10-3

「あ……あぁ……。

 ……あぁ……!!」



 父さんと、母さんが。

 二人が、る。



 さわれないけど。

 映像だけど。

 まだ、喋ったりは出来できなさそうだけど。

 俺に向けて、微笑ほほえみかけてくれてる。



 ちゃんと、そこに。

 ここに、る。



 実感が湧いて来て。

 俺は、結瑪凛ゆめりに吐露する。



「……明日なんだ……。

 二人の、命日……。

 世間的には、クリスマスで……。

 個人的には、俺の誕生日で……。

 我が家的には、トラウマで……。

 今まで、ろくに祝って来れなくて……。

 ずっと、ずっと、嫌いで、憎たらしくて、悲しくて、怖くて、辛くて……。

 ……寂しくて、仕方しかたかったんだ……」



 あの日。

 クリスマス当日で。

 こんな名前からしたら、季節外れかもしれない、俺の誕生日。



 俺は、二人と一緒に、ケーキとチキンを買いに行きながら。

 プレゼントを、お強請ねだりしてたんだ。



 そしたら急に、けたたましいブレーキ音が轟いて。

 追って、ガード・レールが吹っ飛んで来て。

 その後ろから、暴走車が突っ込んで来て。

 気付きづけば俺は、二人に庇われてて。



 俺を、両腕で包みながら。

 二人は、静かに息を引き取った。

 


「ずっと……。

 俺の所為せいだと、思ってたんだ……。

 俺が、聞き分けかったら……。

 俺が、おしゃべりに夢中になってたから……。

 俺が、産まれてなんか、来なければ……。

 そしたら、きっと……みんな、助かってた……。

 父さんも、母さんも……。

 俺の前から消えたりしなかった……。

 俺が、二人を、殺したんだって……」



 袖で涙を拭いながら、懺悔する。

 シートベルトを外した結瑪凛ゆめりが、体を倒し、俺を包む。

 


 あの時の温もりを、思い出した。



「……そんなことい。

 蛍音けいとは、なにも悪くない……。

 蛍音けいとは……ここに、るべきだよ……」



 普段より、少し柔らかい。

 それでいて、毅然とした物言いで。

 結瑪凛ゆめりは、言ってくれた。



 この人と付き合えて、本当ほんとうかった。

 そう、心から再確認した。



蛍音けいとてくれたから。

 あたしを見付けて、助けてくれたから。

 あたしと出会って、付き合ってくれたから。

 だからあたしは今、ここにる。

 蛍音けいとは、産まれてくるべき存在だった。

 あたし……本当ほんとうに、感謝してるんだ。

 蛍音けいとと巡り会えた、恋人同士になれた、偶然に。

 蛍音けいともたらし、育ててくれた、ご両親に」



 俺の背中に手を這わせ。

 結瑪凛ゆめりは、宣言する。



「……誓うよ、蛍音けいと

 結織ゆおりに褒められてもピンと来なかった、あたしの武器。

 蛍音けいと明歌黎あかり、レイメイが証明してくれた、あたしのユニーク・スキル。

 蛍音けいとを想うと無尽蔵に溢れて来る、この力。

 あたしの、エミュりょく、想像力。

 自分のすべてをもっあたしは、今より強くなる。

 蛍音けいとに求められる、支えられる、捧げられる。

 唯一無二の、最初で最後の、最高で最強の女になる。

 時間も、予算も、知識も足りなくて。

 今は、これくらいしか、恩返し出来できないけど。

 結織ゆおりやスタッフと一緒に、『Sleapスリープ』で働いて。

 多くの人を、自由に、平和にして。

 今までみたいに、ネガってばかりいないで。

 ちゃんと、『名声メイセイ』も博して。

 いつか、もっと普通に、ご両親と話せるよう、尽力する。

 公序良俗の範囲内で、それ以外のことだってなんでも、いくらでもする、叶えてみせる。

 一生、好きでいてもらえるよう、最善、人事を尽くす。

 だから……田坂たざか 蛍音けいとさん」



 一旦、俺から離れ。

 俺に渡した小箱を、取り。

 目の前で、パカッと開いて、カコードを。



 給料3ヶ月分の、2つの婚約指輪を煌めかせ。

 逆プロポーズを、開始した。

 

 

あたしはもう、決めました。

 人生の、パートナーを。

 なので、出来できれば。

 こんな、あたしければ。

 ……2年後に、生涯を誓ってください。

 あたしと……結婚、してください」


 

 いつだって、凛としてて。

 デフォルトで、アンニュイ、退屈そうで。

 ツレない言動に反して、名前と内面は可愛かわいらしくて。

 サプライズ好きで、計算高くて。

 存外、ロマンチストで、焼き餅焼きで。

 負けず嫌いで、勝ち気で、好戦的で。

 強そうなポーズして、実際はヘッポコで。



 そんな、俺の、愛する人。

 俺だけの、伴侶はんりょ



「んっ……!!

 ……んぅ……」



 衝動的に、キスをする。



 結瑪凛ゆめりは、本当ほんとうに器用だ。

 不意打ちされても、指輪を落とさないだなんて。



 やっぱ、子供っぽいかな。

 せかせかしぎ?

 それとも、がっつきぎ?



 正解なんて、分からない。

 ただ、最適解ではあったんだ。

 俺の気持ちを今、結瑪凛ゆめりに伝えるには。



本当ホント……変わったな、あんた」

結瑪凛ゆめりが、変えたんだろ……!」

「謙遜はせ。

 あんたが、自分と、過去と向き合った成果だろ?」

結瑪凛ゆめりと付き合うために、不可欠な工程だったんだよ……!」

「光栄なこって。

 いから、早く答えろよ」

「……『Yes』……!!」

「上々」



 頭を叩き、勝ち誇る結瑪凛ゆめり

 


 頭が上がらないとは、こういうことをいうんだろうな。



 その後。

 二人で、指輪を付け合い。

 そのタイミングでトケータイに、明歌黎あかりからのSOSが入った。



 なんでも、『ショートかチョコかチーズ』かで、プチ喧嘩が始まったらしい。

 可愛かわいらしい、微笑ほほえましい内容に、そろって笑ってしまった。



 車から降りたタイミングで、結瑪凛ゆめりからスペア・キーを渡された。

 と同時に、車を親指で指してるもんだから、気になって振り返る。



 見れば、運転席側の窓が開いていた。

 この真冬に、明らかに意味深に。

 というか、そのメタ・メッセージを、俺は未だに覚えていて。

 なんなら結瑪凛ゆめりは、その作者ですらあって。



 もらったばかりのキーで、俺は助手席の窓を開け。

 またしても、結瑪凛ゆめりがドヤ顔を披露する。

 


 と思いきや。

 意外にも、真っ赤になって、目を逸らしていた。

 勘違いじゃなくて、安心した。



 その後、二人で窓を締め直し。

 明歌黎あかりとレイメイの待つ、ケーキ屋さんへと駆け出した。



「言っとくけど……。

 あたしの体のが、甘くて、美味おいしいぞ……」

「〜!?」



 紅潮こうちょう中の結瑪凛ゆめりに。

 とんでもない爆弾を、食らってから。

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