7-2

「すまん、遅れた!」

「遅いよ、パパ。

 掻い摘んでだけど、事情説明済ませちゃったよ」

「マジ!?

 重ね重ね、すまん!

 助かったよ、織永おりえ!」

「パ……『パパ』ァッ!?」



 こ、この、見た目そんなに俺と、織永おりえさんとも変わらない人がぁっ!?



 ……って、あれか。

 こっちも、デコードを使ってるのか。

 一周りくらい、若返ってるのか。



 得心し、冷静になり。

 そして、思い出した。



 このパパさん、彼女の記憶をレイからもらった時に見掛けた人。

 精神科に通う彼女の、先生。



 そして横にるのは、先生の奥さんで、『Sleapスリープ』で働く才女。

 レコードを開発し、彼女に渡した人。



 彼女の記憶に存在しなかったから。

 他の人達は、分からないけど。

 ととのまり、この流れは。



「……援軍?」

「そうとも。

 俺は、新甲斐あらがい

「は?

 今……なんてった?」

「今日だけは!!

 今日だけは、ご勘弁して差し上げてよぉ!!

 そういう手筈だったろ、結織ゆおりぃっ!!」

「それってアナグラムだけだよね必要だったから仕方なくだよね人前で名乗るのまでは未許可だったよねぇ」

「分かった、もうい、俺が、俺だけが悪かったっ!!」

「別に、そこまで言ってない。

 しかも、私が女王様みたいじゃん」

「『みたい』じゃなくてモロに、いてぇ!!」



 足を踏まれ、崩れる男性。

 そのまま男性は、平静を装って、俺と向き合った。



「俺は、母神家もがみや 未希永みきと

 そこにる、未結希みゆき織永おりえの父。

 んで、安灯あんどうさんの主治、ぐほぉっ!?」

「そこまで言わなくてい。

 患者のプライバシー守りなよ、私の未希永みきと

「蹴ることいだろ、結織ゆおり

 あとお前だって今、『患者』ったじゃねぇかよっ!!」

「君が、『主治医』って滑らせたからでしょ、私の未希永みきと

「俺、『しゅじ』しか言ってませんけどぉ!

 はい、早合点、蹴り損!

 あー俺、可哀想っ!!」

「違う意味でも可哀想になってっけどな。

 つーか、新甲斐あらがい

 お前、未だに母神家もがみやに敷かれてる、叱られてるのな」

「あははぁ。

 だなぁ、七忍ななしのくん。

 今の私の未希永みきとは、『母神家もがみや』だよぉ。

 君こそ、いつになったら、直してくれるのかなぁ」

「誠に申し訳サーセンしたぁっ!!」

「おめーだって同類じゃねぇか、七忍ななしの!!

 うち結織ゆおりに勝てる猛者もさなんか、この世に存在し得るかよ、ブァーカ!!」

「2人共。

 それくらいにして、空気読んで」

「「イエス、マイ・マム!!」」

七忍ななしのくんは違う、らない」



 ……デジャブ?

 こんなやり取り、数分前も見たよーな……。



 ていうか、この人達、本物?

 なんか、すごく幼稚……。



「……なんなんですか?

 本当ほんとうに」

「改めまして。

 私は、母神家もがみや 結織ゆおり

 織永おりえ未結希みゆきの母。

 そして、私の未希永みきとの妻で、飼い主で、雇い主です」

「同じく、友花里ゆかりだよ。

 結織ゆおり従姉妹いとこで、娘で、分身で、ナビAIで」

あたしたちは、未希永みきとの先輩、同士と」

未希永みきと最推さいおし偽妹ぎまいで」

「俺は、あら」

「は?」

「みっ、未希永みきとっ!

 の、パシリで親友です!!」

「6人合わせて、『ニアカノ同盟』だ」

「??????????」



 これ、は……。

 俺の読解力の問題、か……?



 疑問点が、最低でも10個はるんだが……。



「この場に似つかわしくない自己紹介はカットだ」

さっきまで夫婦漫才やってた人が、なん格好かっこ付けてる。

 MEGA MAXのストロンガ〇」

「相変わらず、締まらない子ねぇ」

っとけ、依咲いさき恵夢めぐむっ!!

 それより、ご挨拶で悪いが、田坂たざかくん。

 早速、もらってくれ」



 未希永みきとさんの言葉を受け、一斉にトケータイを俺に向ける皆さん。

 


 未希永みきとさんの、『A』。

 七忍ななしのさんの、『N』。

 庵野田あんのださんの、『d』。

 多矢汐たやしおさんの、『o』。

 友花里ゆかりさんの、『u』。

 結織ゆおりさんの、『Y』。

 


 織永おりえさん達の分も合わせ、これで9つ。

 ほとんなにもしないまま、相当数に有り付けた。



 しかも、すでに名字は完成した。

 あとは、彼女の名前だけ。



 けど。

 


「……すみません。

 俺……皆さんに、なに出来できてないし、大して知りもしないし、返せるかどうかも分からないのに。

 こんなことに、巻き込んじゃって」

「気にすんな、田坂たざかくん。

 すべて、君の功績だ。

 俺の患者のために、君が今までやって来たことへの、正当な対価だ」

「そうだぜ、田坂たざか

 そもそも俺かて、安灯あんどうちゃんとやらとは、まだ会ってないんだぜ?

 母神家もがみやだけじゃなく、庵野田あんのだ先輩や多矢汐たやしおちゃん、友花里ゆかりちゃんだって」

あたしは以前、軽く話したわよ?

 読書家つながりで」

「同じく。

 頼まれたので、ゲーム作ったでやんす」

「私もぉ。

 分身との生活がどんな感じか、前に聞かれたよぉ」

「またしても、俺だけけ者かよぉぉぉぉぉ!!

 お前あれだろ俺のこと嫌いなんだろ左様なんだるぉっ!?」

「だって七忍ななしのくん、男じゃん」

「女同士のつながりには、流石さすがに、ねぇ……」

「うがぁぁぁぁぁっ!!」



 血涙を流さんばかりに、絶叫する七忍ななしのさん。

 この人の立ち位置が、すでつかめた。



かく



 咳払いし、真顔で仕切り直す未希永みきとさん。



田坂たざかくん。

 君にだって今、ここで出来できことる。

 いや……むしろ、君にしか頼めない。

 どうか、俺の患者を。

 彼女を、助け出してくれ。

 あの子の力に、支え、希望、光に。

 ……恋人に、なってくれ。

 そうすれば、俺達の今日は、報われる」



 未希永みきとさんの言葉に、全員がうなずいてくれる。



 なんて……。

 なんて、心地い人達なんだ。




たぞ!!

 複数のワード持ちっ!!」

「あの、ボサッとしたガキを狙えっ!!

 他のは、どーでもいっ!!」

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