6-3

「行くのか」



 翌朝。

 家を出ようとした俺を、ジジが止めた。

 俺は、靴を履き、紐を確認し、踵を直し、振り向く。



「うん。

 昨日、話してた、イベント。

 そんなに遅くならないようにはするから」

「一人で平気か?」

「もう、そんなに子供じゃないよ。

 むしろ、悪いけど、家にもらった方が助かる。

 ともすれば、大恥晒すかもだから」

「そうか」



 納得してくれたらしく、ジジは引いてくれた。

 ただ、何故なぜか床を叩く。

 ひょっとして、「ここに座れ」ってこと



 俺は、大人おとなしく従う。

 気付きづけば、紅茶とお菓子を持って、ババまで同席していた。



蛍音けいと

 お前の両親。

 つまり、俺の息子と、お前の母は、従姉弟いとこに当たる」

「え?

 そうなの?」



 ていうか、なんで今、その話?



「二人は、幼少の頃から惹かれ合っていてな。

 いずれは結婚するもんだと、親類一同、疑わなかった。

 一方で、二人は憂いてもいたんだ。

 自分達がぞんざいにしいたげられる一因。

 つまり名字を、そのまま子供に継がせてしまうことを」

「……そう、なんだ」



 同じだったんだ。

 父さんと、母さんも。

 俺と同じで、縛られてたんだ。



「だからこそ。

 自分達の子供には、それを打ち消すための。

 それでいて、きちんと読めはする、意味もる、無理矢理ではない、さほどキラキラしていない名前を付けようと決めていた。

 そうやって長年、暖められたすえに生まれたのが、蛍音けいと

 お前という存在だ」

「……俺、が?」

「そうとも。

『たった2週間という短い時を全力で全うするように輝き、自分の、心と鼓動を轟かせられる』。

 そんな、『ダサカッケー』、い男になれるように。

 ……とな」

「……あー……」



 田坂たざか 蛍音けいと

 略して、『ダサカッケー』と。



 ……なんて安直、幼稚なルーツ。

 でも、だからこそ、分かる。

 二人が俺に託した、願いが。



 今となっては、『遺命ユイメイ』みたいになってしまったけど。

 けど……ちゃんと、受け取った。



「素敵なエピソードじゃない」

本当ホント本当ホント

 私、感動しちゃったっ!!」



 不意に、ネックレスから声が出た。

 思わず、3人揃って、視線を奪われる。



「ちょ、ちょっと、二人共……」

「これは……」

「……どういう……」



 思わぬ現状に、不可解そうな顔をするジジ、ババ。

 どうやらナコードには、馴染みがいらしい。



 まぁ、無理もいか。

 そもそも、『Sleapスリープ』さえ使ってなさそうだし。



「か、帰って来たら、説明するよ。

 それより、ジジ。

 教えてくれて、ありがと。

 ……なれるかどうか、分からないけど。

 えず、足掻いて、暴れて来るよ」

「おう。

 行って来い、蛍音けいと

「ご馳走作って待ってるわね、蛍音けいとちゃん。

 その子達の分も」

いのぉ!?

 食べる、食べるぅ!!

 やったー!!」

「デジタライズすれば、ナコード上でも食べられるわよね。

 ご相伴しょうばんに預かります」

「二人共。

 勝手に決めないの。

 まだ、ちゃんとした挨拶だって未済なのに」



 すっかりその気な二人に、苦笑いしつつ注意して。

 俺はジジ、ババと向き合う。 



「……行って来ます」

「倒して来ます」

手折たおって来ますっ!!」



 それぞれに、決意表明をして。

 俺達は、家を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る