5-5

「さて、と……」



 伸びをし、軽くストレッチをし。

 ずは、洗面所へと向かう。

 


 顔を洗い、ジジとババに挨拶。

 続いて、ネットでデジタライズ食品を買い、一部をマテリアライズさせ、食事を済ませ。

 ついで、体内の掃除も完了させ。

 いよいよ、執筆を開始だ。



 ズブの素人な都合上。

 スランプだなんて、気取るもりはいけど。

 これまで俺は、イマイチ、書けずにいた。



 でも、今日は違う。

 俺は、『Sleapスリープ』の呪縛から解かれた。

 家族や一部の関係者しか知らなさそうな、彼女の謎も解き明かせた。

 


 彼女への思いが、言葉が、叫びが。

 こんなにも、俺の心で、頭で、喉に貼り付いてる。

 今なら、きっと、書けるはず



 ……いや。

 まだ、残ってる。

 レイに誓った、最終課題。

 倒すべき、乗り越えるべき相手。



 夏休み前までの、俺の黒歴史。



「となれば、題材は……。

 ……一つしか、いな」



 文字にすることで、えて克服せんとほっし。

 俺はトケータイから、ペンとノートをマテリアライズし。

 俺の心と脳にリンクさせ、目にも止まらぬ速さで、俺の独白を紡いで行く。



 最初こそぎこちなかったけども。

 今では、手足のように動かせる。

 気分は、さながらオーケストラの指揮者だ。



 にしても、やはり気持ちい。

 最早リズミカルにすら思える、ギターの超絶ソロのような、擦れる音も。

 俺の字で、俺の言葉で、空白が黒で埋められていく、この高揚感も。

 

 

 そうやって、没入しつつ。

 俺は、過去と向き合い始めた。



 もう、大丈夫。

 だって、なにも黒歴史だけじゃない。



 その直後に、白歴史だって控えてるんだと。

 俺は、すでに知ってるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る