クラブだったと思います。エッ、部室は?文化部の部室は中央棟にすべてあります。そちらに向えば解かるはずですよ」

「わかつき・みずほさん、か・・・。それじゃ、最後に仁科先生・・・、今日はもう昨日じゃないから・・・、二日前の金曜日、何やってました?午後の九時、十時ごろなんですけどね?」

「エッ、私ですか・・・・・・、確か・・・」

「おいっ、仁科ッ!聖稜学生の相手なんてしてないで会議の準備てつだぇッ!そこの生徒、さっさと部活に行きなさいっ!」

 仁科先生は呼ばれて行ってしまった。俺達は完全に交換学生だと思われている。先生たちは聖稜と海星の交換学生が当たり前すぎて気にもしてない、って事なんだろう。それに職員室に来るまでに俺のところの聖稜を含めて六校ある姉妹校、北海道函館の天稜総合学院、宮城県仙台の林靖学園、三戸特別行政区の内の学校、今いる海星○○校、京都府伏見にある山陵学園、福岡県太宰府市にある清地総科校、それらすべての学校の制服を見ている。多分、そんな普通の学校では体験できないことを目の辺りにしていた。

「カイセ、ってなんか変な違和感あるよなぁ。内もリンセやカイセと交換してっけど、全部が集まる、って滅多にないぜ。計斗は知らないだろうけど、六校が集まるのは十二年に一度の天地海山林四セイ三リョウ総合文化祭くらいのもんだ」

「なんか、長ったらしい文化祭だな、それって。でも、別にいいじゃん。今の俺達に全然関係ないことなんだからさっ」

「俺様が勝手に命名しただけだよ、うんなもんハァ。気付けよな、計斗」

「気付いてるよ・・・。でも、やっぱり俺らの系列学校なんだよな、ここも。いい加減にしろよ、この学校の広さ、って、まったく移動するのが嫌になるぜ」

「いいんじぇねぇのぉ?うち等なんか、中等部なんかも一緒なんだぜ。しかも、部活とか中高、一貫してる所なんって部室に行くまでに歩いたら・・・」

「そうだね、内の学校、そこの木場公園より広いからな・・・。そして、俺達の部室もグランドも教室から・・・って訳で俺達バイク以外に校内移動用に自転車を学校に預けてあるんだ・・・ああ、有った、確かに報道クラブ、って書いてある。結構広そうな部屋だな」

「俺様んところも変な部あるけどさすがにこれはなぁ・・・。一体なにやってんだろうな?とりあえず、中に邪魔させてもらおうぜ。ボンジョルノォ~~~っ!誰かいるぅ~~~?」

「アッ、君は昨日、さっきキミのこと若槻瑞穂さん、って先生に教えてもらったけど、それで有ってるんだよね?」

 彼女は俺の言葉に答えてくれない。ただ、彼女は悲しみ色に染められている瞳を潤ませ、体を小刻みに震わせながら、今にも泣き出しそうなところだった。

「計斗、ここは俺様に任せな。若槻、っていったな?俺様にはなんでアンタが悲しそうにしてるか、直ぐに解かってやれるほど、賢くないけどさぁ・・・、泣きたい気分のお前に無理言って泣くんじゃねぇ、って止めはしねえよ。むしろ、この俺様の胸で好きなだけ泣きなぁ、って感じ」

 来栖は気障ッタらしくどっかに隠してんだか解からないけど、どんな種類の物だか知らない鮮やかな一輪の造花を取り出して彼女に向けていた。

「うぅっぐ、ひくっ・・・すぐぅっふわぁぁぁっぁぁあぁぁあああぁぁぁっぁぁ~~~ん、さとみが、さとみがぁーーーっ!」

 彼女は本当に泣いてしまった。だけど、泣きついてきたのは〝泣け〟って言った奴の方じゃなくて俺の方だった。そして、若槻さんが俺のブレザーの胸元にすがり、そこに顔を埋めると同時に来栖の持っていた造花の花弁が面白いように散っていた。俺はわけも解からなく、動揺して、おろおろするだけだった。

