4-3

「暇」



 仮想の部室に戻り。

 機嫌が戻ったメイに、またしても開口一番に言われた。




 嘆息したあと

 俺は精一杯、彼女の要望に応えんとする。



「じゃあ、クイズ」

「やったっ!!」



 即座にペンと紙と消しゴムを用意し、スタンバるメイ。

 現金というか、無邪気というか。

 そもそも、そこまで難解でも面白くもないのだが。



ず、メイ。

 君は、どこかでバイト中の身とする」

「うん」

「君の職場には、ハブがて。

 そこでの休憩は、スタッフの志願制だとする」

「……うん」

「そんな中。

 君は、くだんの相手と一緒に、休憩に入ろうとする。

 それは、なんでだと思う?

 理由を考え、述べよ」

「はい、先生っ!

 質問、いですかっ!?」

なんだ?」

「年頃の異性に向けて、そんなセンシティブなクイズ出すのは、どうかと思いますっ!」

いやなら、流して結構」

ついでに言うと、拗ねるのも大人気おとなげいと思いますっ!」

「はい、シンキング・タイム終了」

「付け足せば、気不味きまずくなったからって、制限時間を明示してもいないのに、雑に強制終了させるのは、男の風上にも置けないと」

「早よ、答えんかいっ」



 なんでまた、喧嘩してるんだよ。

 これを避けるためにも、始めたクイズだろ。



 などと思いつつ、メイに命じる。

 メイは、唇を歪めペンを乗せ、少し不服そうにしながらも返事をする。



「うーん。

 ……『同情』、とか?

 あるいは、『ポイント稼ぎ』?  もしくは、『自己陶酔』?」

「君の回答だって、大概じゃないか」

「設問からして、止むしだよね? で? 当たり?」

「ハズレ。

 正解は、『ハブが早々に外出するのを見越し、ゆっくり一人で休憩を満喫、独占するため』。

 でしたー」

「うわぁ。

 ダン凸で、ネガティブだぁ。

 ケートくんらしいけどぉ」

っとけ」



 人が数秒、全力で編み出したクイズにれケチ付けんな。

 そもそも、こっちは。



「ーーやっぱり、私じゃ、気乗りしない?

 レイじゃないと、駄目ダメ?」



 途端とたんに、我に帰った。

 見透かしたメイは、思わせ振りに自嘲した。



「分かるよ。

 だって、そういうことでしょ?

 君が、『答えを出した』っていうのは」



 うつむけていた顔を上げ、メイは泣き笑いした。



「……かった。

 今度は、正解だ。

 でも、ごめん。

 本当ホントは……違ってて、しかった。

 君には、ここに留まってしかった。

 ずっと……そばに、たかった……」



 反対側から移動し、俺に抱き付いて来た。

 危うく倒れそうになりながらも、かろうじて受け止める。



「……そうだよね。

 やっぱ、駄目ダメだよね。

 光ってるだけじゃ、寄り添ってるだけじゃ、解釈違いだよね。

 高速掌返しを承知の上で、合わせてるようじゃ、コレジャナイよね。

 時には反論、反抗も出来できなきゃ、対等とは、リアルとは。

 ……恋人とは、言えないよね」

「メイ……」

「言わないで。

 ちゃんと、分かってる。

 君が焦がれてるのが、どっちの私なのかも。

 単なるフォロワーにぎない私には、勝ち目なんて少しもことを」

「……ごめん」

「あはは。

 してよ、ケートくん。

 余計、みじめになっちゃうよ」

「それでも、俺は。

 君に、謝らなきゃならないんだ。

 これが、俺なりの、ケジメだから」

本当ホント……罪だなぁ、君は」

「……だな」


 

 自覚してるよ。

 俺は、悪い男だって。



「……ねぇ。

 、ケートくん。

 一つだけ……誓って、くれる?」



 俺の胸に手を当て、頬を埋め。

 メイは、懇願する。



 俺は、うなずきつつ、噛み砕き、噛み締める。

 彼女の言った、『私の』の、その意味と重要性を。



「私のことは、もうい。

 昨日のライブと、今日のデートで、満足した。

 今の、どっちつかずな君とても、楽しくないしさ。

 でも、このまま残念に終わったら、男が廃るよね。

 だからさ、ケートくん。

 せめて、最後に。

 レイを……あの子を、助けてくれないかな?」

「それが……君の、願い?」

「ううん。

 そんな、簡単な、軽い物じゃない。

 これは、れっきとした『命令メイレイ』。

 君には、是が非でも、レイを救ってもらわないといけない。

 さもなくばさ……嘘じゃん。

 全部、全部……無駄に、なっちゃうじゃん」



 そうかもしれない。

 俺自身、そう思った。



 けど、肯定出来できなかった。

 どうしても、したくなかった。



「……っ!!」

「きゃっ」



 メイを、抱き締めた。

 気付けば、俺まで涙していた。



本当ホント……ひよっ子だなぁ、君は。

 なにも、君まで泣かなくても……」

「……うるさい……」

「あー。

 もしかして、これも戦術のうち

 そうやって、泣き落とそうって腹だぁ。

 本当ホント……いけない子だなぁ、君は。

 一体、誰に似たのかなぁ」

「……巫山戯ふざけろよっ……」




 こっちの不器用さ、熟知してるくせに。

 自分だって、少なからず傷付きずついてるくせに。

 そうやって、揶揄からかって、誤魔化ごまかして。



 俺の弱味は握りまくってるのに。

 自分だけは、脆さなんて徹底的に見せてくれなくって。



 そんなに歳も離れていないのに。

 実母でも実姉でも、ましてや幼馴染とかでもないくせに。

 こっちだって、もう高校生なのに。

 


