9-2

「よぉっ!

 俺の孫、日本一っ!!」

なにを言うかっ!

 セットでないと、なんも付加価値もいわいっ!!

 まったく、うちの孫娘と来たらっ!!

 ヒヤヒヤさせおってからに!!

 相手が蛍音けいとくんだったから、かろうじて命拾いしたものの!!」

「少しは、自分の娘さんを褒めなさいな。

 だねぇ、この人ったら。

 相変わらず、オンボロで。

 あと、ケイちゃん、かったわねぇ」

「なぁっ……!?」



 ジジ、ババ!?

 それに、校長!?

 


 二人とも、『来ないで』って言ってたのにっ!!



「やったな、蛍音けいとっ!!」

格好かっこ良かったぜ、蛍音けいとちゃんよぉ!!

 俺の次に、ぐえっ!!」

「お疲れさま蛍音けいとくん。

 手伝った甲斐かいったよ」

「おまっ……灯路ひろ手前てめえっ!!

 爽やかムーブで労いつつ、首絞めんなっ!?」

「呼んだ?

 七忍ななしの雑用」

「呼んでねぇし、雑用でもねぇぇぇぇぇ!!

 俺の周りの親子、面倒で呼びづれぇのしかねぇぇぇぇぇっ!!」

「今の、見た?

 未結希みゆき

「ったりめぇだろ、織永おりえ

 これからは灯路ひろの相手、全部あの人に押し付けっぞ」

「ガキィィィィィッ!!」



「実にタギタケでしたぁ!!

 あー、私も久々に恋バナしたくなりましたよぉ!!」

「聞き捨てならんな。

 しからば、とくと我と語ろうぞ、音飛炉ねいろ

 ちなみに我は、『ユメケイ』派だ」

「えー?

 どっちかっていうと、『ケイユメ』じゃないですかー」

「交渉決裂、見解の相違。

 となれば、やることは一つ」

「ですね。

 どっちがよりエモいか、研究し尽くすのみ」

「やれやれ。

 今宵は、長くなりそうだな」

「今夜は寝かしませんよ、恵夢めぐむっ!!」



「難儀な子達ね。

 これからも、なにかと目を掛けてないと、どうにも心許こころもとないわ」

「そうだね、治葉ちよ

 それはそうと君、なんにん倒した?」

「そんなの、いちいち数えても覚えてもいないわよ、結織ゆおり

 間怠まだるこしいったらありゃしない」

「あははっ。

 相変わらず、格好かっこいなぁ。

 倒した人の上に座ってるとことか、特に」

「ここが一番、高くて、眺めがいんだもの。

 それに、このあたし相応ふさわしい椅子いすが、他にるとでも?」

いね」



すごく……バッチリ、でした……」

「そうでやんすな。

 しかし、改善点も見付かりました。

 やはり、当面の課題は、セーフティ、セキュリティーの強化でしょうか」

「だったら、マユ……。

 依咲いさきの、お手伝い、する……」

「助かるです、真由羽まゆは

 これを進化させて、布教して、普及させて、楽にボロ儲けましょうぜー」

「……やっぱり。

 少し、考える、です……」

「ちょっと、依咲いさきっ!!

 うち真由羽まゆはに、変なこと吹き込まないで頂戴ちょうだいっ!!」

治葉ちよちゃん、そこから無傷で飛び降りれるのぉ!?」

「ひ、『非リアの愚者塔』が、崩れ……!?

 アンギャーオ!!」



「お二人殿どのぉ!!

 すこぶるテンアゲで候ぞぉ!!」

ついでに、風凛かりんも上げちゃいまーす」

「おぉっ!!

 絶景かな、絶景かなっ!!

 見事ですわぞ、友花里ゆかり殿どのぉっ!!」

「よ、喜んでくれた……!!

 今まで、みんなから遠慮されてたのにっ!!」

「はーっはっはっはっ!!

 なぁに構いませぬ!!

 この程度の高度で壊れるような鍛え方はしてませぬ!!」



 思い思いの言葉と表現で、祝福。

 と見せ掛けて、ステージ下(と上)でアレな会話を展開する面々。

 


 やっぱり。

 色々とんでもない人と、お近付きになってしまったな。



「ケートくんっ!!」

「大手柄よ、ケート」



 ネックレスから勝手に現出し、俺に抱き付いて来るレイメイ。

 俗に言う、川の字で。



 そういえば、現実世界でもリアライズ出来できたんだっけ。

 針のむしろにしかならないから、そもそも無意識に選択肢を消してた。



 ……あ、あれ?

 ところで、これ、平気?

 俺、地目じめの言ってた通りになってない?

 侍らせてたり、してない?



「あははっ。

 一気に、特進したねぇ。

 これまで意図的に潜る、モブってたのに。

 たちまち、悪目立ちしちゃったねぇ」



 ヒョコッと座りつつ、見物してる明歌黎あかり

 結瑪凛ゆめりが「やれやれ……」って顔してる辺り。

 こっちも無許可か。



「おめっとさん、蛍音けいと

 これで晴れて、あんたも、合法ハーレム主の仲間入りだ」

「別に、そんな願望、独占欲、りませんけどぉ!?」

なによ?

 このあたしじゃ、満ち足りないっての?

 生意気よ、ケート」

「ケートくん、ひど〜いっ!!