「しょうがねぇなぁ計斗ぉ~、そんな時はちゃんと彼女に手を廻して、ギュぅ~、って抱きしめてやれよ。不甲斐ない野郎目」

「ぅぅ、うぅんなこと、俺に出来るわけネェだろうが、お前じゃ有るまいしっ!」

 来栖に言い返してやった言葉のまま、俺はなにも出来ず暫く、若槻さん、彼女が泣き止んでくれるのを待った。彼女の髪からとてもやんわりとした良い香りが俺の鼻と心を迷わす。その間、来栖は俺の方を見てにやつきながら、床に散らばったマジックの種の造花の花弁を拾い集めていた。

 それから、奴が造花を元通りにし終えた頃、若槻さんも泣き止んでくれたようだった。

「あのぉ・・・、そのぉ・・・、もう気分は大丈夫カッ?」

「あっ、わたしったら・・・、その・・・、はずかしいっ。御免なさい、急に泣き出したりして、迷惑だったでしょう?私の涙でその聖稜の制服汚しちゃったようだし・・・。これで拭いて下さい」

「あっ、えぇっ、別に気にする事無いよ、こんなの。乾けば済むことだし」

「あアッ、だったらそのハンカチは俺様が借りてやる」

「来栖、お前が借りてどうしよう、ってんだ?」

「なぁ~~~んだっ、わかってるくせにぃ、計斗いい子ぶりやがってぇ・・・」

 これ以上、来栖のバカに付き合わない方が良いだろう。こいつを無視して彼女と話さないと。

「何か、計斗、おまえさぁ~、いかがわしいコト考えてんじゃねぇのぉ?俺様は・・・」

 そこで来栖はなんの断りもしないで、まだ、若槻さんが持っていたハンカチを奪うと、一回大きく広げ、それをクチャクチャニして、手の中に収めて時間を数えると掌から可愛らしいおもちゃのひよこが出てきた。

「若槻さん、今のコイツのこれ、見なかった事にしてやってくれないか・・・」

「かわいいぃ~~~っそれ貰っても良い?」

「これ渡したら、さっきのハンカチ返せなくなるぜぇ、そんでもいい?」

 さっきまで悲しい顔していた彼女はニッコリすると来栖の奴からそのひよこのぬいぐるみの様なおもちゃを受け取っていた。

「あの若槻さん、俺達の話を聞いてくれないかな?俺は東城計斗で、ほら、オマエも」

「コイツのベスフレ、ああ、べスフレ、ってのはベスト・フレンドってコト。それで俺様は来栖勝彦。よろしく頼むよっ、若槻!」

「はい、私の答えられる事だったら・・・」

「名前は若槻瑞穂さんでよかったんだよな?・・・、で、その紀伊さんとは・・・」

「さとみは中等部からずっとお友達でした。高等部に上がる時も同じ科だったんですよ」

「紀伊さんとは他の人よりも親しいって解釈していいんだね?」

「はい。初めにこちらから言わせてもらいますけど、さとみは絶対悪い事に手を出すような子じゃないです」

「それじゃぁ、悪い事に手を出してその報いで殺害されたという事を避けておいて聞きます。若槻さん、紀伊さんの行動で最近変だと思った所ありませんでした?」

 俺の言葉に若槻さんは考え始める。そして、直ぐにその答えは返って来た。

「さとみ、春休みには入ってからずっと変だった。何がどう変なのか、って聞かれると説明し辛いですけど・・・、とにかく春休みに入って学校のうわさ、って言うのを調べ始めてから彼女の雰囲気みたいなのが変わっちゃったの・・・、いつもは活発で明るいのに・・・、それが反転してしまったような感じに・・・」

「学校の噂?何でまたそんなのを」

「今、私も二人も居るこの部屋は報道クラブの物なんです。今日は私以外誰も来ていないですけど、部員十二人も居るんですよ。この部の活動内容はこの地域一体の噂話や住民問題、行政問題などを調べ上げその真相を探ると言う物で、部員のみんな殆どは将来、新聞記者やそういった関係に就きたいと思っている生徒が集まっています。勿論、私やさとみもそうでした・・・。それで、さとみが学校の噂の一つを調べ始めていたみたいんです。一体何を調べていたのか・・・、何回聞いてもさとみは教えては呉れませんでした」

 学校の噂か・・・、内の学校にもあるな、学園七不思議。夜になると医療科の実験室の人体模型が血まみれでベランダに立って夜空をじぃ~~~っ、と眺めているとか、すすり泣く美術室の彫刻とか・・・。学校の敷地内にある街が一望できる高台の丘の大きな樹木の下で告白するとなんとかって言う奴等が・・・。

