0-3
あの偉そうな立ち振舞から予想していたが、俺に暴行を加えた男子は、御曹司らしい。
それも、この高校に巨万の富を与えてる出資者だとか。
そんな
それから今後は、身勝手な行動は謹んで
気を失い、保健室のベッドで目を覚ました直後に、そんな話を校長から直々に聞かされた。
事実確認もせず、心配する素振りも見せず、ただ一方的に
保護者のジジ、ババを呼ばず、連絡すら取らず、
この感じだと、向こうの父親にも、
そういう
あのクラスメートは、『トランス』だったのかと。
トランス。
名前の由来は、そのまま『夢現』。
素行や意地、
抑圧された自尊心を解放し、リアルでも暴力事件を起こしたりするアウトロー。
『
違反者には、公明正大に処罰される。
しかし、実際に検挙された人間は一様に、
具体的には、「暴力的な類は問答無用で捩じ伏せる『
が、その実、本人の生来の粗暴さ、エゴなどが原因となるケースが
そんな『
のだが。
どうやら、そうは思わない、卑しい人種は残存しているらしい。
あれ
どう見ても、一介の高校生の出せる物々しさではない。
そして学校側も薄々、
あいつや俺の家族は
根っこから腐っているんだなぁと、ぼんやり思った。
こうなった以上、
こんな場所に通っていたら、次こそは
生きるのは億劫だけど、
極力、平穏に暮らしたい。
となれば……俺が取るべき行動は、一つ。
「……ジジ。
……ババ。
……ちょっと、
帰って来て早々に、二人に包み隠さず明かした。
ジジは、大好きな音楽番組を付けていたテレビすら消して、合いの手を挟んだりもせず、真顔で、俺の言葉に耳を傾け続けてくれた。
ババは、俺の隣に座り時折、俺の手を握ったり、頭を撫でたり、抱き締めたり抱き寄せたりしながら、静かに涙を流していた。
「……ケイちゃん。
仕返ししたり、しなかった。
偉かったわね、ケイちゃん」
一通り話し終えた頃、最初に口を開いたのは、ババの方だった。
まるで美談の
「……しなかったんじゃないよ、ババ。
出来なかったんだよ。
俺は、小心者だから」
「それは、あなたが
さぞかし、辛かった、痛かったでしょうに」
ババの優しさを受けても、上手く言葉が出なかった。
代わりに、涙が
「……
俺に近付き、肩に触れ、ジジは
「お前は、間違ってない。
お前は、
婆さんの言う通りだ。お前は優しく、そして強い。
今回の件は明らかに、そのボンボンと学校側の過失。
延いては俺達の責任だ」
「そんなっ……!!」
最後の一言だけは
が、ババに止められ、座り直す。
「……すまんかった。肝心な時に、力になれんで。お前を、助けられんで。
俺達に残されたのは、もうお前しか
お前は、俺達の息子と
「そうよ、ケイちゃん。
困ってたら、ちゃんと相談して
困ってなくても、どんな些細な
家族なんだから」
……思い返してみれば、ここに来て、ジジとババに引き取られて十年は経ってるのに、これまで
俺が本当に話すべき場所は、学校ではなかったのかもしれない。
「うん……」
今度からは、ちゃんと話す。
そう伝えたかったのに、相変わらず上手く喋れなかった。
なまじ
「
お前は、どうしたい?
ゆっくり、少しだけで
お前の気持ちを、俺達に教えてくれ」
ジジが、優しく問い掛ける。
「……転校したい。
あんな怖い所、
あそこは、悪の温床だ。
もう二度と、御免だ。
俺は、覚悟を決めた。
ここまで話が進んだ以上、もう聞き手に徹してはいられない。
俺が、自分の意思と意志を、きちんと表明しなきゃならないんだ。
「だから、ごめん、ジジ、ババ。
俺……ここを出る。
もっと静かな、安全な場所で、自立する」
今は、初夏。
もう
その間に、電車に乗って、新しい転校先と住居を探せば
ここへ来て、やっと痛感した。
俺が今まで
そもそも二人は、俺の両親が
っても、一人で生活費を賄うのは
せめて一人暮らし
これ以上、二人に、迷惑ばかり掛けられない。
本来なら二人は、父さんの実家でもある、この家で、バンドマンだった頃の貯金で、のんびり余生を満喫する
俺の
それは二人が、二人の
「……そうだな。
俺も、転校に賛成だ。
ただ、
「
予想はしてた。
どんなに
「
お前の転入先、新しい住居はもう決めてある。
お前が近頃も浮かない
もしもの時に備え、校長をやってる幼馴染に、頼んでおいた。
そんなに偏差値も高くないし一度、婆さんと下見に行ったが、ありゃあ
学生も生徒も
こんな老いぼれでも、心から手厚く歓迎されたんだ。
そこならきっと、お前も馴染めるだろう。
ここだけの話、夏休みが終わり次第、そっちに転入させる
新しい家からも、歩いて五分もかからんし、遅刻や寝坊、忘れ物をした時には便利だろう」
……毎度の
今回は、そのコネ、コミュ力の高さにも唸らされたけど。
「……じゃあ、そこにする」
迷う余地など
ジジとババが実際に確かめたのなら、
それに、ジジの知り合いが校長先生なら、溺愛されそうな
「次に、二つ目。
バイトは、まだしなくて
お前は最近、ようやっと趣味を見付けられたばかりだ。
今は、そっちに専念しなさい。
どうせ、あと数年もすれば、
まだ小説を仕事にする
きっと、その方が、お前の将来に
「……分かった」
保護者に『将来』なんてワードを出されたら、子供は
「最後に、三つ目」
さんざDVDで観せられた、焼き付けられた、若かりし頃の、野心に満ちた瞳。
その輝きを再び宿し、ジジは
「俺と婆さんも、連れて行け。
もう二度と、お前を一人に、被害者に、孤独になんぞして
「……え……」
まさかの展開に、絶句する。
そして、
この条件を最後に持って来たのは、俺の油断を突く
「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
無意識に立ち上がり、俺は反論する。
自分の中に、まだこんなにも感情が眠っていたのかと、驚かされながら。
「この家を、手放すの!?
ジジとババが、父さんと過ごしてた、この家を!?」
「別に、売りに出す
ご近所さん方にも時々、気にして
それなら、問題
そもそも、こんなオンボロな一軒家、誰も手出しなどするまい」
「それはっ、まぁ……そうかもだけどっ」
そこを出されると、
確かに、まっくろくろす◯が出てきそうな、お化け屋敷っぽい雰囲気だけども。
でも、これはこれで趣が
……三人が暮らしてた、大切な家なのに。
「……答えは、
それより、出発するぞ。
部屋で着替えて来なさい」
「行くって……どこに?」
「
それだけ
ババも、優しい眼差しでポンッと肩を叩き、それに続いた。
俺は仕方なく、言う通りにした。
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