6-4

 気付けば講堂は、人混みでごった返していた。

 SNSなどで、尾鰭おひれ付きで喧伝されたらしい。

 人の気も知らないで呑気、豪勢なものだ。



 などと呆れていると、不意にステージが照らされ、本日の主催者。

 ドレス姿の、安灯あんどう 明歌黎あかりが現れた。



「皆さん。

 今日は私のためにお越し下さり、誠にありがとうございます。

 ただなぁ。

 ちょーっと少ないんじゃないかなぁ?

 私的には、学校を埋め尽くさんばかりに募ったもりなんだけどなぁ」



 分かりやすく落胆する安灯あんどう 明歌黎あかり

 彼女のジョークを受け、教師陣が一斉に、手を横に振った。

 


「怒られちゃった。

 さて。前振りは、これくらいにして。

 早速、本日の概要をご説明させて頂きます。

 ずばり……これから皆さんには、ゲームをしてもらいますっ!!

 それも、ただのゲームじゃなく〜……」



 溜めつつ、フィンガー・スナップを決める安灯あんどう 明歌黎あかり



 刹那せつな

 腰の辺りが、謎の光の円で囲われ。

 かと思えば、上下に揺れ始め。

 横に、謎の数字の羅列が並べられた。


 

 いや……俺だけじゃない。

 この会場の参加者全員に、確認されてる。



 程なくして、光は消え。

 俺の体は、いつも通りとなった。



「な、なんだぁ!?」

「体が……若返ってるっ!?」

「わー!

 なんか、大きくなったー!」



 前言撤回。

 やはり、なにか異変は起きたらしい。



「すみません。

 今、皆さんの意識を、データ変換させてもらいました。

 このゲームのために、『Sleapスリープ』『金亀』のご協力の下、開発された仮想現実『マリアルジュ』。

 ここに留まるための、新たなコード・シリーズ。

 名付けて、『デコード』の力によって」

「『Sleapスリープ』!?」

「『金亀』ぇっ!?」

「データ変換!?」

「仮想現実!?」 



 ……レイメイに予習してて、かった。

 おかげで、そんなに動揺せずに済んだ。

 このゲームが、結構な入れ込みようで作られているのを、事前に知れた。



 それはそうと。

 相変わらず、『Sleapスリープ』のネーミング・センスよ。



「あ。

 ご安心ください。

 肉体は無傷のまま、現実世界の講堂に置いてあります。

 そして、ゲーム終了、あるいは一定時間を過ぎれば、元の世界にお返しします。

 ただし、不届きな違反者には、なんらかのペナルティを与えます。

 たとえば正当、喫緊の理由もく、無許可でフィールド、当校から退場しようとしたり。

 あるいは、公序良俗、スポーツマンシップに則らなかったり。

 そういった、駄目ダメ人間さんには、罰をプレゼントします。

 具体的には、気絶の上に、現実世界に強制送還。

 現実世界で待機中のスタッフにより、あそこの空きスペース、『非リアの愚者塔』に積まれます。

 マリアージュならぬヒリアージュにならないよう

 ルールとマナーとモラルと節度とプライドとプライバシーを遵守し、楽しく遊びましょう」



 毒のるウイットに、ドッと湧く場内。

 雲行きが怪しくなったからか、いやな汗を流しつつ、逃げたら気絶するので、留まる一部の人間。

 