「それじゃぁ、さぁ~海星のその噂ってどんなのがあるのか参考までに教えて欲しいんだけど」

「全部で噂は七つあります」

「計斗、今、お前、やっぱりなぁ~~~って思っただろう?」

「来栖うるさいぞ、少し黙ってろ。ああ、若槻さん話を中断させちゃってごめん。続けて」

「はい、一つ目は表校門の桜の木を眺める血にまみれた人影、二つ目は泣き叫ぶ彫刻達。三つ目は裏校門付近の地表から聞える呻き声、四つ目は血の涙を流す肖像画、五つ目は誰も触っていないのに悲しい旋律を奏で始める楽器達。六つ目は地面を蠢く人影。そして、七つ目はその全部の真相を知ると呪われて・・・」

 嫌過ぎる。一つもいい噂なんか無いじゃないか。内の学校の方がまだましだよ。

「あのォ~~~、若槻さん?いい噂、って言うのはないんですか?」

「エッ、勿論有りますよ。今、私が話した物は海星高校の黒の七怪と言われているものですし、何が伝説なのか私はわかりませんけど、伝説の風が吹く何処かの棟の屋上でその・・・、告白すると恋が叶うとか、そちら系の白の七開と言うものがあります。でも、若し、さとみがそちらの噂を調べて・・・、アンなことになっちゃうなら、全然幸福じゃないじゃないですかッ!うぐぅっ、ぅうぅうぅぅ・・・」

 若槻さんはまた泣きそうになってします。そして、それを俺も来栖も停められず泣かせてしまった。それからまた、暫く、俺は彼女に抱きつかれ涙を流されてしまった。嬉しいんだけど・・・。

「それじゃァ、俺達もう行くから・・・、若槻さん元気出してください」

「そうそう、泣いてばっかだとそのキュートな顔が台無しだぜぇ、うんじゃぁなぁ~~~」

「あっ、ちょっとまって!一つ聞かせてください。どうして、東城さんも、来栖さんもそんなコトを聞くんですか?」

「おれ?俺はたっ」

「不謹慎だけど、逝っちまった彼女のことがほんのすこし、ちょっとばっかり、気になっただけだよ、俺様達は。なぁ~、計斗。そんじゃっ、ホントにずらかるぜ」

 俺はそのまま来栖に引っ張られ中央棟を離れていた。

「なにすんだっ、くるすぅ~~~」

「ッたくぅ、計斗が色々な意味で凄い、ってのを知ってるけどお前ってホント、たまに抜けてっとこあんだよなぁ。これから事件のことを調べようって言うんだろう?あんま、自分の身分を口にしないほうが良いぜ。探偵なんて名乗るより学生のままで通していた方が素で話してくれる場合もあるだろう?」

「いわれれば、そうだな・・・。わりいな、来栖。ナイスなフォローだぜ」

「解かれば宜しい。そんで、これからどうする訳?」

「それじゃ、さっき聞いた事を簡単に整理しよう」

 俺は生徒手帳を取り出して、言葉にしながらその口にしたことを書き込む準備をする。

「彼女の名前は若槻瑞穂、一昨日殺害されて、昨日発見された紀伊さとみの親友。二人とも同じ科って事はなんだっけ?ようご・・・、養護育成科で有っていたよな、来栖?」

「確かに、ヨウゴイクセイカってもんだったぜ。とりあえず俺様に聞くな。若し、俺が覚えていたことと間違っているようだったら俺様のほうから口挟んでやるよ」

「解かった、それじゃその時は宜しく・・・。若槻さんの話だと、紀伊さんはある噂を調べる様になってから可笑しくなったと口にしていた。その噂とは海星高校のクロのナナカイと呼ばれる物。クロは黒、夜を意味するんだと思う。何故ならその内容からすべてが夜に起きる出来事らしいからね。ナナカイは七つの怪談って所だろうか?表門の桜の木を見上げる流血人影、泣き叫ぶ彫刻、血の涙を流す肖像画、裏門近くから聞える呻き声、大地を這う人影、哀しい旋律を鳴らす自動演奏、六つの真相を知る事で得る呪い。このうちのどれかを調べ始めた時から紀伊さんは活発な女の子から、反転、って言葉にしていたから多分見た目の性格が暗くなったのだと思われる。それとも、活発過ぎた性格が穏やかになったのかもしれない・・・。若槻さんはシロのナナカイと言う開運をもたらす噂があるって言うのも教えてくれた。これを調べて不幸になるなんて哀しすぎるか・・・。でも、真実は捻じ曲げられて伝わる場合もあるから、紀伊さんがこちらを調べていて何かみんなが知らないような事に辿り着いたのかもしれない・・・。こんなもんかな。んぅで、俺達がこれからする事は噂の情報収集」

