第8夜「セイメイ」

8-1

 ついに始まる、安灯あんどう 結瑪凛ゆめりとの最終決戦。

 


 彼女の語った、その概要は、至ってシンプル。

 安灯あんどう 明歌黎あかりを介して、ここで俺達が繰り広げていた、あのゲーム。

 イニシャル合戦、『ヘッド・ハント』の応用だ。



 ただし。

 あの時とは、いくつか変更点がる。



 一つ。

 プレイヤーが使えるワードは、一種類だけじゃない。

 現に、すで安灯あんどう 結瑪葉ゆめはは、自身を構成する11文字をカード、裏返しにしてフィールドに設置している。

 


 二つ。

 パワードは、より高威力になる。

 ただし、元になった相手しか召喚出来できない。



 三つ。

 敵陣のワードの正体を、俺はまだ知らない。

 だから、無駄打ちは出来できない。

 すでに俺の手持ちは、残り11枚しかいのだから。



 正直、少しばかり失策だ。

 彼女の元に辿り着きさえすれば、ほぼクリアだと思った。

 ここまでは、レイメイのデータにも入っていない。

 こうなるのを見越して、えてバック・アップをしてなかったのか。



 誤算だった。

 天邪鬼あまのじゃくな彼女が、そんなヌルゲーで満ち足りるはずかった。

 そもそも、ここまで俺が来れたのだって、彼女の手筈。



 決して、未希永みきとさんや音飛炉ねいろさんをディスるつもりはいけど。

 さっき、自分でも言った通り。

 今までのは、あくまでも、単なる『ヤラセ』だ。

 ピンキリで、俺の力じゃない。



 なんて言ったら、また未希永みきとさんにたしなめられそうだけど。



「驚いたな。

 あんたは、てっきり、明歌黎あかりの元に行くものかと思ったよ」

「そのもりだったさ。

 君のナコードから作った、俺のカバターに昨夜、教えてもらうまではな」

「それ自体が、誤算だ。

 確かにあたしは、ナコードを渡した。

 でも、まさか解かれるとは。

 それも、ここまで早く」

く言うよ、白々しらじらしい。

 優遇と見せ掛けて、あそこまで煽り散らしといて。

 全部、差し金だったんだろううに」



 彼女の名前がローマ字で刻まれた、11枚のカード。

 それが並ばれたテーブルを睨みつつ、俺は提案する。



「答える見返りに。

 秘密を明かす毎に。

 君のカードを1枚、表にしてもらおうか」

「……いだろう。

 どうせ、11枚もるんだ。

 あんたに、あたしは倒せない。

 あの時と同じてつは、踏んでなるものか」

な?」



 瞬間、10枚のカードが反転。

 それまでキープしていた余裕を、たちまち崩し、椅子いすから飛び起きる彼女。

 思わず、したり顔を見せる。



「残念ながら。

 俺はすでに、いくつか謎を解き。

 そして、君の質問にも応えてる。

 俺は、レコードとアザターを知り。

 君が、俺のワコードを求めたけに触れ。

 君達の正体を、関係を理解し。

 君の、ピンチ姫としての、時代錯誤な内面にくすぐられ。

 君の、死生観のバグった悪趣味にドン引きし。

 君の、『Sleapスリープ』への合格経緯に得心し。

 君の、『金亀』とのコネの正体を悟り。

 君に会うべく、アジトを特定し。

 君に、ここに来た目的を語り。

 君に、こうも急速に真実を究明出来できた理由を明かした。

 解明が7つで、回答が3つ。

 よって、合計10枚、カードをめくらせてもらった」

「い、今のは、無効だっ!!

 ゲーム開始の宣言はしていないっ!!」

「俺かて、条件の開始時間は明示していない。

 よって、無効が無効だ。

 それはそうと」



 俺は、開示されたワードを見。

 ようとしたら、一斉に横にスライドした



 ……もしかして、倒した?

 こんな、拍子抜けするほどに?

 


 ……まぁ、確かに勝てるとは思うけども。

 俺、1ヶ月近く前に、この人と2戦して、14連勝してるし(しかも半分は、検索しのアドリブ)。

 明歌黎アザター越しとはいえ。



 それはそうと。

 残った一枚は、『A』。

 彼女のイニシャルで、一度は俺も屈辱を味わわされた。

 恨み、因縁深き、1文字。



 ひょとしなくても。

 彼女の、切り札。



「……別にいさ。

 あれこそが、あたしの本体。

 他のカードなんて、お飾りだ」

「だろうね」

「話が早い。

 改めて、ゲームをしよう。

 見ての通り、あたしの札は、残り一枚。

 文字通り、『一発勝負』になればいな」

「乗った」



 テーブルの前に移動し、向かい合い。



 晴れて、開戦。

 が、その前に。



「忘れていたよ。

 そういえば、もう一つ解き明かしていた。

 大事な秘密を」



 トケータイから、1冊の本をマテリアライズ。

 くも悪くも俺の環境を激変してくれた。

 俺の、人生のバイブル。



「君なんだろ?

 この小説を書いたのは」



 俺に、沢山たくさんの言葉をくれた。

 君と、何気いやり取りをする架け橋となった。

 同時に、俺がいじめられる要因にもなった。

 好きが高じて、後から自分で購入した一冊。



 そんな小説の作者は、驚くべきことに、この人。

 当時中学1年生だった、今も現役の女子高生なのだ。



「……何故なぜ気付きづいた」

「だって、不自然だろ?

 俺は少なくとも、クラスや、君の前では、これを読んだことかった。

 ろくでもないことにしかならないのを、身をもって知らされたから。

 なのに、君は、それを見破った。

 君に話した、俺の過去に絡む、断片的な情報だけで。

 事実、俺は明かしてなかったはずだ。

 ノートの、内容までは」



 本をトケータイにしまい、俺は続ける。



「そもそも、似ぎなんだよ。

 俺と、君も。

 そして、なにより、この物語の主人公。

 五十公野いずみの なぎと、君も。

 君だって、似たような感性で、似たような感想を持った。

 だから、ああもスムーズに、俺と、この小説について話せたんだ。

 友達のなかった君には、自身や、自分の願望をモデルにするしかかった」



 最後の伏線を回収し。

 オープンされる、最後の一枚。



 そこに刻まれしは、案のじょう

 最強最凶の名前。

 彼女の用意した、イニシャル。



安灯あんどう 結瑪凛ゆめり』。



「……っ!!」



 一瞬。

 本当に一瞬、思ってしまった。

 勝てるわけいだろ、と。



 そんなふうに、臆してしまった所為せいだ。

 俺の手元から、パワード以外。

 実に6枚ものカードが、一気に消えたのは。


 

「なっ……!?」



 先程の意趣返しみたいな急展開。

 流石さすがに、動揺を隠せない。



 あるいは、『エンカしただけで戦闘せずに倒す』的な現象だろうか?

 名前は知らないけど、レベルが上がり過ぎた時などに、まれにRPGで確認される。

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