0.5-3

「もう一戦……もう一戦だ」



 見事に泡と敗北を食わされた俺は、みっともなく再戦を要求する。



「言っただろ……。

 さっきのは、あくまでもトライアル……本番前の、ほんの前哨戦だ。

 次こそは、完膚無きまでに、君を打ちのめす……。

 その、伸び切った鼻っ柱を、へし折ってくれる……」



「お?

 い顔になって来たじゃん、蛍音けいと

 年相応の男の子、生きてる顔だ。

 それに免じて、その挑戦、乗ってあげるよ」



 高を括りつつ、受け入れる安灯あんどう 明歌黎あかり

 ちなみに、先程から顔を仰いでいるのは、さっきまで俺が使っていた三枚のワード。

 つまり、露骨に挑発している。



「単なる小手調べ、探り合いは充分だ。

 こちとら、しばらく本の虫やってるんだ。

 本の虫の沽券、語彙力に賭けて、今度こそ君を、徹底的に完封する」

「年上の面子めんつに賭けて、相手をしてあげるわ、坊や」

「あと、次は演技はしで。

 言葉巧みに、正々堂々と勝負すること

「ガーンッ!!

 わ、私の専売特許がぁ!!」



 涙目になる姿を見て、しめしめと思う俺は、ゆがんでるのだろうか。

 


 その真偽はさておき。

 俺が『D』、彼女が『B』を選択。

 七分間のシンキング・タイムが終わり、七番勝負の幕が切って落とされる。



「そっちが全部、先行でいよ」


 

 の前に軽くジャブを当てると、安灯あんどう 明歌黎あかりは少しポカンとしてから、わずかに怒りを宿した笑みを見せる。



「レディー・ファースト?

 それともハンデ、余裕の現れかな?」

「後者。

 お先どうぞ」



 早くしろよ、と手で催促すると、頰を引き攣らせながら、彼女は最初の一枚をフィールドに置く。



 ……『Bust』て。

 さては、さっきのラストで味を占めたな。

 そりゃ、こっちも思春期だけどさぁ。

 もうちょっと、慎みを……。



「やっぱり、男の子って、好きだよね!

 だから、『Bust』!」

「……否定はしない。

 あと、ゆさゆさしないで」

蛍音けいとのスケベ♪」

「怒るよ?」



 自身の胸を触って揺らしてアピって来る先輩に、言葉の代わりにカードをぶつける。



「『Diamond』。

 これにより、その胸部は一時的に、ご自慢の柔らかさを失う。

 よって、魅力は暴落。

 そしてこっちは、ダイヤのように硬い心、理性を手に入れる」



「くっ!

 まさか最初から、そんなカードを切ってくるとは……!

 おのれ、小癪な……!」



 ……なんかルール変わってる気がする。

 相手の出したワードに、相性の悪いワードをぶつけて相殺したら勝ち、みたいになってるよーな……。

 


 ……っか、別に。

 向こうも楽しそうだし。

 公式戦とかでもないし。



「『Blake』!

 これにより、服が破壊!

 あられもない姿が、お盛んな狼達に晒されてしまった!

 さぁ、どうする!?」

「『Day blake』。

 日の出によって、狼達は帰還を余儀なくされる。

 さらに、そっちの言葉をベースに文字数が伸びた結果、レベル・アップ、上位互換ぽくて、シンプルに強そうだよね?」

「……もしかして、すべて織り込み済み?」

「まさか。

 狼云々は、流石さすがに頓智、こじつけだよ」

「『Blake』は、予知してたんだ……」

「これで僕の二連勝。

 次は?」



 焦りを覚え初めて来た彼女は、負けじと次のワードを場に出す。



「『Bound』!

 豊満だと、揺れて素敵だよね!」

「『Dress』。

 やっぱり、女の人って、好きだよね。

 ついでに言うと、そっちの服はさっき、ブレイクしたから、余計にしいはず

 あなたは謂わば、ただの上級者、変質者、痴女というわけだ」

「ひ、ひどいっ!

 男子って、いつもそうだよね!

 私たちのことなんだと思ってるの!?」

「そっちが設定したんだろ……」



 冗談飛ばせる余裕はるのか。

 思ったより豪胆だな。



 ……もっと懲らしめるか。



「『burst』!

 特に深い意味はいけど、なんか似てるよね!

 色々、想像しちゃうよね!」



 ……芸がぎやしないか?

 さては、全部そういうネタか。



 まぁ、そんなことだろうと思ったけど。



「『Driver』。

 バーストしてしまったタイヤより、運転手の方が、肉体的にも精神的にもキツいよね。

 はい、論破」

「……待って。

 私今、四連敗喫してるんだけど。

 い、一旦、休憩しない? ね?

 い子だから」

「そうだね。

 ぼくは悪い子だから、早く出して。

 ゲームしたいと言ったのは、そっちだろ」

「鬼っ、悪魔っ、田坂たざか 蛍音けいとっ!!

 リベンジしたいって言ったのは、蛍音けいとくせにぃ!」

なんで、そこにぼくのフルネームを並べた?

 本気で怒るぞ」

「今以上に!?」



 小芝居はともかく。

 俺が折り返し地点に差し掛かる中、安灯あんどう 明歌黎あかりが召還したのは。



「『Body』!

 女性の魅惑的な体だよっ!

 さぁ、蛍音けいと大人おとなしく、降伏しろっ!