「情報収集すんのは解かったけど、具体的に言ってくれよ、どうすんのか?俺様は手伝いはしてやるけど、こっちは働かせてやんねぇからな」

「無駄に脳みそを使いたくないって?使えよ、もったいない・・・。全部で十四個の噂を調べなくちゃならないけど。やる事はそれと紀伊さんがどの噂を追っていたのか?それが解かった後に具体的な内容を知る、何時頃からある噂なのか、その噂になる元とは、の三つを基点に勧めていく」

「それじゃ、校舎内周りと外回りを手分けし探してくっか?計斗、裏と表どっちが良い?先に選ばせてやるよ」

「その前にそのコイン見せろっ!お前が何か仕掛けしてる事は知ってんだぞ」

 言って、来栖がポケットから出した五百円玉よりも大きいコインを奪い、それに手品の仕掛けがないか探りを入れた。しかし、何もない。

「計斗程度に見破られるような、仕掛け何チヤァ~もうしねえよ。これでも俺様はザ・マジシャン・オブ・マジシャンズのグランプリ準優勝者だぜ」

「知ってるよ、しかも優勝できる筈だったのに態とヘマしてそれになったこともね。ハァ~~~、どうせどっちを選んでも、お前の思惑通りになるんだろう?だったら裏で内回り」

 俺がそう言うと来栖はにやけた笑みを作りながら返してやったコインを空中に投げやった。

「計斗、お前がそのコインをつかめ」

「ヨット、掴んだぞ。それで手を開けば良いのか?」

「素人はへたな詮索はしない・・・。両手を握って、そして俺様にコインを握った手を握ったまま出せ。俺が三秒数えてその拳を叩いたら、ゆっくりと別の拳を開いてみてみな。それじゃ、始めるから・・・、アコード、ダックス、トロイスッ!」

 来栖に命じられたままコインを握ってなかった方の掌を開くと・・・、コインが握られていた・・・。なっ、なんでだぁ~~~っ!

「ホラッ、ホラッ、計斗。一人で驚いていないでコインは裏?表?」

「裏・・・って、げっ、当たってるけど、はずしちまったよ・・・」

「計斗の考えなんかお見通しだぜ。お前がどう答えようと、計斗に元から選択権はないの。よって内回りよろしくぅ~~~。アァ、体育館とか、屋内ブールのそっちは俺様が見てやるからよっ」

「それじゃ、今が十時半だから・・・、十二時半にバイクを止めて所に戻ってくる、って事にしよう。それでいいな、来栖?それとさっき若槻さんから奪ったハンカチはどうしたんだ?」

「なぁ~~~にぃカズトォ、俺様がそれをちょろまかして、お前がいないトコで臭い嗅いで、えへっえへへへぇ、ってなんかしちゃうと思ってる訳ぇ?酷いなぁ~~~、俺のグラスハートに数本亀裂が出来ちまったよ。・・・、・・・、・・・、アレなら、彼女に渡した雛のはらわたになってるぜ。それじゃ、時間を無駄遣いしちゃいけない、っておまえん所の夘都木おじさんがいつも言ってたから、行動、行動っ!」

 来栖は俺の背中を叩くと陽気な表情のまま行ってしまった。俺は一旦、A棟に戻ってその校舎から紀伊さんが何の噂を調べていたかを聞き始めた。

「えぇ、亡くなった。生徒さんのこと?うっぅぅん、これだけ大きい学校だから残念だけど、僕はその生徒とは面識ないんだ」

「養護育成科のさとみさんの事?・・・、・・・、・・・、御免なさい。私には解からないは」

「紀伊君か・・・、惜しい子が亡くなってしまったよ。一体、自分等教師は何をやっていたのだろうか。彼女が一体何に巻き込まれたのか自分には解かりませんけど、彼女を助けられなかった自分が悔やまれますよ。・・・、紀伊君が調べていた噂?紀伊君がそんなコトを調べていた事も自分は知らないし、彼女が自分の所に来てそんなコトを尋ねられた事もない。すまないねぇ、デモなんで聖稜のキミが?それにどうして彼女が亡くなったのを知っているのかね?」