 私達なんて所詮、遊びだったんだね!?」

「これは、中々にギルティ、難儀だねぇ、蛍音けいとくん」

なんでもいけど、早く離れろ。

 蛍音けいとは、あたしのもんだ。

 とっとと退散しろ、『傀儡くぐつ』共」

「……レイちゃんと、メイちゃんだっけ?

 ちょっと下克上、起こさない?」

「賛成」

「改革してやるぅ!!」

「ちょ、まっ……!!

 多勢に無勢とか、チートだろ、そんなのっ!!

 分かった、悪かったっ!!

 精々せいぜい、『傀儡かいらいくらいにするっ!」

「言い換えただけじゃん!」

「読み取られづらくなっただけよね?」

まったく。

 我が主人ながら、素直じゃないなぁ。  これは、まだまだ見守り甲斐がいりそうだよ」




「……」



 ……この世に、他にる?

 ここまで羨ましくない、そっくりさんだらけの似非えせハーレム。



「は……はは、は……。

 ……はぁ……」



 先行きが不安になりつつも。

 物凄い疲労、達成、充実、満足感に包まれつつ。

 俺は、しばらく横になっていることにした。



 ……が。

 どうも、そうは問屋とんやおろさないらしい。



 きっと、イツメンである彼女と、いつもと似た、延長線でしかない時間を過ごしていた所為せいだ。



 俺は、失念しかけていたんだ。

 今の自分が、衆目に晒されていることを。



『うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!』



 やにわに轟く、大歓声。

 続いて、拍手の大喝采。

 


 気付けば俺は、スタ ディングオベーションの真っ只中にた。



「すげーぞ、田坂たざかっ!!

 難攻不落の安灯あんどうさんを!!

 なんなら、『Sleapスリープ』で遊ぶフラグすら、折りまくりだった、あの安灯あんどうさんをっ!!

 ろうことか、ことげに、オトすなんて!!

 一体、どんなマジック使ったってんだよっ!!」

本当ホントに文化祭みたいだった!!

 こんなの、ただの立派な演目でしかないよっ!!

 私も、リアル恋愛してみたくなった!!

 二人に、勇気もらった!!」

「しかも、明歌黎あかりさんじゃなくて、ちゃんと本人を選ぶなんて!!

 お前、格好かっこぎんだろっ!!

 俺達の雪辱を果たしてくれて、ありがとよ!!

 これで、後ろ髪引かれず、卒業出来できる!!

 大した後輩だ!!」

「おまけに、ちゃんと明歌黎あかりさんのことも大事にしてくれたっ!!

 結瑪凛ゆめりさんだけじゃなく、明歌黎あかりさんのコードも、守ってくれてた!!

 おかげで、悪漢あっかんの手に渡らずに済んだ!!

 田坂たざかくん、マジ紳士ナイト!!」

「もしかして、それも計算の内!?

 安灯あんどうさんは最初から、『田坂たざかくんが解決してくれる』のを熟知した上で、このギャンブルに出た!?

 なにそれ、エッモ、超スリリング、ロマンチック!!

 如何いかがわしいけど、いじらしいっ!!

 二人の信頼し合ってる、相思相愛感、半端はんぱっ!!」



 うっとりしたり、感涙したり、拳を上げてたり。

 気付けば、なんだかすごにぎやかになってる観衆。



「これは……ちょっと、想定外だな」



 優勝者にしては弱気な発言をする。

 横で、不意に結瑪凛ゆめりが吹き出した。



「見ろよ、蛍音けいと

 これが、あんたの勝ち取った戦果だ。

 本当ホント……とんだダーク・ホースだよ、あんたは」



 当てられたらしく。

 もらい泣きしながら、結瑪凛ゆめりは結ぶ。



「……望んでた、夢見てたほどではないけどさ。

 悪夢にうなされそうなほどでは、なかったんだな。

 思ってたより全然、冷たくなかった。

 どこも、孤独なんかじゃなかったな。

 世界も、人も。

 ……現実も」



 めずらしく明るい発言をする結瑪凛ゆめり

 俺も負けじと、それっぽいことを言う。



「『事実は小説より奇なり』。

 現実も、またしかり」

なんだよ、それ。

 でも……ちょっと、分かる。

 それに……い気分だ」

「確かに。

 孤城のピンチ姫には、勿体無いな」

「だな。

 大人おとなしく、引退でもしとくか」



 互いにおどけ。

 どちらからともなく、笑った。

 明歌黎あかりとレイメイも、それに釣られた。



「よーし!!

 じゃあ、ケートくんを、胴上げだぁっ!!」

「異議し」

「決まりだね」

「落とすなよ、3人共」

「どっちの意味で?」

「全部だ、バーカ」

「ちょっ……!?」



 問答無用で、神輿みたいに担がれる俺。



 困ったな。

 これから訪れる未来は、静けさとは無縁らしい。



 なにはさておき。

 アトラクションの幕は無事、引かれ。



 時間が余ったので、結瑪凛ゆめりにアドリブでオルタナを歌ってもらい。

 黄色い声援を独占しながら、結瑪凛ゆめりは俺にたくましく微笑ほほえんだ。



 みずからを楽器とするほどの、彼女の『吹鳴スイメイ』。

 それを見て、またしても俺は、どうしようもなく。

 惚れた腫れたをヘビロテする。



 こうして、俺達のイベントは終わり。

 俺と結瑪凛ゆめりは、晴れて堂々と、男女交際を始めた。

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