第10夜「メイセイ」

10-1

 あの文化祭めいたイベントから、早3ヶ月。

 俺は、結瑪凛ゆめり明歌黎あかり、レイメイと変わらぬ日々を送っていた。

 ……というわけでもない。



 翌日の月曜日。

 それから俺の周囲は、一変した。

 どこでなにをしていても、質問攻めにうようになった。

 


 これは、中々に大変だった。

 元々、好きでこそあれど、話すのは得意じゃない。



 俺が雄弁っぽく化けられるのは、あくまでも知り合い限定。

 クラスメートや担任の先生は勿論もちろん

 上級生となんて、真面まともしゃべれる道理はい。



 そもそも。

 結瑪凛ゆめりの背景からして、エグぎる。

 あれを噛み砕き、マイルドに説明するのに。

 一体、どれほどの機転のさが求められるか、計り知れない。



 と、そんな調子で恋人が困らされているというのに。

 本人は、素知らぬ顔で、「また文◯砲食らってやんの」みたいな様子ようすで、嘲笑うだけ。

 向こうだって、本来の姿で学校生活を過ごすのは、かなり苦戦を強いられただろうに。



 そんな結瑪凛ゆめりは、学校を空けることが多くなった。

 内定してる『Sleapスリープ』にて、インターンを受けているのだ。

 他にも、バラエティなどの仕事も入っていて。

 まるで、芸能人みたいだ。



 激務に追われる彼女に、「連絡、控える?」と、前に聞いた。

 すると、「大人おとなしくあたしに充電してろ」と怒られ。

 間髪入れずに、長電話に付き合わされ、サボりを余儀なくされた。



 ところで、『ニアカノ同盟』や、『トッケン』の皆さんとは、あれからも定期的に会っている。

 なんなら、RAINレインだってしてる。

 おかげで退屈、侘び寂びとは縁が出来できない。



 話は変わるが。

 前に音飛炉ねいろさんからもらったチケット(っても大部分は返却したが)。

 あれは、クリスマス公演の物だった。



 正直、詰みかもしれない。

 興味もるし、頂いた以上、俺も行きたい。

 だが、開催日が『クリスマス』となれば、話は別。



 別に、やもめ特有の、みっともないひがみなどわけではない(そもそも、俺はもう彼女持ちだ)。

 かといって、「初カノとの初クリだから」とか、バカップルめいた理由でもない。



 これは、完全に、個人的な原因。

 簡潔に言えば、ろくな思い出がいのである。



 思い出といえば。

 チケットを返す前に、『ニアカノ同盟』の皆さんも誘ったが、断られてしまった。

 なんでも、『最悪なジンクスがるから一日中、同盟団欒、水入らずで過ごしたい』……だとか。

 少し気になったが、折を見て教えてもらうとしよう。



 そうこうしてる間に、3ヶ月が経過。

 勉強して、デートして、息抜きにゲームして、読書して、また勝負して。

 気付けば、初雪が観測され。



 そして、イブの今日。

 俺の自宅の前には、結瑪凛ゆめりが駆るだろう車がった。

 知らない内に、免許を取っていたらしい。



「……なんだ?」



 寒空の下、無言で眺めていると、睨まれた。

 俺は、率直にコメントした。



「いや……大丈夫かな、って。

 運転……。

 ボロボロ、テープだらけ、トランク全開、バックで追い掛けて来たりしないかな、って……」

「するか。

 今時、自動運転なんて普通だろ。

 それに、安心しろ。

 操作するのは、明歌黎あかりだ」

「あ。

 それなら、杞憂だ」

「……気が変わった。

 そんなに死にたきゃ、あたしが代わる。

 そして行き先は、地獄だ」

「ごめん、待って、それだけは勘弁」

「案ずるな。

 向こうでも、あんたと出会ってやる。  死んでからも、ずぅっと一緒だ」

「違う、そうじゃない」



 本気で拗ねそうなので、平謝りで機嫌を取る。

 


 なにはともあれ。

 こうして、ドライブ開始だ。

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