「えぇっ、いや、その・・・」

「まあ、自分らの会議に聞き耳でも立てていたのだろう。咎めはしないが、いいですか、生徒には絶対口にしないで下さい」

 それから、暫くA棟を訪ねまわるけど会う人殆どが先生や学校経営役員だった。総合教員棟だから当たり前か。緊急会議は先生全員が集まったんじゃないらしかったから紀伊さんが死んだことを知らない先生までいた。直接俺が彼女の死を口にした訳じゃないから気付かれる事はないだろう。

 その校舎での収穫が出ないと感じた俺は次のB棟に移り、一階から順に教室を見回り、そこで見つけた生徒や先生に紀伊さんのことを尋ねて回る。二棟目の校舎を聞いて回る事によって大収容学校の欠点を痛感してします。

「去年も、今年も、そんな女子とクラスが一緒になった事ないから知らないよ、僕は。キミと同じ聖稜の女子と清地の男子なら居るけど・・・」

「ごめんしてねぇ。あたし、その子と友達じゃないから全然わかんないわぁ~」

「養護育成科のキイさん?・・・後輩にそんなこいたかなぁ?貴方、聖稜から来たんでしょう?内もクラスの分け方一緒なのよ。その子の学年クラスに行って聞いた方が宜しいんじゃないですか?でも、今日は日曜日で授業がないですから、教養科棟に行っても誰も居ませんけど・・・」

 そうだった、やたら科が多いけど、学年クラス別け、って言うのは普通科の学校と同じで何年何組と成っていて午後の二時間の授業が専攻の科の棟に移って授業を受けるんだったよな。俺はそれを若槻さんに尋ね様と思って中央棟三階の報道クラブに戻っていた。しかし、その場所には既に彼女の姿はなく、帰ってしまったようだった。

 今日は日曜日、よく考えたら、歩き回るのは中央棟だけでよかったんだ。学校に居るのは部活をしている生徒。文化部はすべてこの校舎に集まっている。さっそく、報道クラブの隣にある写真部にお邪魔させてもらった。

 中に入ると眼鏡の奥にある眼光がとても鋭い三年生の生徒がカメラの手入れをしていた。

「ネクタイに三本の白い線・・・三年生の先輩ですよね?東城計斗です。宜しく」

「そういう貴方は二本ですから聖稜の二年生で、合っていますね?僕は三河正樹、で僕に何か?」

「紀伊さとみさんと言う二年生の彼女の事で何か知っていることがあったら聞きたいなぁって」

「ああ、隣のクラブの彼女の事ですね。可哀想に・・・一体どんな奴が彼女を・・・」

 三河って名乗った先輩は言葉と一緒に手入れしていたカメラのファインダーを俺に向けていた。

「何で知っているんですか?紀伊さんが亡くなったって事を」

「僕は写真部の部員だけど報道クラブとは一緒に活動しているんだ。これに多くのスクープを収める為に・・・僕の家は冬木にあって、帰りは必ず葛西通りを通過するんです。それで昨日、学校の帰り偶然木場公園のあの橋の下でパトカーが何代も停まっていたから、これの望遠の倍率を上げて遠くの方から覗いてしまったら・・・。でも、聖稜の貴方がどうして?」

「俺も似たようなもんかな?昨日たまたま偶然に・・・。その紀伊さんがこの学校の噂を追っていたというのを耳にしたんですけど、どんな噂かんなぁ、って気になっちゃって。あっ、それと三河先輩でしたよね?紀伊さんは二年何組だか知ってるんですか?」

「まだ、学年が繰り上がって数日だからその情報はまだ、耳にしてない。紀伊君の追っていた噂・・・、確か二つあったような気もするのですが、僕が覚えているのは裏門がどうとか言うものだったような・・・」

「裏門の呻き声って奴ですね?その噂の具体的なことって知っています?」

「いや、ちょっと僕はそういうのは苦手なんだ。すまないけど何も答えられない。紀伊君のことを聞きまわるなら貴方にいい物を差し上げます。何かディー・ティー持っています?」

