5-3

 ここは、さながら『黎明レイメイ』。

 光と闇、朝と夜、うつつと夢が混在する。

 そんな、魔の境界線、交差点。



 どれだけ光、希望、理想が、さんざめいていても。

 常に罪悪感、背徳感、自己嫌悪とセットで。

 所詮は夢だと、覚め、冷めてしまう。



 そんな、思わせ振り、空振りに満ちた世界。

 それが、『Sleapスリープ』の実体。

 言うなれば、「強化型妄想実体化装置」に他ならない。



 この世界での出来事は共有されず、スリープ中の使用者の記憶にしか残らない。

 そもそも、リンク機能など備えられておらず。

 しかも、『Sleapスリープ』に存在する他者は全員、使用者の記憶やイマジネーションによって作られた偽物。

 早い話が、スマブ◯のゲストの様な存在である。

 


 無論むろん、俺は、レイメイのことを、現実でも覚えてるし、考えられる。

 しかし、そういった出来事が、俺の中で完結しており。

 そんな状況で、他者とのシェアなぞ出来るはずもない。

 昨晩のプレイ内容を公言する変質者が蔓延はびこる世界など、どこに有るというのか。



 ここで言う、『プレイ内容』。

 それは勿論もちろん、ゲームのことじゃない。

 もっと恥ずかしく、口にするのも憚られるような趣旨の類だ。



 そもそも、ギリ公序良俗に則った範囲内であれば、『Sleapスリープ』内での自家発電も可能。

 つまり、「誰もがグラビア化される」。

 おまけに、「好きな子が夜な夜な人知れず、完全再現でオカズにされているかもしれない」。

 今は、そんな、とんでもない時代なのである。



 しかし、こういった背景に恵まれた事で、性犯罪の件数は急下降。

 更に、ミソジニストやミサンドリスト、ショービニストやフェミニストの減少にも繋がった。



 そんな中、新たに開発された、ナコード。

 これが、それまでの常識を、根底から覆した。



 その理由は、2つ。

 想像力も知識量も記憶力も度外視した、最初から完成された、圧倒的にリアルな再現度。

 そして、解除された、色めき絡みのセーフティ。



 つまり。

 ナコードを渡すということは、『操を捧げる』のと、ほぼ同義なのだ。

 それも公認、同意の上とはいえ、本人に詳細を勘付かれないまま。



 そして、今。

 俺の意中の相手は、そのナコードを、俺以外にも配ろうとしてる。

 しかもろうことか、学生や先生のみならず、見ず知らずの相手にまで。



 あまつさえ、彼女がどれだけ配るのかも不明。

 まかり間違えば、不特定多数に、夢の中で彼女が蹂躙されるかもしれないのだ。



 こんな理不尽を、許可出来できはずい。

 仮にも意中の相手が、そこまでネタにされて、面白いはずが、心中穏やかのはずい。



 だから。

 俺は、戦わなくてはならない。

 彼女を、守るために。

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