5-4

 覚悟を新たにしていると、不意にトケータイの通知音が鳴った。

 どうやら、リアルの俺が、眠りから目覚めつつある模様もようだ。

 今夜ここに留まれる時間は、もうわずかしか残されていない。



「行くのね」



 トケータイを見下ろしていた俺を、見詰めるレイ。

 俺は、引き締めた顔で答える。



「ああ」

「そう。

 これから、どうするもり?」

「『Sleapここ』にる時と同じだよ。

 相変わらず、飽きもせず、物語を紡ぐ」

「……出来できるの?」

「まぁ、なんとかなるだろうさ。

 ブランクもるし、リハビリも不完全だけど。

 どうにか、してみるよ。

 奥付けなり末尾なりで、待ってる人がるんでね」

「……そうね。

 応援してるわ。

 陰ながら」



 拳を突き出し、激励するレイ。

 察し、拳を合わせる。



「あ。

 その前に、メイに会わないとっ!

 誓ったんだよ、彼女と!

 すべてが分かったら、ちゃんと話すって!」

「抜けてるわねぇ。

 それをきちんと把握するためにも一旦、とんぼ返りするんじゃない。

 あなた自身とも、向き合わなきゃなんでしょ?」

「でもっ」

「お黙り」



 異論を唱えさせまいと、スタンドで軽く叩いて来るレイ。

 それって、そんな、ロックな用途じゃなかった気が……。



「そもそも。

 今は、あたしとのデート中でしょ。

 あたしともあろう人間と、一緒にるのよ?

 他の女に、目移りしてるんじゃないわよ」

「『他の女』て……。

 君の、分身だぞ……?」

「間違ってないわ。

 あたしは、あたししかないんだもの。

 大体、文句がるなら、自分から言いに来るのが筋よ。

 なんなら、あなたが呼べば?

 そのまま、『フるから会いたい』って」

「無茶言わんでくれ……」



 ただの真性ドクズだろ、それ……。



「さぁ、ケート。

 この場は大人おとなしく、あたしの声の奴隷となりなさい。

 渋る、あまつさえ断るようなら」

「……なら?」

「……戻って来た時を、楽しみにしてなさい。

 素敵な殺戮ショーで、晒し首にしてあげるわ」

「うお〜!!

 レイのステージ、楽しみだな〜!!」



 最大級のスマイルを浮かべるレイに対し、血涙を流しながら盛り上げる俺。

 それを見て、レイは実に満ち足りた様子ようすだった。



 どうしよう……。

 なまじ猟奇さを内包してる分、マジにしか思えないぞ……。



「冗談よ。

 いから、リラックスなさい。

 今から数分。

 あなたとあたしは、歌で一つになる。

 あなたは、あたしとクロスだけしてればい。

 他の感情も、干渉もらない。

 ……違う?」



 意見なんてさせない眼差しで、突き付けるレイ。

 その一言で、俺は正気に戻る。



「……ううん。

 違わない」

「分かればよろしい。

 従順すなおな子は好きよ」



 なにやら、怖い当て字をされている気がするが。

 それは、置いといて。



 こうして、レイのステージが始まる。



 メイと違って、振り付けなんて一切い。

 そもそも、原曲に全く忠実じゃない。

 替え歌とシャウトとアドリブと投げ込み混じりの、アグレッシブな。



 格好かっこさと美しさを兼ね備えた。

 したたかさと、しなやかさを両立した。

 実にレイらしいパフォーマンスだった。



 ライブを終え、息を切らすレイ。

 そのまま呼吸を整えずに、俺を指差し、撃ち抜く。



 刹那せつな、俺の前からレイが消え。

 見慣れた、無機質な部屋に。

 現実へと、逆戻りした。

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