「ディジタル・ツールズ?携帯でもデジカムでも何でもいいんですか?」

「エム・ディーが使える方だったらどちらでも結構です」

 メモリー・ディスクか?だったら携帯電話の方だな。俺はそれを取り出すと三河先輩は先輩の持っているカメラにそれを挿して何かを転送していた。

「ハイッ、返しますね。今、紀伊君のとっても貴重な顔写真を入れておきました。彼女は凄く写真をとられるのが嫌いみたいで、渡したのに映っている様な彼女の笑顔は二度と一生手に入らないでしょう。それと、それを渡した理由はこれだけ大きな学校ですから、顔は知っていても名前は知らないって事が多いでしょ?その時にでも使ってください」

「それじゃ、ありがたく使わせてもらいます。先輩有難う」

「僕は貴方が何をしようとしているのかわかります。だから、僕はそのホンの些細な手助けをしただけなんですよ。僕はこれを扱うのは得意だけど、考える事は好きじゃないんで・・・」

 携帯の画面で三河先輩から貰った紀伊さんの画像データを確認した。先輩の言う様に作り物じゃない自然な笑顔の彼女が映っていた。俺が昨日デジカムに納めた写真とはまるで別人の様に感じられる。確認が終わると携帯を折りたたみポケットにしまった。

「先輩、俺もう行きますね」

「何か噂以外で僕の協力できることがあったら言って下さい」

 その言葉に一礼してから写真部の部室を後にした。それからまた順繰りに茶道・華道部、電子工作部、ガーデニングクラブ、文芸部、軽音クラブ、吹奏楽部、学芸クラブ、ダンス部、カードゲームクラブ、演劇クラブ、クッキング♡クラブ、刺繍裁縫部、魔道研究部、この他にも十二の部が合って、他にも十数種の同好会がある、って聞かされた。でも、全部を回る前に時間が訪れてしまう。

 バイクを止めた場所に戻ってくると来栖の方も同じ頃に姿を見せた。

「ご苦労さん。話はどっか飯でも食いながらしようぜ」

「うんだな、腹も減ってるし・・・。せっかく東京まで来たんだ。計斗、あそこの店に行こうぜ」

「あそこの店ってどっち?インナァンドアウトか?それともファット?」

「どっちもジューシーなんだよなぁ。ここから近いのってどっちなんだ?」

「あんまし変わらない」

「ンじゃァ、ファイヤー・ファット」

 俺達は昼を食べにファイヤー・ファットってお店に向った。場所は東京駅の近く、バーガーのパテを焼いている所を目の前で見れる。その焼いている時に匂って来る香ばしいそれが食欲を増進させるんだ。結構解かり辛い場所にあるから穴場だったりする。

「ダブル・キングファット、それと飲み物はMで新鮮レモン絞り、それとフレンチフライの真ん中サイズをお願いします」

「それじゃ、おれはトリプル・キングファイヤー・ファット、飲み物はまろやかミルクティーのLとオニリングのM、ああ、それとキミのスマイル品切れになるまで、で会計はこいつもち」

「俺、奢るなんていってないぞ。それと店員が嫌がること言ってんじゃないぜ」

「必要経費って事で頼むぜ、計斗」

「お客様、スマイルは有料で一回百万ゴールドとなっております。それでも宜しいですか?」

「来栖、あっちの方が上手のようだ、あきらめな。おごってやるからさぁ」

「わかったよっ。パートの姉ちゃんも面白いこと言ってくれるぜ、ゴールドだって?何処の国の通貨だ、それ」

 俺が来栖の分の会計も済ませてやると、店員は二回、〝こちらはサービスです〟って言って俺とヤツに可愛らしく笑ってくれた。

 二人でバーガーを焼いているカウンターの出っ張りに肘を突いて、焼いている所を見ながら立ち話を始めた。

「それじゃァ、計斗。俺様のほうから報告するぜ。今のところ解かっているのは紀伊さとみが黒系の噂を追っていたって事、しかも二つ。一つは裏門の呻き、もう一つは裏門に這う影。その二つの噂の事を深く聞きだそうとすると、知っている奴等はみんな口を閉じちまう。先生の方はまったくその噂を知らない様だな。要するに生徒の間だけに広まってるって奴だ。でさぁ、しょうがないから俺様もただでは無理だって気付いて、俺様のこれを見せてやったのよ」