 お姉さんって、ハグなんかして来る。

 そうやって、宥めようとして来る。

 その程度で、俺が容易たやすく懐柔出来できると決め付け、信じ込んでる。



 ああ、本当ほんとうに。

 どこまでも、子供扱いしおってからに。



 そういう所が、嫌いで、苦手で。

 でも、いやな気持ちもしない自分も、嫌いで。

 憎めなくて、拒めなくて。

 


 そんな、憧れの残光。

 一夏の、淡い一欠片。



 俺の、『非恋ひれん』。



「……大丈夫。

 大丈夫だよ、ケートくん。

 なにも、本当ほんとうに、すべてが消えちゃうわけじゃない。

 だって、君は。

 こっちの私を、変わらず今も求めてる。

 ここまで判明してもなお、必要としてくれてる。

 形はちがえど、別枠として、残してくれてる。

 私達は、絶えずつながってる。

 君が、君である限り。

 君も、私達も、消えたりしない。

 私は、彼女の一部だから」

「ああ……」



 メイを包み込み。

 俺は、涙ながらに断言する。



「……確約する。

 ここが、そういう世界だからってだけじゃなく。

 絶対ぜったいに、忘れない。

 おざなりにだって、決してしない。

 君のことも、レイのことも。

 ……現実の、君のことも」

「……うん。

 ありがとう。

 ケートくん」



 さらに奥まで顔を押し付け。

 なにかをこらえた声色で、メイは続ける。


 

「あはは……。

 にしても、悔しいなぁ……。

 てっきり、『本命』になれるとばかり、思ってたんだけどなぁ……」

だけに?」

「君って、本当ホント鈍いよね」

「言葉遊びが好きなんだ。

 条件反射的にも、やっちゃうんだよ」

の間違いでしょ?」

「そうかも。

 メイ、リアクションしいだから」

「おバカ。

 こちとら、一世一代の告白した直後の女だよ?

 ネタ枠みたいに扱わないでよ」

「……え?

 さっきの、そうだったの?」

「コラァ!!

 今、ボキャ貧だって、馬鹿バカにしたなぁ!?

 言っとくけど、君の経験不足の所為せいでもあるんだからなぁ!?」



 怒られた。

 割と、本気で。

 そのまま、ポカポカと胸を叩かれた。



「……本当ホント、ごめん。

 でも……ありがとう。

 メイ」



 可愛かわいらしい攻撃が終わったのを見計らい。

 素直に、感謝を伝える。



 メイは、少し不満そうに顔を背けつつ、横目で見て来た。



「謝罪だけで済ませなかったから、有罪放免とする」

なんだ、それ」

いのっ!!

 そういう気分なのっ!!」

「分かった、分かった」

「めっちゃ雑っ!!

 全然、分かってないっ!!

 やっぱ有罪、鉄拳制裁っ!!」

「ギャー。

 メイに、消されるー」

「消さないもん、おバカっ!!

 ちょっと懲らしめるだけだもんっ!!

 そんな勿体こと出来できないもんっ!!」



 またしても、スイッチしてしまった。

 俺はすべく、彼女にポコスカと殴られた。



「時間が惜しい。

 そろそろ、行かないとだよ。

 レイの所」

「空費させたの、君だろ……」

「ケートくんが煮え切らないからでしょ」

「煮詰まってるって言ってくれ」

「同じじゃん、それ」

「全然、違うよ。

 君こそ、男心ってもんが分かってないな」

「知らないよ。

 そんな、ネットの辞書にすら載ってない言葉」



 の割には、妙に詳しいよーな……。

 ……藪蛇やぶへびだから、伏せとくか。



「それより、ほら。

 目を閉じて、意識を研ぎ澄ませて。

 この世界にる、レイの居場所を探知するの。

 そしたら、それを頼りに、ワープで迎えに行って」

「……一人で?」

「当たり前じゃん。

 こういうのは、男の子が勇気出して単身で来るのが様式美、セオリーなの。

 他の女が同伴じゃ、格好かっこ付かないし、締まらないでしょ?」



 腰に手を当て、力説するメイ。

 俺は挙手し、異を唱える。



「少なくとも君は、レイにとって、他人じゃないだろ?」

「そういうんじゃないのっ!

 私だって、気持ちの断捨離が済んでないのっ!!

 いから、さっさと、言われた通りにするっ!

 君なら、ちゃっちゃと出来できるでしょ!?

 どうせ、この世界には、他に住人なんてないんだしっ!!」



 ……メイの発言も、中々にエグい気もするが。

 稚児ややこしくなるのが明白だから、黙っておこう。




 支持を受けた通り。

 俺は目を閉じ、マップを広げるイメージで、意識を向ける。



 た。

 そんなに離れていない。

 


 ただ……なんだ?

 変に、弱々しい?

 デフォで強気で勝ち気なレイにしては、めずらしいな。



「んんっ!」



 いぶかしんでいると、不意にメイが咳払い。

 そのまま、腕時計を指しつつ、指を3本、ピンッと立てた。


 

 何故なぜサイレントなのかは不明だが。

 つまり、『残り3時間』というメッセージ。



「……ええい、ままよ!」



 みずからを奮い立たせ。

 俺は、レイの元へと、テレポートした。

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