 私に、勝利と心臓と美酒、ついでにパフェを捧げろぉ!」

「『Dinosaur』。

 美女は対象外の恐竜が、魅力も分からないまま食べた。

 よって、僕の勝ち」

「わ、私がぁ!

 イメージの私がぁ!

 蛍音けいとのお金で食べるパフェがぁ!」

「あんたか、全部」



 揺らしていた胸を硬質化され、狼に帰られ服ビリで放置され、胸部を露出してドレスに辿り着き、運転中にタイヤがバーストし大ダメージを食らい、色仕掛けを試みるも恐竜に食べられる。

 ……散々さんざんだな、この人。

 あと、どっちかってーとクリティカルなのは、『イメージ上の彼女』ではなく、『彼女のイメージ』である。

 打ち解けやすくはなったけどね。



 ところで、いつからストーリーが付けられて、おまけに地続きになってるんだろうか。

 あと、どんだけパフェ食べたかったんだ。

 


「『Beauty』!

 かろうじて恐竜から逃げおおせた私は、その美しさでヒッチハイクを試みる!」

「『Darkness』。

 夜のとばりに包まれ、誰にも気付きづかれない。

 可哀想に」

「わ、私ぃぃぃっ!?

 頑張って、私!

 こんなロジハラ捻くれボッチに、屈しちゃ、くっころしちゃ駄目ダメよ!」

「いや、ゲームしてるだけだよね、僕てんで悪くないよね、ボッチまった関係無いよね、くっころさせんけど?」



 いてこましたろか、外付け女。

 


「どうでもい余談ですけど、こっちリーチね」

「どうでもくないし、余談でもないよね!?」

「いいから、はよ出せよ」

「君、なん途端とたん可愛かわいくなくなって来たね!?」

「安心してください。

 先輩も、可愛かわいいだけじゃない愉快な人になってますから」

「こんなろー!!」



 一周回って可愛かわいいな、この人。

 



 仕切り直して。

 ついあと安灯あんどう 明歌黎あかり

 まだ墓地送りにされてない、最後の一枚は。



「『Beast』!!

 これは、いくなんでも勝てるでしょ!!

 七連敗、回避!!」



 ……やっと、それらしいのが来たか。

 てか、もう勝つことあきらめたのか。

 先人から教わらなかったのかね?

 あきらめたら、そこで試合終了だと。



「『Dragon』。

 獣達は皆、幻獣王の業火に焼かれて消えました。

 おし、まい。

 ハント」



 目をグルグルに回し、机に倒れる安灯あんどう 明歌黎あかり



 だから、『する』って言ったのに。

 ちゃんと人の話、聞かないから。



「もう一戦する?

 ただし、アドリブ

「『Beefstroganoff』!!」

「いや早いな色々、『Dimension gate』。

 突如現れた空間の穴に、ビーフストロガノフは吸収されました。

 折角せっかく、即興の割に長い、強そうなワード見付けたのに、お生憎あいにくさま。

 で、次は?」



 こうして始まる、泣きの一回。

 


 さっきはともかく、これならワンチャン。




「『Brake』!

 あらゆる物をめる!」

「『Destruction』。

 ブレーキを破壊。

 アカリに、瀕死のダメージ」



「『Buddy』!

 やっぱ、相棒物っていよね!」

「『Die』。

 先輩のバディは死にました」

「私の蛍音けいとがぁ!」

ぼくかよ。

 まぁ、別に」

いのっ!?

 やっぱり、私が生贄になる!

 こんな健気な子、先になんて行かせられないっ!」

「計画通り。

 身代わり、どーも」



「『Bed』!!

 最高級のフッカフカだよ!

 何人なんぴとも抗えないよ!!」

「『Dream』。

 提供してくれた夢が過ぎて、没頭しぎて最早、ベッドを忘れてしまった」



「『Burger』!

 食べ盛りな男子高生は、ジャンキーなの好きでしょ!?

 蛍音けいとは今、ペコペコだよ!

 出来たてだよ!

 チーズもテリヤキもビッグもデミグラスも、なんでもるよ!

 ミニスカ制服着た私が提供するよ!

 特別に、あ〜んしてもいよ!

 たーんと召し上がれ!」

「『Drink』。

 たらふく食べ過ぎた所為せいで喉がカラッカラだったので、命拾いした。

 なお、コーラもソーダもオレンジもレモンもコーヒーも紅茶も、なんでもござれ。

 執事服着た、僕じゃないイケメンが提供するよ」

蛍音けいとい!

 ネタ目的で!」

「イケメンとぼくを同時にディスんな」



「『Bat』!!

 蛍音けいとなんて、蝙蝠こうもりに吸血されちゃえ!」

「『Devil』。

 蝙蝠こうもりは、悪魔に恐れをなしました」

「私の大◯ぃっ!!」

「『◯イジ』、誰?」



「『Battle』!!

 血沸き肉踊る、男達の聖地!!

 これには、さしもの蛍音けいとも、分からず屋ではいられない!!」

「『Death』。

 相手に死をもたらす虚しさにより、戦士達はたちまち、戦いを止めました。

 はい、ハント」



 ……うん。

 かったね、ワンチャン。



「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」



 ハイになり、灰になり、消えかける安灯あんどう 明歌黎あかり

 流石さすがの俺でも、見るに見兼ねた。



「……パフェ、食べに行きます?」

「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラアーモンドトフィーエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ!!」

「それスタ◯」



 健闘、そして噛まずに一息で間違えずに躊躇ちゅうちょく言えた功績を讃え、ハーゲ◯を奢った。

 何故なぜか、目の前では食べなかったけど。

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