「カードマジックって奴ね」

「そしたらさぁ、簡単に口割ってくれたぜ」

「ンで、来栖。お前はその噂の詳しい事情を聞きながら、女子からは携帯の電話番号を一緒に収集してたんだろう?藍野さんには黙っておいてやるよ」

「うぅぅんな事、俺様がするわけねぇだろうが。下々の女なんか興味ねえよっ!それになでそこで千奈津の名前が出てくんだ、計斗?」

「べつにぃ~~~。アッ、出来たみたいだ」

「ダブル・ケー・エフ一つ、トリプルエフ・エフ・ビー一つ、フレンチフライM一つ、オニオンリングM、新レモ絞りM、マロミルティーLのお客さまぁっ、おまちどぉ~~~さまでしたぁ~」

「メルッシィ~~~、俺様が持ってやる。計斗、ウィンド・サイドのあの席で続きの話だ」

 俺達は丁度いい具合に外の光が差し込んでくる窓際に席に座ると買った物を食べながら中断していた会話を始める。

「さっき、俺様、どこまでくっちゃべったっけ?」

「黒の噂の具体的な内容は何か、ってのをカードマジック披露と交換に聞き出したって所」

「そうそう、それでさぁ、聞き出せたのは裏門で呻く奴だけなんだ。で、その内容って奴がな・・・、やっぱり怪談話っぽくてさ。それを目撃するのは夏の夜みたいだぜ。それじゃ話すぞ」

 来栖は言葉を止め指を鳴らすと何処からか怪談話には持って来いのどろどろとした音楽が聞えてきた。一体コイツは何処にそんな仕掛けを隠しているんだろうか?

『夏の蒸し暑い夜の海星高校、校内を見回る用務員二人しかいない午後十時。その二人すら見回らない裏校門の木々の並ぶ壁の近くに近寄ると地面の中から・・・、少女の呻き声が・・・。そして、そのうめき声を聞いた者達は神隠しにあったように姿を消してしまう・・・』

「ってぇ~感じよっ。俺はこんなの耳に入れても別に怖いってことないけど、結構カイセの生徒達ビビリ入ってたぜ。でさぁ、何時ごろからある噂かって聞いても今日会った生徒でそれを知っている奴等は居なかったな・・・。紀伊、って女子が追っていたもう一つの噂の手がかりはなし。俺様の方はこんな物だ」

「何だか、やけに時間がはっきりとした噂だな・・・。午後十時か?確かめてみようか?」

「やるなら、計斗一人だけにしてくれよ」

「なんだ、来栖?口では怖くないって言ってるくせに、本当は怖いんだろう?」

「うぅうっ、うんな訳ねぇだろう。俺様の家の門限は午後九時五十九分なんだ。帰るのにまにあわねぇよ・・・。ソッ、それより、計斗の方はどうだったんだ?聞かせろよ」

「クククッ、来栖にも苦手な物はあるんだな。聞かなかった事にしておいてやるさ。で、俺の方はお前が聞けなかったもう一つを収穫してる。紀伊さんが調べていたのは大地に這う影。これも裏門の方で内容はやっぱりこっちも夏の話なんだけどね、真夜中に裏校門を通りかかると血染めの海星の制服を着た少女がその付近を這いながら助けを求める声を掛けてくるらしい。助けに近付いても、その少女の姿は消えちゃって血の痕跡が残っているって話」

「目に見えている物に近付くと、消えるか?そんなマジックは幾らでも有るけど・・・。でも、そんな悪趣味なシチュエーションで俺様はそんなことしないぜ」

「来栖、今日はサンキュウな。これで明日からはその二つを重点的に捜査するよ」

「何よぉ、その言い方?俺様は今日でお払い箱ってわけ?」

「明日は月曜日。学校が始まるだろうが?俺は仕事でしょうがなくサボるしかないけど、来栖は違うんだから学校を休むわけには行かないだろう?」

「俺様達ベス・フレじゃねぇか。計斗の為ならガッコなんかどうでもいいぜ。それにこんな所で俺様を見捨てるなんざぁ、犯人に襲われそうになっている俺様を見て、見ない振りして逃げる事と同義だぜぇ、まったく」