 思った通り。

 やはり、からぬ手合いも来ているらしい。



「さて。

 そろそろ、概要を説明します。

 皆さんには今からして頂くのは、私の考案したオリジナル・アトラクション、 『ワードロ』。

 簡単に言えば、『名前争奪戦』です。

 皆さんには、ご自身を構築するアルファベットから1文字、選んで頂きます。

 以降、これを『フォワード』と称します。

 このフォワードを、皆さんには奪い合ってもらいます。

 交渉、交換、かけっこ、じゃんけん、クイズ、早口言葉、微課金。

 あるいは、特に勝負もく、無償提供でも可です。

 方法は、特に問いません。

 かく、一定のワードをコレクトすればいのです。

 その、『一定のワード』とは、『この私』。

 つまり、『安灯あんどう 明歌黎あかり』の、アルファベットです。

 これが、私へのパスワードとなります。

 トケータイに表示されたゲーム画面、マップを参考に、しいフォワードを探索。

 そして、なんらかの手段で、入手。

 ルールは、それだけです。

 ただし、いくつか留意点がります」



 順番に沿って指を降りつつ、司会を進める。



「一つ。

 一定時間まで、ほかのフォワードを持てなかったら失格、ゲーム・オーバーです。

 リミットは、それぞれのトケータイに刻まれてるので、ご参照ください。

 なお、ルール違反さえしなければ、ゲーム終了まで、ここでおくつろぎ頂けます。

 各種サブスクや食事などのサービスも取り揃えておりますので、是非ご活用ください。

 もっとも、データの体ですが。

 なんなら、チートデイにして頂いても結構です。

 だって、どれだけ食べても、太らないんですから」



「二つ。

 イニシャルのフォワードを狙うと後々、ことるかもしれません。

 以降、これを『パワード』と呼称します。

 ただし、パワード狙いで行くと、かえって標的にされやすかったり、時間切れになるかもしれないので、ご注意を」



「三つ。

 ご自身で定めた、あるいは手に入れたフォワードがイニシャルのスキルを発動出来できます。

 皆さんの語彙力、想像力により、VRでド派手に、忠実に再現出来できます。

 ただし、良識の範囲内でお願いします」



「四つ。

 正当防衛、力比べ以外、過度な暴力は一切、厳禁です。

 平和的、文化的に、戦ってください」



 短め、けれど強めに、4番目をアナウンスする安灯あんどう 明歌黎あかり

 再び、どこからか、気不味きまずそうな声が届いた。



「そして、最後に。

 私のアルファベット、パスワードをすべて揃え。

 見事、私に辿り着いた方には、褒美を取らさせて頂きます。

 すでに、ご存知、それ目当てで来た参加者も散見されますが……まぁ、いいでしょう。

 ずばり……私のコードですっ!!」



 水を打ったようになる会場。

 次の瞬間、大いにどよめいた。



 男って、馬鹿バカだなぁ。

 同性として、恥ずかしい。



「サクラばりに分かりやすいリアクション、ありがとうございます。

 正直、ちょっと引きましたー。

 ま、そんな本音はさておき、女性の皆さん!

 こんな不平等が、許されていのでしょうか!?

 ここまで長々と説明し、折角せっかくの日曜日に態々わざわざ、来たのに、イケメンに有り付けないなんて!!

 男女平等が謳われる、この現代に!!

 こんな不自由が、男尊女卑が、許されるでしょうか!?

 許されないのでもう一人、生贄をご用意しました!!

 ご紹介しましょう、本日の二人目の主賓!!

 私の、イケジョな姉!!

 安灯あんどう 結瑪凛ゆめりですっ!!」



 呼ばれ、舞台袖から現れるお姉様。

 と思いきや、いきなり妹にチョップした。

 思いっ切り顰めっ面な辺り、長らく待たされていたらしい。

 あるいは、巻き込まれた腹いせか。



「とまぁ、こんな感じの暴力的な姉ですが!!

 見ての通り、中性的なルックスがウリです!!

 このゲームで、結瑪凛ゆめりのアルファベットを手に入れた方には!

 彼女の、コードをプレゼント致します!!

 私としては、是非とも女性陣に勝ち取り、TSしまくって頂きたいっ!!」

「しゃしゃるな、ドアホ」

「聞きましたか!?

 低音イケボなドS属性ですよ!?

 喉から手が出るほどに、しいですよね!?」

「それくらいにしろ」



 頬を抓られる妹。

 そんな姉妹喧嘩けんかに、場内から笑い声が聞こえた。



「さて。

 ご清聴、ありがとうございました。

 それでは、そろそろ始めましょうか。

 スタート開始の合図と共に、私と結瑪凛ゆめりは、隠れます。

 パスワードをコンプした方へのコードは、無制限です。

 是非とも、奮って、お好みの方を、どうぞ!!」

あたしとしては、御免こうむりたいけどね。

 妹の頼みだから、仕方しかたく、不承不承で、引き受けたにぎない」

「ツンデレですよ、ツンデレ!!

 オトしたくないですか、あ痛ぁっ!!」



 足を踏む、お姉様。

 そのまま崩れる妹を見下ろしつつ、手を叩く。



「はい、ゲーム開始。

 んじゃ」

「ちょっ……結瑪凛ゆめりぃ!?」



 物すごく雑に締め、ずらかるお姉様。

 一礼し、後を追って行方を眩ませる妹。



 こうして、『ワードロ』は開始され。

 講堂はたちまち、戦場と化した。



「っ……!!」



 真面まともに動けず、後退る。



 その時。

 不意に、後ろから手をつかまれた。



「っ!?」



 驚き、振り向く。



 俺の手を握っていたのは、知らない女の子。



 彼女は、口元に手を当て、「静粛に」と促し。

 俺を、舞台袖まで誘導した。

 そこでは、すでに一組の男女がスタンバっていた。



「??」



 わけも分からず、困惑する俺。

 一方の少女は、腰に手を当てた。



「我は、灯路ひろ!!

 君を助けに来た、田坂たざか隊員っ!!」



「……。

 ……はい?」



 斯くして、安灯あんどう姉妹のコード争奪戦。

 俺の成り上がりが、始まった。

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