7-3

 体育館に、やにわに木霊する、いやな声。

 視線を向ければ、案のじょう

 よこしまな本能に駆られた、強欲な大人の集団。

 どうやら、グルになったらしい。



 応戦しようとすると、未希永みきとさんに制された。



ったくよぉ!!

 また、こんな役回りかよぉっ!!」



 と同時に、七忍ななしのさんがさきに。

 なんの相談もしに切り込みに行く。



 本当ほんとうに、い人だ。

 具体的には、使い勝手が。



奴等やつらの狙いは、君一人だ。

 絶対ぜったいに、手出しはさせない」

「でもっ!!」

「心配い。

 残りのフォワードなら手配済みだ。

 もう確保しつつある」



 言いざまに、未希永みきとさんは友花里ゆかりさんを見た。



友花里ゆかり

 向こうとは、連絡取れたか?」

駄目ダメ

 場所は探れたけど、音信不通、一方通行。

 もう、すでにドンパチやってるっぽい」

「相変わらずだなぁ、あっちも!

 大体、プレイヤーは全員、講堂にはずだろ!?

 なん気付きづけば、ほうれんそう取れないほどに離れてるんだよ!?

 安灯あんどうくんたちみたいにテレポートしたんでもないのに!

 10年経とうが結婚しようが親になろうが、なにも変わりゃしねぇ!」

「君が言うかな?

 私の未希永みきと

結織ゆおり、おまいう」

「あなたもよ、依咲いさき

「君達全員だよ」



 ツッコミを炸裂させ、フワフワと漂いながら、友花里ゆかりさんが背後に回る。



「こうなったら、向こうで直接、落ち合うのが最短だね」

「……らしいな。

 頼めるか?」

勿論もちろん

 この子は、私が守ってみせるよ。

 体力までは若返ってない、未希永みきとに代わって」

「ま、まだギリ20代だからっ!!」

「そうだよっ!

 昨晩だって、元気有り余って、田坂たざかくんたちに当てられて夜戦しまくって、逆にグロッキー」

結織ゆおりぃぃぃぃぃっ!!」



 ……そういう生々しいの、自分達の子供の前で、披露しないでしい。

 そもそも、こんな大事な日の前に、そういうことしないでしい。

 来てくれたのは、ありがたいけども。



 あと、未結希みゆきくんと織永おりえさんはともかく。

 なん庵野田あんのださん、多矢汐たやしおさんまで、複雑そうなの?

 なにったの? 『ニアカノ同盟』。




「おわっ!?」

「いぎゃっ!!」



 などと思っていたら。

 突然、目の前で異変が起きた。



 敵がFFしたり、モンスターが暴走し始めた。



「うん。

 い感じ。

 流石さすがだね、依咲いさき

「ふっ。

 この程度の違法改造、おやつ前」



 意味りげに手を上げ、明らかに操作してたってぽい友花里ゆかりさん。

 その後ろで胸を張ってドヤ顔する多矢汐たやしおさん。

 


 ……あれ?

 もしかして俺、とんでもない人達と出会った感じ?

 


「させねぇっ!!」



 俺の目前まで迫っていた火の玉。

 それを、未結希みゆきくんが切り裂き、咄嗟に守ってくれた。



「ボサッとしてんな、お兄さんっ!」

「ご、ごめんっ!

 ありがと、未結希みゆきくんっ!」

「礼には及ばねぇ!!

 それより、行くぞ、織永おりえ灯路ひろっ!!」

「こらぁっ!

 なんで、我があとなんだぁっ!?

 隊長さんだぞぉ!?」

「あははぁ。

 まぁ、血縁にはまされないよねぇ」



 文句を言う灯路ひろさんと、おっとりと煽る織永おりえさんと共に、先陣を切る未結希みゆきくん。

 同じく結織ゆおりさん、庵野田あんのださん、多矢汐たやしおさんも並び立つ。



「久し振りね。

 こうして3人でバトるのも」

「今日は、ちゃんと味方、チーム戦。

 妙な真似マネしたら、ただじゃおかない」

「あははっ。

 大丈夫だよ、依咲いさき

 そういう趣旨じゃないし、もうトロピったりしないからぁ。

 みんなが、私の未希永みきとに、妙な真似マネさえしなければぁ」



 それぞれに武器を構え、一斉に戦闘開始する3人。



 人が空いた隙を狙い、俺に忍び寄る刃。

 刹那せつな、俺の体を引っ張り後ろに下げ。

 先頭に出つつ、未希永みきとさんが剣で防いでくれる。



「迷うな、田坂たざかくんっ……!

 こうしてる間にも、他のプレイヤーが、ワードをっ!!

 君の想い人へのパスワードを、揃えてるっ!!

 狼狽うろたえてる場合じゃあ、ないっ!!」



 押し返し、なおも構える未希永みきとさん。

 敵を警戒しつつ、背後にる俺に訴える。



「……好きなんだろ!?

 他の誰にも、取られたくないんだろっ!?

 だったら、逃げるな!!

 なにより、逃がすなっ!!」

「うっ!!」



 何故なぜか突如、胸と頭を抑える結織ゆおりさん。

 と同時に庵野田あんのださん、多矢汐たやしおさん、友花里ゆかりさんが、ニヤッとする。



「そうでし!