「なんだぁ、その理屈は?俺には全然理解できない」

「それになんで計斗がガッコをサボんなくちゃ行けないのさ?事件がカイセの事で、カイセで情報を集めよう、ってんならさぁ、交換学生でその間だけこっちに来ていればいいことだろう?ガッコにちゃんと顔出せて、休みの時間とかを利用すればいい事ジャンか」

「なに言ってんだ、交換学生の申請は学期末じゃないか、もう全然間に合わない・・・?あっ、そうだ、確か父さんは聖稜の偉い人と知り合いだって言っていたからなんとなるかも知れない」

「じゃァ、決定だな。俺様の手続きも頼むぜ」

「しょうがないなぁ~~~。でも、父さんが駄目って言ったら、駄目だからな、来栖。父さん、多分まだ帰っていないと思うけど、一旦俺の家に行こうぜ」

 家に戻る途中、秋葉原によってデジカムのバッテリー予備を買ってからにした。で、その時に来栖は何に使うのかわからないジャンクパーツをしこたま購入していた。

「あれ、事務所の扉開いてる」

「だったら、夘都木のおじさんが帰ってるって事だろう。別にそんなコト口にしないで中に入って確かめりゃいいだろうが」

 そして、中に入るとやっぱり父さんが帰っていて女の人と何かを話していた。それとその女の人は俺の知っている人だった。

「計斗お帰りなさい。首尾の方はどうでした?」

「あら、計斗君?お久しぶりね。おじゃましているわ」

「おぉっ、おい、計斗。あの美人なおねえさま誰よ?紹介しろ、俺様に」

「あぁ、うん。父さんの元同じ職場の人でミカミ・ミコトさんっていうんだよ」

「俺様はコイツのべスフレやってる来栖勝彦。とりあえず、これお近付きのしるしに」

「あら、何処から出したの?フフッ、面白い子ね。計斗君も紹介してくれたようだけど私は御神美琴よ。警視庁で捜査官をやっているわ。宜しくお願いね」

「あっ、そうだ、父さん。明日から海星高校で情報を集めようって思っているんだけどさ、内の聖稜学園と海星高校って姉妹校なの父さんも知っているでしょ?」

「ええ、無論知っていますよ。ああ、なるほどそういう事ですか。計斗、交換学生として調査の間だけ海星に編入したい、と言う事ですね?」

「さすが、父さん。俺が話そうって思ってた事直ぐに解かっちゃったんだ。でさあ、こいつも手伝いたい、って我儘言うんだよ。何とか来栖の分も出来ない?」

「言いのですか、勝彦君?まあ、私の方は計斗の協力者が居てくれた方が安心しますから願ってもない事なのですけどね。それではそう出来るように今すぐ手続きをお願いしましょう。海星高校に聖稜と同じ学科が有るか知りませんから二人とも普通科でいいですね?」

「俺様は計斗と一緒ならどの科でもいいぜ」

「その辺は父さんに任せるよ」

「勝彦君、三戸から通学するのは大変でしょうから、計斗を手伝ってくれる間は遠慮なくここに泊まってください」

「よしっ、決まりだな。ウンじゃァさ、俺様は一度家に帰って学校の用意持ってくるは三時間くらいで戻ってこれると思うぜ。行って来るぞ、計斗」

「飛ばし過ぎて事故ルナよな、来栖。いいこと以外でお前が新聞に載るのは親友として絶対認めないからな」

 俺はそう言って親友を見送ってやった。それから、夕食は奴が戻ってきてから摂ろうと父さんは言って編入の手続きをしにどこかに御神さんと一緒に行ってしまう。

 皆が居なくなって出来る事といえば今日得た情報の簡単な整理くらいの物か?

 紀伊さとみさんが殺された理由はある学校の噂を追っていてその真相に辿り着いてしまった為だと思われる。そして、その噂とは二つあり、どちらもが海星高校の裏校門にまつわる物だった。そして、具体的な内容を掴む事が出来た。どちらも夏季限定らしい。ただし、今のところその目撃情報はない。で、明日からは海星高校に交換学生として来栖と一緒に編入して、その二つの噂の関連性と何故そんな物が広まる様になったのか、噂の大本となる何かを突き止めるのが目的。

 頭の中で整理が終わると時計で時間を確認していた。それをし始めて十分と立っていないようだった。来栖が戻ってくるのにはだいぶ時間が有るし、父さんも直ぐには帰ってこないだろう。特に何もすることがないからテレビを見ながら暇でも潰すとするかな・・・。

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