10-4

 買い物を終え、パーティをして。

 家族には内緒で、結瑪凛ゆめりと大人になった。



「……結織ゆおりさんのこと、言えないな。

 今日は、音飛炉ねいろさんに招待された、大事な日なのに」



 思った通り甘えん坊な彼女に腕枕しながら。

 ぼんやりと、俺は思った。

 特に補足せずとも、結瑪凛ゆめりは察してくれた。



「気にするな。

 これも、あたしの作戦の内だ。

 良くも悪くも、な」

「どういうこと?」

「悪い意味ってのは。

 こうでもしないと明日、結織ゆおりに確実に揶揄からかわれる。

 で、い意味ってのは。

 こうでもしないと明日、あんたもあたしも、明歌黎あかりたちも。

 折角せっかくの『トッケン』のイベントを満喫出来できない」

「……だから、こんな大博打に?」

「確信はったさ。

 あんたなら、この荒療治さえ耐え抜いてくれるってな。

 無論むろんあたしから離れられないのも」



 頭を上げ、一糸纏わぬ状態で腕に抱き付き、押し付けて来る結瑪凛ゆめり

 思わず、もう一戦、したくなってしまった。



「そうだ。

 今度、あたしの祖父に会ったら。

 あんたからも、言っといてくれよ」

「な……なにを?」

「『あんたの孫娘は、ちゃんとバリボーだったから、もうネタにすんな』って」

「……だよ。

 そんな、ほし◯あきさんが、めちゃイケレギュラーやってた時の加藤◯次さんみたいなの」

なんで、そんな、懐かしいネタ知ってるんだよ」



 相変わらず、巫山戯ふざけ合いながら。

 ムードもへったくれもいままに。

 俺達は、最初のピロー・トークを終えた。



 この日から俺達は、互いにサムリング、婚約指輪を付け始めた。

 ナコード、カコードが、アクセサリーとしての役目も果たし出した。

 トケータイの機能で固定してるから、傷や紛失とも無縁だ。



 そうして辿り着いた会場。

 驚いたのは、欠席の旨を明かしていた『ニアカノ同盟』の人達もことだ。



 なんでも、結織ゆおりさん曰く「アフターケア」。

 多矢汐たやしおさん曰く「ジレンマの克服」。

 そして庵野田あんのださん曰く「出歯亀」らしい。

 


 ちょいちょい思っていたが。

 その実、アンニュイで天然で敵等っぽい多矢汐たやしおさんが断トツで真人間らしい。



 俺達の指に2つの指輪が収まっているのを即座に見抜き。

 結織ゆおりさんは、挨拶もしに、結瑪凛ゆめりさんを抱き締めた。

 泣き虫な結瑪凛ゆめりは、またこっそり涙した。

 


 その横で、未希永みきとさん、七忍ななしのさんが拳を出して来た。

 俺も、それに応え、両手を突き合わせた。



 そうして、俺達は『トッケン』を観覧した。

 知り合いの欲目を引いても、素晴らしい演劇だった。

 


 公演のあとに、『トッケン』の皆さんと話す時間を設けてもらった。 次からは、顔パスで入れるようにしてもらうらしい。

 きっと、音飛炉ねいろさんへのチケット撒き撒き対策だろう。



 そんな皆さんにも案のじょう、早々に見破られ。

 またしても、祝福されてしまった。

 


 こうして、この日は終わった。

 俺にとっては、実に10年りに、心から楽しいクリスマスが。



 余談だが。

 この日からメイの、明歌黎あかりへの「お母さん」「ママ」呼びが解禁となった。

 今まで気を遣って、耐えてくれていたらしい。

 っても、隠せていたかはグレーだが。

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