8-3

 気付くのが、遅かった。



 左端に残された、最後の1枚。

 それがブラックホールのごとく、他の手札。

 ただ移動していただけの、ブラフ達を回収。

 そのまま、飲み込んだ。



 瞬間、巨大なドス黒い影が、『A』のカードを包み。

 仮想の図書室を内部から破壊し。

 具現化されたは産声、咆哮を上げる。



『ヌエ』。

『ドラゴン』。

『オヒュカス』。

『ウンディーネ』。

『ヤマタノオロチ』。

『ユーマ』。

『メガロドン』。

『イーヴィル』。

『リヴァイアサン』。

『イフリート』。



 性根と頭と趣味、組み合わせと食い合わせの悪い。

 如何いかにも中2っぽい、腕白わんぱくで欲張りセットなキマイラ。

 それを後ろに従え、安灯あんどう 結瑪凛ゆめりは、悲痛に笑む。



「災厄最悪夢現幻獣『ユナイトメア』。

 これが、あたしの切り札。

 あたしの本性だ」



 肩書の方が長い上に、名前までアレなのを意に介さないまま。

 安灯あんどう 結瑪凛ゆめりは、俺を睨む。



「ずっと考えてた。

 どうにか、あんたを絶望、失望させる方法を。

 あんたに二度も屈辱を味わわされた、あの日から、絶えず。

 それが今、この状況だ。

 あたしの本体を、オルタナさえ見せれば。

 流石さすがのあんたも、あきらめると踏んだ。

 なのに、どうだ。

 ドン引かせるもりが、むしろ益々、気を惹いてしまった。

 どんだけお気楽なんだよ、あんたは。

 おかげで、あたしの怒りのボルテージは青天井だ」



 拳を震わせ、感情を爆発させ。

 悪役みたいな台詞セリフを、彼女はぶつける。



「分かるか?

 あたしは、負けちゃあならないんだ。

 あたしに許される道は、常勝のみ。

 隙を見せたら、すべてが終わる。

 完璧じゃなきゃ、孤独を貫けない。

 鉄壁じゃなきゃ、傷を防げない。

 天に仰ぎ地に伏すのは、もう御免だ。

 黒星も、黒歴史も、真っ白に抹消する。

 だからあたしは、ここであんたを消す。

 金輪際こんりんざいあたしに歯向かわぬよう

 徹底的に、痛めつける。

 それが、このあたしを二度も負かした大罪だ。

 分かったら、とっとと退場しろ。

 ……田坂たざか 蛍音けいとぉっ!!」



 怨嗟の声を飛ばすお姉様。

 


 その姿を見て、改めて実感した。

 彼女の、人となりを。



「……分かってないのは、そっちだろ」



 しばらく無言だった俺が、反撃に出る。



「リンカーネイジまで見せといて。

 今更、その程度でビクつくわけないだろ。

 いつまでも悪ぶってんなよ。

 虚仮こけおどしにさえならないのが、分からないのかよ。

 大体、あんたにヒールは似合わない」

何故なぜ、そう言い切れる」

「あんたには、すでに話したはずだ。

 こういう場合、俺にとっての悪役はなぁ。

 ……俺を、『ダサカ』って呼ぶんだよっ!!」



 調子付く俺は、ポケットに秘匿していたカード。

 ここに入る直前に手に入れた、隠し玉をにぎる。

 


 最後のカードに、あれ以上の変化はい。

 出来できれば、もっと確実な頃合いを狙いたかったが。

 そんな悠長に構えられない。



 これ以上は、一刻を争う。

 残り時間は、たったの数分。

 その間にガードを緩められた、秘策を引きずり出せただけ、御の字だ。



 ここまで覚悟を示しても、彼女は一向に靡かない。

 未だに、俺の好意に気付いてくれない。

 というか、火力が増した。

 それほどまでに堅牢に、心のゲートを閉ざしている所為せいだ。



 この窮地を、どう打開するか?

 答えは、簡単。

 ようは、正攻法パワードで勝たなければい。

 別の糸口を、こじ開けるだけ。


 

 万一に備えて、用意していた。

 ここまで秘匿していた、奥の手を出すまで。



「……って言おうとしたんだけど。

 どうやら、誤算だったらしい。

 流石さすがに、参ったよ。

 俺の負けだ、お姉様」

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