第5夜「レイメイ」

5-1

 結論から言おう。

 レイがたのは、所謂『汚部屋』だった。



 そう呼称する他ほどに。

 隅から隅まで、物で溢れ返っていた。



 でも俺は、それを「ゴミ」などとは呼びたくなかった。

 そんなふうには、捉えたくなかった。



 足場が真面まともい状態で、決して踏まないように注意しつつ。

 それでいて、なるべく音も立てないように意識しつつ。

 少しずつ、彼女に近付き。



 そっと。

 俺は、レイに手を差し伸べた。



「レイ。

 ……助けに、来たよ」



 声を掛けられ、ハッとするレイ。

 ようやく、俺が入って来た事実に気付きづいたらしい。



「……ケート?

 なん、で……」



 ぼんやりとしゃべったあと、再び我に帰り。

 ぐ様、レイは、家探しを始めた。



 そこら中に無残に捨てられている自分の中から。

 俺に会えるだけの自分スーツを、フィッティングしようとした。



 とどのつまり。

 ここは部屋なんかじゃなく、だだっ広いクローゼットで。



 辺り一面に放置されていたのは、ゴミなんかじゃなく。

 余所行き用の、レイの姿だった。



 簡単なことだ。

 気持ちの断捨離が済んでないのは、メイだけじゃなかった。

 それだけの話。



 だって、そうだろ?

 ここは、俺の『Sleapせかい』。

 一心同体の彼女達が、その影響を受けないはずい。



なんで……!

 ……なんで、そっちから来るのよっ!

 先んじて待ってるのが、あたしの役目でしょ!?

 あなたから、攻めて来てるんじゃないわよっ!」



 八つ当たりし、まれに俺にスーツを投げながら。

 なおも捜索するレイ。



 けど、駄目ダメだった。

 ぐにあきらめ、ぐったりと崩れ落ちた。



「……見ないでよ。

 こんな、ダサいあたし



 寒くもないのに腕を抑え、ガクガクと震え。

 レイは、俺に訴える。



「違うの……。

 ケートだって、知ってるでしょ……?

 いつもは、だませるの……。

 普段通りでさえいれば、ちゃんと着飾れるの……。

 言い繕えるし、見繕えるの……。

 ただ、今は、ちょっと調子悪いだけなので……。

 なにもする気になれないだけなの……。

 こんな、駄目ダメあたし……。

 ……見ないでよぉ……」



 俺は、床に座り。

 正面から、レイと向かい合い。



 無言で、彼女を抱き締めた。



「……ダサくない。

 ダサくなんか、ないよ、レイ。

 だって、君は……こんなにも、俺のために、動こうとしてくれた。

 俺の前で精一杯、輝こうとしてくれたじゃないか。

 君は、格好かっこいよ。

 最初に、きちんとお目にった、あの日から、絶えず」



 クールってる割に、ぶっつけ、ぶっ続けで、ぶつかって来て。

 


 つっけんどんな素行不良のくせして、きちんと飴も用意してて。



 きらってるふうに装ってるのに、俺への好意を隠せてなくて。



 大事なことは、ほとんど教えてくれなくって。

 そのくせ、歌ってる時だけは、熱情を剥き出しにする。

 


 そんな、俺の残響。

 夏休み最終日の、雷鳴。



 俺の、『未恋みれん』。



「ケート……。

 ……あなた、まさか……!?」

「……なんとなくだけど、気付きづいたよ。

 安灯あんどう 明歌黎あかり仕掛しかけられたカラクリ。

 彼女と接する時に、決まって付き纏っていた、違和感いわかんの正体に」



 彼女の頭を撫でつつ、俺は最大限のスマイルを提供する。 



「それと、ごめん。

 君をそこまで追い込んだのは、俺だ。

 いつまでもハッキリせず。

 時代とか、過去とか、トラウマとか、『Sleapスリープ』の所為せいにばかりして。

 その気なんて、勘違いしてる節なんて、かたくなに見せなくて。

 しまいには、相手が仕掛しかけて来ただけで、嫉妬し、勝手に裏切り認定してる。

 そんな、俺の脆弱さ、狭量の所為せいでもある。

 ……君だけが、悪いわけじゃないよ」



 届いてしい。

 轟いてしい。

 俺の気持ちの、ほんの少しだけでも。



 だってさ、レイ。

 俺は、これでも君達に、感謝してるんだ。

 君達のおかげで、低迷から解き放たんだから。



 でもさ。

 いつまでも、誰かにばっか頼っていられないんだよ。

 そろそろ、俺も強くならなきゃなんだよ。



 彼女が、この、倦怠期みたいなのを終わらせたのなら。

 俺も、冷戦染みたやり取りから、卒業しなきゃなんだよ。



 偽りだらけの仮初かりそめかりそめ

 借りてるだけじゃ、足りないんだよ。



 俺の決意を、汲み取ってくれたらしい。

 部屋に無造作に置かれていたレイの側が、1か所に纏まり、一つとなり。

 やがて、レイと融合した。



 レイは、落ち着きを取り戻し。

 軽く手を動かし、強気に微笑ほほえみ。

 片腕を腰に当て、立ち上がり。

 ぐに、こちらを捉えた。



「……終わらせるのね。

 この、宙ぶらりんな関係を」

「そうしなきゃ、始まらないんだ。

 俺達の物語は」

「そうね。

 でも、いの?

 まだ証拠不十分で、立件出来できないんでしょ?」

「ああ。

 だからこそ今、こうして現れてる。

 他でもない、君の前に」



 起き上がりながら、あっけらかんと答える。

 レイは、やや目を見開いてから、堪らず吹き出した。



「あなた……。

 意外と、肉食ね。

 しかも、性悪」

「メイにも言われたよ。

 でも、お誂え向きだろ?」

「ええ。

 まったもって、正論だわ」



 小生意気に笑うレイ。

 そのまま、残り時間を確認し、俺に提案を持ち掛ける。



「まだ、猶予はるわよね?

 ちょっと付き合いなさい、ケート。

 あたしが、い所に連れてってあげるわ」

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