 具体的には、コクられそうなのを察して、自分以外の女と付き合わせるべく突然、事後報告もく、海外へ高飛びして、喧嘩売った味方から遠距離爆撃ミサイルをカブーンされ、後にサークラさせかけたりっ!」

「はうっ!!」

「あまつさえ、大事な仲間の卒業式に合わせて帰って来たら、始発で雲隠れブッチの果てに、人生から卒業しようとして翌日、ちゃっかり大人の階段登ったり!」

「あうっ!!」

「そもそも、計算外とはいえ、肝心な時に分身押し付けて、彼氏候補を死なせ掛けて、みんなが懸命に戦ってる時に、自分だけ安全な場所に避難してたり!」

「はうあぁぁぁっ!!」



 ついに、ヘナヘナと崩れる結織ゆおりさん。

 そのまま、息絶え絶えになりつつ手を組み、なにやら禊を始める。



「ごめんなさい……。

 私が、愚かでした……。

 ちゃんと、猛省、謝罪、改心しましたから……。

 きちんと、仲直り済ませましたからぁ……。

 今は多分、真っ当に、生を全うしてますからぁ……。

 どうか、許してくださぁい……」

「……本当ほんとうに、真っ当な人間なら。

 大事な友達がピンチの日に、高校生に影響されて、燃え上がったりしないんですよ」

「ほわぁぁぁぁぁっ!?」



 ……あ。

 しまった、つい。



「よく言ったです、後輩」

「ようこそ、『ニアカノ同盟』へ」

「歓迎するよ、田坂たざかくん」



 何故なぜか、三人の美女に撫でられた。



 なにその、M◯REDEBAN村みたいなの。

 てか、選考基準、ガバガバぎない?

 


 そもそも俺、『レイメイ同盟』の加入者なんだが。

 掛け持ちとかって、出来できるのか?



「……あ、あはは……。

 ……高校生にも、負けちゃった……」

「お、お母さん。

 元気出して。ね?」

「俺達が付いてるだろ?

 母さん」



 ……この人、未希永みきとさんの奥さん……だっけ?

 未希永みきとさんはなんで、どうやって、この人を射止めたんだろうか……。



 あー、ほら。

 気付きづけば、お子さんのみならず敵にさえ、背中をポンッと叩かれてる。

 不憫……。



「……すまん。

 今のは、忘れてくれ。

 感情的になるあまり、つい口が滑った。

 気を取り直して」



 改めて咳払いし。

 未希永みきとさんは、テンションを戻す。



「男だったら、立てっ!!

 立ち向かえ、立ち上がれっ!!

 戦って、勝って、すべてをつかんでみせろっ!!

 己の弱さすら、懐柔してみせろっ!!

 それが『男』、『恋』ってもんだろ、田坂たざかくん!!

 いや……『蛍音けいと』ぉっ!!」



 檄を飛ばし、呼び捨てにしてくれる未希永みきとさん。

 


 彼だけじゃない。

 見ず知らずの、なんの義務も義理も利益もい俺のために。

 こうして一堂に会してくれた、優しい人達。



 ここで、俺が応えなきゃ。

 そんなの、嘘だ。



未希永みきとくんっ!!

 私が、彼をナビする!!

 さっきみたいに、簡単なハッキング!

 他にも、ステルスくらいなら、掛けられるっ!!」

「頼むっ!!

 俺達も、ぐに合流するっ!!

 未結希みゆき織永おりえ灯路ひろっ!!」

「分かってんよ、父さんっ!!」

蛍音けいとさんを安全、万全、最速で、お届けするっ!!

 あの人たちの元まで、直通で!!」

「行くぞ、皆の衆っ!!

 隊長様に、続けぇっ!!」

「おまっ……!!

 灯路ひろ手前てめえっ!!

 先走んな、アホッ!!」



 単独行動し、一足早く体育館を出る灯路ひろさん。

 急いで追い掛ける未結希みゆきくん、織永おりえさん。

 俺と友花里ゆかりさんも、それに続く。



 もりだったが。

 4人纏めて、浮遊した。



 なにこれ、超能力!?



「こっちのが楽だから!

 飛ばすよ、みんな

 シートベルトいから、しばらくジッとしててね!」



 俺達をコントロールしているっぽい友花里ゆかりさん。

 簡単な注意だけ済ませ、先に前に出る。

 刹那せつな、謎の引力にグイッと引っ張られ始める。



 この人、出る作品、違わない!?



「エモるのよ、蛍音けいとくんっ!!」

「あんな捻くれ者、洗濯物みたいに畳んでやるです、蛍音けいとっ!!」

「あの子を本人に、自由に出来できるのは、君だけっ!!

 お願い、蛍音けいとくんっ!!」

「行って来い、蛍音けいとちゃんよぉっ!!

 いっちょ、ど派手に決めて来いっ!!」



 すれ違いざまに、声援を送ってくれる人達。

 個人的には、結織ゆおりさんが立ち直ってくれててホッとした。



「……はいっ!!」



 改めてかならずお礼を述べると固く誓い。

 俺は、未結希みゆきくんたち友花里ゆかりさんと、その場を去った。

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