8-4

 本当ほんとうあきらめたような演技をし。

 彼女の絶望顔を、肉眼で拝んだ後。

 俺は、最後の希望を解き放つ。



「……これさえも、通じなかったらなぁっ!!」



 俺の叫びに呼応し、燦然と輝くトケータイ。

 その眩しさ、大きさに、ユナイトメアが恐怖する。



 召喚されるは、勝利の女神。

 今の『ハナコー』の看板娘にしてマドンナ。

 俺達をつないてくれた、俺の憧れ。



 取って置きの、作り置き。

 出来合いの、溺愛。

 彼女にとっての、最大の処世術。

 理想化された、虚仮こけおどしではない、安灯あんどう 結瑪凛ゆめり



ーー『安灯あんどう 明歌黎あかり』。



「ま、まさかっ……!?」



 驚きのあまり、椅子ごと後ろに倒れる。

 そのまま、仮想の明歌黎あかりを指差し、わなわなとする。



明歌黎あかりは今回、不参加だ!!

 倒しでもしない限り、召喚は出来できないっ!!」

「そうとも。

 だから、味方にした。

 っても、最初のカードみたいに、戦わずに。

 この部屋のぐ前でスタンバっていた、彼女をな。

 そのためのワードだって、用意してあった。

 今となっては、使い果たしたがな」

「う、嘘をけっ!!

 あたしが声を掛けたのは、先生に結織ゆおり友花里ゆかり依咲いさきさんと恵夢めぐむさんだけだ!

 他に知り合いなんて、ないっ!!」

「それが、たんだよ。

 一方的に君を知っていた、助っ人が。

 未希永みきとさんと結織ゆおりさんの子供、未結希みゆきくんと織永おりえさん。

 それに、『ニアカノ同盟』と盟友、『トッケン』の方々と、その娘の灯路ひろさん。

 そして、君のナコードから生み出した、俺のカバター、レイとメイ。

 合計、『16人』、『16文字』だ」

「ば、馬鹿バカなっ!!

 出鱈目でたらめに、決まってる!!」

「そう思うなら、確認してみたらい。

 大方おおかた、あの中に策士がて。

 その人が、自分好みに、俺にもお誂え向きに、水面下で計画を練り直したんだろう」

「あ……あの、ペ天使がぁぁぁっ!!」



 あ。

 やっぱり、結織ゆおりさんか。

 だと思った。

 レイから受け取った彼女の記憶からして、お姉様と似たタイプだと睨んでたし。



「降参するんだな。

 今度こそ、年貢の納め時だ」

「ち、違うっ……!!

 そんなはずいっ!!

 こんなあたしが、そこまで気に入られるはずいっ!!

 第一、あたし明歌黎あかりに、そんな命令、出していないっ!!」

「だろうな。

 だが、覚えているだろう。

 ナコードと、レコード。

 カバターと、アザター。

 その2つを別物たらしめる、決定的な違い。

 それは、『リアルタイム』かどうかだ」

「ま……まさか……!?」

「その『まさか』だよ。

 彼女は、そこまで自発的に動けるよう、君の監視から離れ、独自に進化したんだ。

 君の感情を読み取り、自分の真の役目を把握し。

 俺に、今の君を退治させようとした。

 そんな、一人の人間に成長したんだ。

 ……安灯あんどう 明歌黎あかりとして、『生命セイメイ』を宿し!!

 俺に、『声明セイメイ』を出していたんだよっ!!

『どうか、自分のご主人様を、双子の姉を、本体をっ!!』

『君を、救ってくれ』、ってなぁ!!」



 ひそかに召喚、忍び込ませていた、未希永みきとさんと結織ゆおりさんの分身

 そのまま二人が、『A』を破壊してもらう。



 コアを失ったユナイトメアが、ただの裳抜もぬけ、間抜けの殻となり。

 でかりなり、さっきまでの威勢が嘘みたいに、ぐったりと伏せる。



「言っとくがな!!

 俺は、甘んじて、甘えるぞ!?

 俺を助けるために差し出された手なら、初対面だろうと迷わずつかむっ!!

 今だって結局、誰かの手の内だとしても!!

 与えられたチャンスを、逃したりしない!!

 あんたに隙が生じるまで、話し込んだのも!!

 お膳立てされた武器、趣旨を理解、利用したのも!!

 気取けどられないよう、ここまで隠し通したのもっ!!

 他でもない、この俺だ!!

 俺自身の力、功績だっ!!

 そう、認めてくれる、断言してくれる人がる!!

 だから、恥も外聞もいっ!!  堂々と、この好機を物にする!!

 みんなの力をお借りして!!

 今日こそ、あんたを叩きのめすっ!!」


 

 次に、逆転の一手を、振り翳す。

 データ状の明歌黎あかりが得物、マイク・スタンドを構え。

 そこに、召喚したレイメイもプラスする。



「受けてもらうぞ……!!

 俺の、たった一度の高1の夏を独占した報い……!!

 1ヶ月以上も、俺もだましていた天罰……!!

 俺の、俺達の、最大最後の攻撃っ……!!

 俺の、一世一代の、告白っ!!

 ……俺の紡いだ言葉、物語っ!!」



 バーチャル世界にて巨大化する、安灯あんどう 明歌黎あかりとレイメイ。

 俺の体と、彼女たちの足の小指が同じサイズになる。



「……俺は……君が、好きだっ!!

 君と交わす、気心の知れた口喧嘩がっ!!

 君との、なんでもない日常会話がっ!!

 君とゲーム、勝負に明け暮れる生活がっ!!

 素っ気くせに、きちんとオチは付ける君がっ!!

 いつだって油断ならない、てんで素直にならない君がっ!!

 肯定してくれる存在が自分しかはいから、傲岸不遜に虚勢張ってる君がっ!!

 君と過ごす、今でこそ失われた、ありきたりの毎日がっ!!

 ……君の歌う、あのオルタナがっ!!

 全部とは、決して言えないけどっ!!

 君のほとんどが、俺は好きだっ!!

 だから、もう、誰にも阻害されたくないっ!!

 君を、誰にも渡したくないっ!!

 夢の世界でも、現実世界でもっ!!

 ずっと、俺の、俺だけのそばしいっ!!

 君にも、俺にも、世界にも時代にも、その他諸々にもっ!!

 ……邪魔立てされて、なるものかぁっ!!」



 完全に腰を抜かし、白目になる安灯あんどう 結瑪凛ゆめり

 俺と、巨人の明歌黎あかり、レイメイは、そんな彼女を見下ろし。

 目一杯、息を吸い込み。



 いよいよ、仕上げに。

 鉄槌を、下す。



「ーー安灯あんどぉ結瑪凛ゆめりぃっ!!

 ……ハァントォォォォォオォォォォォオォォォォォオォォォォォ!!」



 金棒のように肩に構えた、マイク・スタンド。

 それを、一気に振り下ろす、ギガント明歌黎あかりとレイメイ。



 それは、寸分たがわず、ユナイトメアを粉々にし。

 そこから伝わる超振動が、世界にすらひびを入れ。

 


 そして、VRエリアは崩壊。



 俺達は、元の『ハナコー』。

 舞台の上に、戻っていた。

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